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礼を忘れれば、すべては裏目に出る

― 君子たる者、礼をもって人を導け

孔子は、「どんなに立派な徳でも、それが『礼』に裏打ちされていなければ害になる」と厳しく戒めた。

うやうやしさがあっても礼がなければ、ただの骨折り損。
慎み深さも礼がなければ、臆病と取られる。
勇気も礼を欠けば、ただの乱暴者。
正直も、礼がなければ冷たく響く。

さらに、人の上に立つ者が親族との情を大切にすれば、民衆も自然と仁愛を学ぶ。
古くからの友や恩人を忘れずに大切にすれば、世の中にも情けが満ちてくる。
君子の言動は、見られている。だからこそ「礼」がすべての言動の要となる。


原文と読み下し

子曰(しのたま)わく、恭(きょう)にして礼(れい)無(な)ければ則(すなわ)ち労(ろう)す。慎(つつし)みにして礼無ければ則ち葸(し)る。勇(ゆう)にして礼無ければ則ち乱(みだ)る。直(ちょく)にして礼無ければ則ち絞(こう)す。君子(くんし)、親(しん)に篤(あつ)くすれば、則ち民(たみ)、仁(じん)に興(おこ)る。故旧(こきゅう)遺(わす)れざれば、則ち民、偸(と)からず。


注釈

  • 恭(きょう):うやうやしさ、礼儀正しさの表れ。しかし形式ばかりで礼が伴わなければ空回り。
  • 慎(つつしみ):自制・謙虚さ。だが礼に支えられないと、消極性や臆病と見なされる。
  • 勇(ゆう):勇敢さや積極性も、礼を欠くとただの無謀。
  • 直(ちょく):正直さや率直さ。ただし礼がなければ、刺々しさや冷酷に。
  • 君子(くんし):人格者・リーダー層。人徳を持ち、人を導く者。
  • 篤くす(あつくす):深く思いやる。特に親族・血縁者への情の厚さを示す。
  • 故旧(こきゅう):昔なじみ、旧知の仲。忘れずに大切にすべき人間関係。
  • 偸(と)る:怠ける、軽んじるの意。恩を忘れるような薄情な社会にならぬよう戒める。

原文:

子曰、恭而無禮則勞、慎而無禮則葸、勇而無禮則亂、直而無禮則絞、君子篤於親、則民興於仁、故舊不遺、則民不偸。


書き下し文:

子(し)曰(いわ)く、恭(うやうや)しくして礼(れい)無(な)ければ則(すなわ)ち労(ろう)す。慎(つつし)みて礼無ければ則ち葸(おそ)る。勇(いさ)みて礼無ければ則ち乱(みだ)る。直(なお)くして礼無ければ則ち絞(せば)まる。
君子(くんし)、親(しん)に篤(あつ)くすれば、則ち民(たみ)、仁(じん)に興(おこ)る。故旧(こきゅう)を遺(わす)れざれば、則ち民、偸(うす)からず。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳):

  • 恭にして礼無ければ則ち労す
     → 丁寧な態度でも礼の作法がなければ、むなしく疲れるだけになる。
  • 慎にして礼無ければ則ち葸る
     → 慎重さがあっても礼がなければ、ただ怖がっているように見える。
  • 勇にして礼無ければ則ち乱る
     → 勇ましくても礼がなければ、秩序を乱すことになる。
  • 直にして礼無ければ則ち絞す
     → 正直であっても礼がなければ、相手を追い詰めるだけになる。
  • 君子、親に篤くすれば、則ち民、仁に興る
     → 君子が親(家族)を大切にすれば、民も仁の心を育てるようになる。
  • 故旧遺れざれば、則ち民、偸からず
     → 古い友人を忘れなければ、民も薄情にはならない。

用語解説:

  • 恭(うやうやしさ):相手を敬う姿勢。尊敬や丁重な態度。
  • 礼(れい):行動の規範・形式・作法。徳の実践手段。
  • 葸(し/おそれ):おびえる、怯えること。自信のなさを意味する。
  • 絞(こう/せばめる):きつく締めつける。厳しすぎる、窮屈な印象。
  • 君子(くんし):人格的に優れた理想の人。指導者・リーダー像。
  • 篤くす(あつくす):深く愛し、誠実に尽くすこと。
  • 故旧(こきゅう):昔なじみ、古くからの友人。
  • 偸(とう/うすい):薄情、冷淡、誠意の欠如。

全体の現代語訳(まとめ):

孔子はこう言った:

「礼が伴わなければ、いかに恭しくしても徒労に終わり、慎重であってもただ臆病に見える。
勇気があっても礼がなければ無秩序となり、正直さも礼がなければ相手を苦しめてしまう。
君子が親を大切にすれば、民も思いやりを学び、古い友人を忘れなければ、民も薄情にならない。」


解釈と現代的意義:

この章句は、「徳と形式(礼)の両立」の重要性を説いています。

個人の内面にある徳(恭・慎・勇・直)も、それを表す手段=礼がなければ、かえって誤解や混乱を招くことがあります。
また後半は、リーダーたる者が身近な人間関係(家族・旧友)を大切にすることが、民全体に「思いやり」の精神を広げる鍵であると教えています。

つまり、「徳ある姿勢 + それを支える礼」「家族・友情に誠実な態度」こそが、健全な社会(組織)づくりの基礎なのです。


ビジネスにおける解釈と適用:

1. 「マインドだけでは不十分──伝わる形が必要」

  • 恭しさ(丁寧さ)があっても、相手に伝わらなければ誤解を招く。
  • 正直すぎる物言いも、礼を欠くと「攻撃的」と受け取られる。
  • 慎重な判断も、説明なき慎重さでは「優柔不断」に映る。

→ 礼=伝え方・振る舞い・言葉遣い。内面の美徳を外に出す“型”が重要。

2. 「リーダーの家庭・友情への姿勢が組織文化をつくる」

  • 家族や古い友人への誠実さは、社内の信頼構築の“無言のメッセージ”。
  • “親には冷たいが部下にはやさしい”リーダーでは、真の信頼は築けない。
  • 社員・同僚への温かさの根は、プライベートでの人間関係に表れる。

→ 人格と礼節をもって接することが、組織全体の温度を決める。


ビジネス用心得タイトル:

「礼を失えば美徳は毒となる──“人間関係の型”が組織を整える」


この章句は、リーダーとしての人格とその表現(礼)の調和、そして私生活における誠実さが職場文化に与える影響を教えてくれます。

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