人に利口に見られようと、あれこれ小賢しく立ち回るよりも、
素朴で実直な姿勢を貫いて生きるほうが、はるかにすがすがしく価値がある。
私たち一人ひとりの中には、天地のもとから授かった「正気(せいき)」――
すなわち根源的な命の力が宿っている。
その正気を曇らせることなく誠実に生き、
やがてその気を天地に返して静かに去るのが、自然で美しい人生である。
華やかで派手な暮らしは、結局むなしく、内実をともなわない。
それよりも、質素で飾らず、それでいて芯のある生き方のほうが、
天地にすがすがしい「清名(せいめい)」を遺すことができる。
人生は“見せる”ためにあるのではなく、“残す”ためにある。
「寧(むし)ろ渾噩(こんがく)を守(まも)って聡明(そうめい)を黜(しりぞ)け、
些(すこ)かの正気(せいき)を留(とど)めて天地(てんち)に還(かえ)せ。
寧ろ紛華(ふんか)を謝(しゃ)して澹泊(たんぱく)に甘(あま)んじ、
一個(いっこ)の清名(せいめい)を遺(のこ)して乾坤(けんこん)に在(あ)れ。」
注釈:
- 渾噩(こんがく)…素朴で飾らない状態。小細工せず、実直に生きること。
- 黜聡明(ちゅつそうめい)…知恵を見せびらかさず、自分を賢く見せようとしないこと。
- 正気(せいき)…天地の本源的なエネルギー。『孟子』でいう「浩然の気」。
- 紛華(ふんか)…華やかさ。虚飾に満ちた外見や表面的な生活。
- 澹泊(たんぱく)…淡白で飾り気のないこと。物欲や名声を求めない姿勢。
- 清名(せいめい)…清らかで後に残る名声。虚飾でなく、真に尊ばれる評価。
- 乾坤(けんこん)…天地、世の中全体。
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