人の心はうつろいやすく、人生の道は平坦ではない。
世間の航路には曲がりくねった険しさがあり、
必ずしもすんなり通れるとは限らない。
そうした「通れない」場面に出会ったときには、
無理に突き進もうとせず、自分の方から一歩退き、
相手に道を譲ることを学ぶべきである。
また、たとえスムーズに進める状況でも、
その道の三分くらいは譲る余裕を持つことが、
長く穏やかに世を渡るための秘訣である。
譲ることで失うのではない。譲ることで、かえって人生はうまくいくのだ。
「人情(にんじょう)は反復(はんぷく)し、世路(せいろ)は崎嶇(きく)たり。
行(い)き去(さ)られざる処(ところ)は、須(すべか)らく一歩(いっぽ)を退(しりぞ)くるの法(ほう)を知(し)るべし。
行き得(う)去(さ)る処は、務(つと)めて三分(さんぶん)を譲(ゆず)るの功(こう)を加(くわ)うべし。」
注釈:
- 人情は反復し(にんじょうははんぷくし)…人の心は定まらず、変わりやすい。情勢や感情は常に流動的である。
- 世路は崎嶇たり(せいろはきくたり)…世の中の道(人生)は、険しく曲がりくねっている。予想どおりに進まない。
- 行き去られざる処(いきさられざるところ)…前に進むことができない局面、行き詰まる場面。
- 一歩を退くるの法(いっぽをしりぞくのほう)…自らが一歩引いて場を収める術。柔軟で賢い対応。
- 三分を譲るの功(さんぶんをゆずるのこう)…進める場面であっても、少しは他人のために譲る心。円満な人間関係を築く知恵。
1. 原文
人情反復、世路崎嶇。
行不去處、須知退一步之法。
行得去處、務加讓三分之功。
2. 書き下し文
人情は反復し、世路は崎嶇たり。
行き去られざる処には、須らく一歩を退くるの法を知るべし。
行き得去る処には、務めて三分を譲るの功を加うべし。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「人情は反復し、世路は崎嶇たり」
→ 人の心は移ろいやすく、世の中の道は曲がりくねっていて歩みにくいものだ。 - 「行き去られざる処には、須らく一歩を退くるの法を知るべし」
→ 前に進めない場面では、まず一歩引くという知恵が必要である。 - 「行き得去る処には、務めて三分を譲るの功を加うべし」
→ 順調に進める場面であっても、あえて三分譲るという謙虚さを心がけるべきである。
4. 用語解説
- 人情反復(じんじょう はんぷく):人の感情や付き合いは一貫しない、移ろいやすいという意味。
- 世路崎嶇(せいろ きく):「世路」とは世間の道=人生、「崎嶇」とは険しく曲がりくねっていること。
- 行不去處(いくことあたわざるところ):行き詰まった状況、進めない局面。
- 退一步之法(いっぽをしりぞくのほう):一歩下がって事態を見直す・回避する知恵や方法。
- 行得去處(いきうるところ):順調に進める場面、問題なく通れる道。
- 讓三分之功(さんぶんをゆずるのこう):「三分」=すこし余裕や譲歩をする心、「功」=努力や価値のある行為。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
人の心は変わりやすく、世の中の道も険しく不安定である。だからこそ、進めないときは無理に押し通そうとせず、一歩引くという柔軟な姿勢が大切だ。
また、順調に進んでいるときでも、慢心せずに少し譲歩する心があれば、さらに円満な結果を得ることができる。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、人間関係と人生の進退における“柔軟さと謙虚さ”の哲理を説いています。
人の気持ちは変わりやすく、環境も予測不能であり、常に思い通りに行くわけではありません。そこで必要なのは、押しても進まないときは“退く勇気”、うまくいっているときは“譲る余裕”です。
これこそが、人として長く信頼されるための秘訣であり、どんな立場にも通じる「処世の知恵」です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
● トラブル時こそ「一歩退く」選択を
顧客との対立、プロジェクトの壁、社内の衝突──無理に押し通すと、傷が深まるばかりです。
一歩退く=相手の視点に立つ、冷却期間を取る、方向転換を検討することで、事態が改善される余地が生まれます。
● 成功時にも「三分の余白」を
順調な営業活動、評価された企画、得意な交渉でも、100%の主張ではなく、7割で満足し、3割譲る姿勢を見せることで、関係はより長続きし、信頼が積み重なります。
● 「勝って謙る」ことが信頼の基盤
力でねじ伏せるのではなく、あえて余地を残し、相手に花を持たせるリーダーシップは、チームの団結力と継続的成果を生み出します。
8. ビジネス用の心得タイトル
「退くは進む、譲るは得る──柔と謙が切り開く道」
この章句は、現代の複雑で流動的な人間関係やビジネス環境の中で、いかに賢く、柔軟に行動すべきかを指し示す実践的な智慧です。
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