人として世に処するにあたり、最も欠かしてはならぬものが常識である。
常識とは、事に当たって奇矯に流れず、また頑なにもならず、
善悪是非と利害得失を見分け、言動を中庸に保つ力である。
この常識の本体は、「智」「情」「意」の三つの力が調和した状態にある。
「智」は物事を見分ける力であり、識別と判断の眼を与える。
ただし智のみが勝って情愛に乏しければ、冷酷非道となりかねない。
「情」は人の思いやりであり、他を思う温かみである。
智に情が調和すれば、理と情とが融け合い、円満な処理が可能となる。
されど、情は動きやすく、激しすぎれば感情に流されることもある。
ゆえに、これらを制し、全体を導くものが「意志」である。
意志は心の根であり、信念と行動力の源である。
しかし、意志のみが強くても、頑固に陥りやすい。
智の明晰、情の温厚、意の堅固。
この三つを等しく養い、整え、適度に調和させてゆくこと。
それこそが、人間にとって最も必要なる「常識」の正体である。
ただ物を知るだけでも、ただ心が温かいだけでも、ただ意志が強いだけでも、
それぞれが過ぎれば偏りとなり、社会に調和することはできない。
三者の均衡と成長を図ることこそ、真に賢明なる者の道である。
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