■ 引用原文(『ダンマパダ』第八章「ことば」第十二偈)
自分を苦しめず、
また他人を害しないようなことばのみを語れ。
これこそ実に善く説かれたことばなのである。
■ 逐語訳と注釈
- 自分を苦しめず:話した後に後悔したり、罪悪感を抱いたり、自身の徳を損なったりしない言葉を用いること。
- 他人を害しないような:聞く相手を傷つけたり、混乱させたり、怒らせたりしない穏やかな言葉を使うこと。
- ことばのみを語れ:慎重に選び抜いた語句であること。衝動的な言動を避ける戒めでもある。
- 善く説かれたことば(スッカター・ヴァチャ):仏陀が説いた理想の語り方。真実であり、慈悲に満ち、害をなさない語り。
■ 用語解説
- 自己を苦しめる言葉:嘘・怒り・陰口・言い過ぎ・後悔の残る発言。仏教では「妄語・悪口・両舌・綺語」に該当。
- 他者を害する言葉:侮辱・皮肉・挑発・差別的発言など。口から生じる業(カルマ)として重大な影響を持つ。
- 善く説かれたことば:四つの基準(真実・道理・優しさ・有益性)を満たす言葉。仏陀の説法や高徳の者の語りに見られる特徴。
■ 全体の現代語訳(まとめ)
自分の心を傷つけることなく、他人に害を与えない――
そのような言葉だけを語るように心がけなさい。
まさにそれこそが、仏陀が説いた「真に善き言葉」である。
■ 解釈と現代的意義
この偈は、**「ことばにおける完全な倫理」を端的に示しています。
話すことで、自分が傷ついたり、後悔したり、または他人を傷つけてしまう――
そういった言葉を避け、「自他をともに癒す言葉」**を選ぶことこそが、真の修行であり、人格の完成なのです。
現代社会では、感情的・即時的な反応が求められる場面も多く、SNSなどでも言葉の暴力が溢れています。
しかし、仏陀のこの偈はあえて問いかけます:
「あなたの言葉は、あなた自身を守り、人を傷つけていないか?」
■ ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
自己に優しい発言 | 感情にまかせて怒りをぶつけたり、不必要な後悔を招く言動は避けるべき。 |
相手を傷つけない配慮 | 正論でも伝え方を誤れば、相手を萎縮させ、関係を壊してしまうことがある。 |
フィードバックの工夫 | 相手を高める言葉を選ぶことで、成長と信頼を促進できる(攻撃的ではなく建設的に)。 |
言葉による信頼構築 | 社内・社外問わず、誰に対しても一貫して安心と尊重を感じさせる言葉遣いは、強固な関係性を育む。 |
■ 心得まとめ
「自他を傷つけぬ語りこそ、最も強く、最もやさしい力である」
この偈は、言葉による「二重の倫理」――自他の両方を守るという最も高度な言葉の使い方を示しています。
ビジネスにおいても、冷静さと慈悲を持ち、自分の立場と相手の心情の両方を踏まえた発言ができる人は、
リーダーとして尊敬され、信頼されます。
話す前にこう問うべきです――「この言葉は、自分と相手の心に光を灯すか?」
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