MENU

人に誠実さがなければ、信はなく、気転がなければ、どこへ行ってもぶつかるだけ

人として生きるには、少しでも“誠実さ(真懇)”が必要である。
それすらなければ、世間から離れ、誰からも信頼されない「もの乞い(花子)」のような存在になってしまい、
その人の行動すべてが空虚で意味のないものになる。

また、社会の中を生き抜くには、
少しは気転(きてん)、気づかい、配慮(円滑の機趣)もなければならない。
それすら持ち合わせていないと、
まるで“木偶(もくぐう)=木の人形”のように、何の反応も柔軟性もない存在となり、
行く先々で障害や軋轢(あつれき)にぶつかってしまう
ことになる。

誠実さのかけらもなく、気転もきかない人――
そのような人は、信を得られず、融和もできず、孤立していくのである。


原文(ふりがな付き)

人(ひと)と作(な)るに、点(てん)の真懇(しんこん)の念頭(ねんとう)無(な)ければ、便(すなわ)ち個(こ)の花子(はなこ)と成(な)り、事事(じじ)皆(みな)虚(むな)し。世(よ)を渉(わた)るに、段(たん)の円滑(えんかつ)の機趣(きしゅ)無ければ、便ち是(こ)れ個の木人(ぼくじん)にして、処処(しょしょ)に碍(さわ)り有(あ)り。


注釈

  • 点(てん)の真懇(しんこん):わずかでも誠実な心。人としての基本的な誠意。
  • 花子(はなこ):乞食、もの乞いの意。人から信用されず、社会の枠外にいる存在。
  • 事事皆虚(じじみなく):あらゆる言動が空虚で信頼に値しないものになる。
  • 段(たん)の円滑の機趣(えんかつのきしゅ):少しの気転・配慮・思いやり。対人関係の潤滑油。
  • 木人(ぼくじん):木偶人形のこと。反応も融通もきかない無機質な存在。
  • 処処に碍り有り(しょしょにさわりあり):行く先々で摩擦や障害が起きること。

※孟子は「至誠にして動かざる者は、未だこれ有らざるなり」として、誠を最高の徳と位置づけます。
一方この『菜根譚』では、「少なくとも“点”ほどは必要」と、最低限の誠実さのない人間の危うさを強調しています。


パーマリンク(英語スラッグ)

  • without-integrity-no-trust(誠実なき者に信はなし)
  • honesty-and-tact-are-foundations(誠と機転が人間関係の礎)
  • wooden-hearted-men-cannot-connect(木のような心では人と繋がれない)

この条文は、**人としての“最低限の基礎”**を静かに、しかし力強く説いています。

  • 誠実さがなければ、どんな言葉も行為も空しくなる。
  • 気転や配慮がなければ、人間関係はうまく運ばない。

つまり、「まっすぐでありながら、しなやかであること」。
これが、人として信頼され、生きやすくなる鍵だと菜根譚は教えてくれます。

目次

1. 原文

作人,無點眞懇念頭,便是個花子,事事皆虛。
涉世,無段圓活機趣,便是個木人,處處有礙。


2. 書き下し文

人と作るに、点の真懇の念頭無ければ、便ち是れ個の花子となり、事事皆虚なり。
世を渉るに、段の円活の機趣無ければ、便ち是れ個の木人にして、処処に碍(さわ)り有り。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 人と接するときに、少しの真心や誠意の念すら持たなければ、その人はただの見せかけの存在となり、すべての行いは空虚である。
  • 社会を渡るときに、ある程度の柔軟性や臨機応変の工夫がなければ、その人はまるで木偶人形のようで、至るところで行き詰まるだろう。

4. 用語解説

  • 作人(さくじん):「人と関わること」または「人としての在り方」。
  • 点の真懇(しんこん):「わずかでも真心のこもった誠実な気持ち」。
  • 花子(かし):飾り立てられたが中身のない存在、虚飾的な人。
  • 涉世(しょうせい):世間を渡る、世の中を生きること。
  • 段の円活の機趣:ある程度の柔軟さ・機転・気の利いた対応力。
  • 木人(もくじん):木でできた人形。融通の利かない、機械的な人間の比喩。
  • 處處有礙(しょしょにがいあり):どこへ行っても障害や妨げがある。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

人と接するときに、少しの真心も込めなければ、その人はただのうわべだけの存在となり、どんな行いも中身のない空虚なものになる。
また、社会の中で生きていくうえで、ある程度の柔軟な機転や対応の巧みさがなければ、まるで木人形のようにどこに行っても行き詰まってしまう。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、人間関係や社会生活において重要な二つの美徳を説いています。

● 「誠意」なき行動は虚無である

  • 表面上は丁寧でも、心に真実の思いや敬意がなければ、人の信頼も感動も生まれない
  • 真心という“わずかな核心”が、すべての人間関係の根底にある。

● 「柔軟さ」なき人は、社会の中で孤立する

  • 堅苦しく融通の利かない態度は、現実世界の流動性に適応できない。
  • 少しの遊び、ゆとり、気転がなければ、人間関係も仕事も行き詰まりやすい

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

● 「誠意あるコミュニケーション」こそ信頼の源

  • 顧客・部下・同僚との関わりにおいて、本音や配慮がない形式的対応では、信頼は築けない
    → 数値や成果だけでなく、「誠意のある対話」が評価される時代。

● 臨機応変な判断力と協調性が職場を支える

  • マニュアルやルール通りでは対処できない場面で、人間的機転と柔軟さがものをいう
    → 固定的思考の人材は、変化に対応できず、摩擦を生む原因になる。

● 「真懇さ」と「円活さ」の両輪が、信頼される人材の条件

  • 仕事ができるだけでも、誠実なだけでも不十分。
    → 両者が合わさることで、人間性あるプロフェッショナルが形成される

8. ビジネス用の心得タイトル

「誠意なき行動は虚、柔軟なき姿勢は礙──“真と円”が人と世を活かす」


この章句は、「心」と「技(わざ)」のバランスこそが、真に生きた人間としての姿であることを教えてくれます。
ただ真面目なだけではなく、ただ器用なだけでもなく、**“心を込めて柔らかく生きる”**ことの価値が端的に表現されています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次