孟子は、恥じる感覚が人間にとって極めて重要だと説いた。言い訳を並べて自分の非を認めない者は、恥を感じない欠陥のある人間であり、そのような人間は本当に人間らしい生き方をすることができない。自分の行いや徳が他者に及ばないことを恥じない者は、決して人並みの立派な人間にはなれないと孟子は警告している。恥を思うことが、自己を律し、社会との調和を保つための基礎である。
「孟子曰(もうし)く、恥の人に於けるや大なり。機変(きへん)の巧(たくみ)を為(な)す者は、恥を用(もち)うる所無し。人に若(し)かざることを恥じずんば、何ぞ人に若くこと有(あ)らん」
「恥を感じることは人間にとって極めて重要だ。巧妙に言い訳をする者は、恥を感じることがない。自分が他者に及ばないことを恥じない者は、どんなにしても人並みの人間にはなれない」
恥を感じることで、人は自分を正しく律し、他者と共に尊敬し合うことができる。
※注:
「機変の巧を為す者」…巧妙に言い訳や言い逃れをする者。
「恥を用うる所無し」…恥を感じない、羞恥心が欠如している者。
「人に若かざることを恥じず」…他者に及ばないことを恥じない態度。
『孟子』 公孫丑章句(上)より
1. 原文
孟子曰、恥之於人大矣。為機變之巧者、無所用恥焉。不恥不若人、何若人有。
2. 書き下し文
孟子曰(いわ)く、恥(はじ)の人に於(お)けるや、大(だい)なり。機変(きへん)の巧(たく)みを為(な)す者は、恥を用(もち)うる所無し。人に若(し)かざることを恥じずんば、何(なん)ぞ人に若(し)くこと有(あ)らん。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「恥之於人大矣」
→ 恥というものは、人にとって非常に大切なものである。 - 「為機變之巧者、無所用恥焉」
→ 巧妙に立ち回って機転を利かせることばかり考える人は、恥を使うところがない(=恥を意識しない)。 - 「不恥不若人、何若人有」
→ 他人より劣っていることを恥ずかしいと思わなければ、どうして人より優れることができようか。
4. 用語解説
- 恥(はじ):倫理的に自らを省みて、正しくあろうとする心。人格形成の根本。
- 大(だい)なり:「大いなるもの」「重要なもの」という意味。
- 機変(きへん):臨機応変・ずる賢さ・策略的な立ち回り。
- 巧(たく)み:器用さ・要領の良さ・表面的な技術。
- 無所用恥焉(もちうるところなし):恥を感じる場面がない、もしくは恥を感じない性質。
- 不若人(ひとにしかざる):他人より劣ること。
- 何若人有(なんぞひとにしくことあらん):「どうして他人より優れることができようか」の反語表現。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孟子はこう言った:
「恥という感情は、人間にとって非常に大切なものである。
ところが、臨機応変にうまく立ち回ることばかりを考えている人には、“恥を感じる心”を使う余地がない。
もし、自分が他人より劣っていることを恥じる気持ちがなければ、どうして他人より優れた人間になることができようか。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、孟子が人間の「徳」の核心を“恥の感覚”に置いていることを如実に示しています。
- 恥は人格形成の根幹
道を踏み外すこと、他人より劣ることへの内省心こそが、人を正しい方向へ導く力になる。 - 要領の良さや立ち回りでは人は成長しない
巧妙な処世術だけで生きている人には、“恥を恥じる”という倫理的反省が欠けており、それは本質的な成長を阻む。 - 向上心の根は「恥」
「自分はまだ至らない」と恥じる心があるからこそ、人は高みを目指せる。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
「恥を知ること」が成長の原動力となる
- 他人と比べて自分に何が足りないのかを直視する力が、スキルアップやキャリア形成の土台になる。
- 「恥を知る」という姿勢は、反省と向上心を自然に育む。
巧妙な立ち回りだけでは、信頼も尊敬も得られない
- 表面だけを繕う立ち振る舞い(プレゼン術、要領の良さ、責任逃れなど)は、長期的な信用に結びつかない。
- 「恥を知らない処世術」は、短期的には通用しても、やがて見抜かれる。
本当の“競争力”とは、自分を恥じて磨く力
- 評価されない、うまくいかない…そうした状況に直面したとき、「なぜ自分は至らなかったのか」と真摯に受け止める感受性が、次の成長に直結する。
- 他人と比較して「自分の未熟さを恥じる」感覚こそ、自己革新の第一歩。
8. ビジネス用の心得タイトル
「恥を知らねば、人の上に立てぬ──真の向上心は“内なる恥”から生まれる」
この章句は、孟子が説く“恥の哲学”のエッセンスであり、**「誠実な自己改善の心」**が人として、そしてプロフェッショナルとしての信頼を築く上で欠かせないものであることを教えています。
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