孟子は、口先だけで立派なことを言う人間を鋭く批判している。
「人が軽々しく意見を述べるのは、責任を持っていないからである」
この一言には、孟子が重んじる「言行一致の倫理」が凝縮されている。
◆ 言葉に軽さが出るのは、実行する気がないから
孟子がここで問題にしているのは、「べらべら立派なことを語る人」である。
- 考えも浅く、
- 行う気もなく、
- ただ「正しそうなこと」「賢そうなこと」を口にする。
こうした態度を、孟子は「責め無き(せめなき)=責任感がない」と断じる。
言葉に命を吹き込むのは、実行する覚悟であり、自らその重みを負おうとする姿勢である。
◆ 『論語』と共鳴する思想
この孟子の言葉は、『論語』の孔子の教えとも深く通じている:
- 「君子は**言に訥(とつ)にして、行いに敏(びん)ならんことを欲す」
(=立派な人ほど、言葉に慎重で、行動は素早い) - 「巧言令色(こうげんれいしょく)、鮮し仁」
(=うまい言葉や取り繕った顔には、仁が少ない)
孟子も、言葉は行動の代わりにならないという点を一貫して重視していた。
目次
原文(ふりがな付き)
孟子(もうし)曰(いわ)く、
人(ひと)の其(そ)の言(ことば)を易(やす)くするは、責(せ)め無きのみ。
注釈
- 言を易くする:軽々しく、考えなしに意見を言うこと。
- 責め無き:責任感がない。言ったことに対して、自ら責任を持とうとする覚悟がない状態。
- 吉田松陰は、「自ら責とし、自ら任とする所なきなり」と訳し、
実行しようとする気がない=空虚な意見であると読み解いた(『講孟箚記』)。
パーマリンク案(英語スラッグ)
- words-without-responsibility(責任なき言葉)
- speech-is-easy-action-is-hard(語るは易く、行うは難し)
- no-accountability-no-meaning(責任なき意見は無意味)
- empty-talk-no-weight(中身のない言葉には重みなし)
この章は、「口で語ること」と「実際に行うこと」との乖離を戒める、孟子らしい現実的かつ倫理的な教えです。
現代でも、評論家のように語って終わる人が多い中で、語るからには、行う覚悟を持てというこの言葉は、今なお響き続けます。
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