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衝動よりも、慎重な計画と実行を尊ぶべき

孔子は、真に信頼できる人物とは、無鉄砲に突き進む者ではなく、
時を見ては身を引き、機を得ては力を尽くす、冷静で節度ある人物だと説いた。
顔淵には「用いられれば力を尽くし、見捨てられれば修養に励む、それができるのは我らだけだ」と語り、
猪突猛進型の子路には「虎に素手で挑み、黄河を泳いで渡るような無謀な者とは組まない。
共に行動するなら、事にあたって慎重に計画し、必ず成すべく動く者とだ」と諭した。
この一節は、行動力よりも思慮深さと戦略性の大切さを教えてくれる。


原文・ふりがな付き引用

子(し)、顔淵(がんえん)に謂(い)いて曰(い)わく、之(これ)を用(もち)うれば則(すなわ)ち行(おこな)い、之を舎(す)つれば則ち蔵(かく)る。唯(た)だ我(われ)と爾(なんじ)とのみ是(こ)れ有(あ)るかな。
子路(しろ)曰(い)わく、子(し)、三軍(さんぐん)を行(や)らば則(すなわ)ち誰(たれ)と与(とも)にせん。
子(し)曰(い)わく、虎(とら)を暴(う)ち河(かわ)を馮(わた)り、死(し)して悔(く)い無(な)き者は、吾(われ)与(とも)にせざるなり。
必(かなら)ずや事(こと)に臨(のぞ)みて懼(おそ)れ、謀(はか)りを好(この)みて成(な)す者なり。


注釈

  • 用之則行、舍之則蔵 … 用いられればその使命を果たし、用いられなければ身を引いて自らを鍛える。
  • 暴虎馮河(ぼうこひょうが) … 虎に素手で挑み、黄河を歩いて渡るという無謀な行動のたとえ。
  • 死而無悔者 … 無茶な行動をして死んでも後悔しないタイプ。ここでは子路を皮肉的に表している。
  • 臨事而懼、好謀而成者 … 物事にあたる際に慎重に恐れ、よく計画して成功させる者こそ信頼に値するという意味。

1. 原文

子謂顏淵曰、用之則行、舍之則藏、唯我與爾有是夫。
子路曰、子行三軍、則誰與。
子曰、暴虎馮河、死而無悔者、吾不與也。
必也臨事而懼、好謀而成者也。


2. 書き下し文

子(し)、顔淵(がんえん)に謂(い)いて曰(い)わく、
「之(これ)を用(もち)うれば則(すなわ)ち行(おこな)い、之を舎(す)つれば則ち蔵(かく)る。唯(た)だ我と爾(なんじ)とのみ是(こ)れ有(あ)るかな。」

子路(しろ)曰く、
「子(し)、三軍(さんぐん)を行(や)らば則(すなわ)ち誰(たれ)と与(とも)にせん。」

子(し)曰く、
「虎を暴(う)ち河を馮(ふ)み、死して悔(く)い無(な)き者は、吾(われ)与(とも)にせざるなり。必(かなら)ずや事に臨(のぞ)みて懼(おそ)れ、謀(はか)りを好(この)みて成(な)す者なり。」


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「之を用うれば則ち行い、之を舎つれば則ち蔵る」
     → 任用されれば世に出て尽力し、用いられなければ身を引いて静かに控える。
  • 「唯だ我と爾とのみ是れ有るかな」
     → このようにできるのは、私とお前(顔淵)だけだろう。
  • 「子、三軍を行らば則ち誰と与にせん」
     → (弟子の子路が)先生が軍隊を率いるなら、誰を部下にしますか?
  • 「虎を暴ち河を馮り、死して悔い無き者は、吾与にせざるなり」
     → 虎に素手で立ち向かい、大河を橋もなく渡り、死んでも悔いなしとするような無謀な者は、私は共にしない。
  • 「必ずや事に臨みて懼れ、謀を好みて成す者なり」
     → 必ず物事に直面しては慎重になり、よく計画を練って着実に成功させる者こそ、私の仲間とする。

4. 用語解説

  • 用うる/舎つる(もちうる/すつる):起用される/身を引く・退く
  • 蔵る(かくる):世に出ず、身を隠す(出処進退をわきまえること)
  • 三軍(さんぐん):大規模な軍勢。国家の軍事力を象徴。
  • 暴虎(ぼうこ):素手で虎に立ち向かう。無謀な行為の比喩。
  • 馮河(ふうか):川を浅はかに踏み越える。無計画・向こう見ずな行動。
  • 懼れ(おそれ):慎重さ、警戒心
  • 謀を好む:熟慮・計画を好むこと

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孔子は顔淵にこう言った:
「起用されれば行動し、そうでなければ静かに控える。このようにできるのは、私とお前だけだろう。」

それを聞いた子路が尋ねた:
「先生が軍を率いるなら、誰を部下にしますか?」

孔子はこう答えた:
「無謀にも虎に挑み、橋もない大河を渡って、死んでも悔いなしというような者は私は選ばない。
私は、事に臨んで慎重に行動し、よく計画を練って物事を成し遂げる者を選ぶ。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、出処進退の知恵、そして真のリーダーシップの条件を孔子が語る場面です。

  • 第一部では、「世に出るべき時」と「退くべき時」を弁えることが人格者の条件とされており、顔淵がそれを体現する希有な人物であることが称賛されています。
  • 第二部では、リーダーに求める資質として、「無謀な勇気」ではなく「慎重さと計画性」が挙げられています。

孔子は「勇者」より「賢者」「慎者」を高く評価していたことが伺えます。


7. ビジネスにおける解釈と適用

■「出るも引くも、時を読む力」

──活躍したい一心で“時流に乗ろうとする”ばかりでなく、必要なときに出て、必要なときには退く“見極め”の力が本当のプロフェッショナリズム。

■「無謀な突撃より、熟慮の行動が成果を生む」

──情熱だけで突っ込む人よりも、冷静に状況を分析し、計画をもって成果を上げる人材が信頼される。

■「自己犠牲より、戦略的貢献」

──“死して悔いなし”のような自己陶酔型ではなく、組織にとって長期的に成果を出す人材像をリーダーは見極めるべき。

■「信頼に値する部下とは、準備と判断に優れた者」

──優秀な参謀・部下は、慎重であっても臆病ではなく、計画を立て、慎重に実行し、結果を出すタイプである。


8. ビジネス用心得タイトル

「慎重さは弱さにあらず──“考え抜いて行動する者”が真の戦力」


この章句は、人材評価・リーダー育成・出処進退の判断など、多くの場面に活用できる孔子の英知が詰まっています。

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