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熱心さと淡白さ、そのどちらにも「楽しむ心」を

何事にも気を配り、まじめに働くことはすばらしい美徳である。
しかし、度が過ぎて苦しみすぎれば、心は疲弊し、喜びも失われ、
本来の自分らしさも消えてしまう。
また、淡白で無欲な姿勢は高潔ではあるが、
あまりにも枯れすぎてしまえば、
人を助け、社会に役立つような働きにはつながりにくい。
仕事は「楽しみながら」、熱意と使命感を持って取り組むべきもの。
心を潤し、他を潤す働きが、もっとも尊い生き方となる。


「憂勤(ゆうきん)は是(こ)れ美徳(びとく)なるも、太(はなは)だ苦(くる)しめば、
則(すなわ)ち以(もっ)て性(せい)に適(かな)い、情(じょう)を怡(よろこ)ばしむること無し。
澹泊(たんぱく)は是れ高風(こうふう)なるも、太だ枯(か)るれば、
則ち以て人(ひと)を済(すく)い、物(もの)を利(り)すること無し。」


注釈:

  • 憂勤(ゆうきん)…責任感と配慮を持って仕事に励むこと。まじめな努力。
  • 性に適い情を怡ばしむる(せいにかない、じょうをよろこばしむる)…自分の本性に合い、心から楽しめる状態にすること。
  • 澹泊(たんぱく)…淡々とした無欲な心。清らかで執着しない生き方。
  • 高風(こうふう)…高潔な精神風格。
  • 枯る(かる)…情感が失われ、潤いのない状態。過度の禁欲や無感動。
  • 人を済い物を利する(ひとをすくい、ものをりする)…人を助け、社会や世の中に役立つこと。

1. 原文:

憂勤是美德,太苦則無以怡性。
澹泊是高風,太枯則無以濟人利物。


2. 書き下し文:

憂勤(ゆうきん)は是れ美徳なるも、太(はなは)だ苦しめば、則(すなわ)ち以て性に適(かな)い、情を怡(よろこ)ばしむること無し。
澹泊(たんぱく)は是れ高風なるも、太だ枯(か)るれば、則ち以て人を済(すく)い物を利すること無し。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ):

  • 「憂勤は是れ美徳なるも、太だ苦しめば、則ち以て性に適い情を怡ばしむること無し」
     → 勤勉で慎み深い生活は美徳ではあるが、あまりに苦しみが過ぎれば、心を穏やかにし楽しむ余裕を失ってしまう。
  • 「澹泊は是れ高風なるも、太だ枯るれば、則ち以て人を済い物を利すること無し」
     → 欲を離れた淡泊な生き方は高潔ではあるが、あまりに枯れすぎてしまえば、人を助けたり世の中の役に立つことができなくなる。

4. 用語解説:

  • 憂勤(ゆうきん):心を悩ませて真面目に励むこと。勤勉で慎み深い態度。
  • 怡性(いせい):心を和ませ、気持ちよく生きること。性情が楽しむ状態。
  • 澹泊(たんぱく):世俗の欲を離れた清らかであっさりした生き方。無欲・閑寂な生活。
  • 高風(こうふう):高潔な精神・立派な風格。
  • 枯(か)る:情趣が失われるほどに乾ききった状態。過度に禁欲的な様。
  • 濟人利物(せいじんりぶつ):人を助け、世の中や他人に役立つこと。

5. 全体の現代語訳(まとめ):

勤勉で慎ましやかな生活は立派な美徳だが、
あまりに苦しみを抱えて生きていては、心のゆとりも喜びも失われてしまう。
また、無欲で淡々とした生き方は高潔な理想ではあるが、
あまりに乾ききった状態では、他人を助けたり、世の中に貢献したりすることもできない。


6. 解釈と現代的意義:

この章句は、**「極端を避け、中庸を保つことの大切さ」**を教えています。

  • 勤勉も節制も、本来は美徳です。
     しかし、それが“過ぎて”しまうと、人間らしい喜びや他者への影響力を失ってしまいます。
  • 淡泊すぎる人は、自己満足に終わり、周囲に何も与えられない存在になりかねません。
     高潔を追い求めすぎて、現実や人間味を失うのは、本末転倒です。

→ 本当の美徳とは、人間らしさを保ちつつ、他者と社会に貢献できるだけの“温度感”を持つことです。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き):

  • 「勤勉すぎて潰れてしまっては意味がない」
     真面目に働くことは尊いが、メンタルや心の豊かさが失われては持続的な成果は生まれない。
     “燃え尽き”を防ぐためには、余白や休養が必要。
  • 「清廉潔白でも、他者と協働できなければ組織の中で浮く」
     正しさだけを追求しすぎると、人間関係がぎすぎすし、孤立を招く。
     清廉であることと“融通・共感”の両立が必要。
  • 「ストイックと不感症の違いを意識せよ」
     禁欲的・理想的な姿勢は尊いが、周囲を助け、動かし、成果を生む「実効力」を失っては意味がない。

8. ビジネス用の心得タイトル:

「美徳は過ぎれば枷となる──中庸にこそ人を生かす力あり」


この章句は、「バランスの知恵」そのものです。自分を律しながらも、柔らかさと温かさを保つこと──
それが現代社会で“人としての魅力と力”を発揮する最上の道であると、静かに語りかけてくれます。


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