孔子は、**人間の「志=こころざし」**について、次のように力強く語った。
「三軍(さんぐん)——すなわち大軍の指揮官すら、戦いにおいては奪われることがある。
だが、たとえただ一人の人間であっても、
その“志”は、他人が奪おうとしても決して奪えるものではない。」
この言葉は、外から奪えるものと、内から生まれるものの違いを明確に示している。
地位・財産・命令権といったものは、状況によっては失われる。
しかし、心の奥に宿る「志」だけは、自ら手放さない限り決して失われることはない。
だからこそ、孔子は**「志を守り抜く者こそ、真に強い者」**だと語った。
逆に言えば、状況や他人の力で簡単に揺らぐような「志」は、本物とは言えない。
原文(ふりがな付き)
「子(し)曰(いわ)く、三軍(さんぐん)は帥(すい)を奪(うば)うべきなり。匹夫(ひっぷ)も志(こころざし)を奪(うば)うべからざるなり。」
注釈
- 三軍(さんぐん)…大軍。古代中国における軍の編成単位。ここでは「多勢の軍隊」の意。
- 帥(すい)…軍の総大将。戦略・命令系統の中枢。
- 匹夫(ひっぷ)…身分の低い一般人。ここでは「ただの一人の人間」を意味し、誰でも持てる志の力を表す。
- 志(こころざし)…生き方の指針や信念。状況に左右されない内面の核。
原文:
子曰、三軍可奪帥也、匹夫不可奪志也。
目次
書き下し文:
子(し)曰(いわ)く、三軍(さんぐん)は帥(すい)を奪(うば)うべきなり。匹夫(ひっぷ)も志(こころざし)を奪うべからざるなり。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 三軍は帥を奪うべきなり
→ 軍隊(三軍)の将軍(指揮官)を奪い、混乱させることはできる。 - 匹夫も志を奪うべからざるなり
→ だが、たとえ一人の庶民であっても、その人の志を奪うことはできない。
用語解説:
- 三軍(さんぐん):古代中国での編成単位で、国の主力軍。転じて“大軍”の意。
- 帥(すい):軍の司令官、リーダー。
- 匹夫(ひっぷ):一人の庶民、身分の低い一般人。ここでは「名もなき個人」。
- 志(こころざし):信念、理念、目指すべき精神的な目標。人格と一体の「内なる決意」。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう言った:
「大軍の将軍を奪って指揮系統を崩すことはできる。
だが、たとえ名もなき一人の庶民であっても、その人の志だけは、誰にも奪うことができない。」
解釈と現代的意義:
この章句は、個人の「志(こころざし)」の尊さと絶対性を力強く語った、孔子の精神的信念の象徴です。
- 外的な権力や戦力(軍や将軍)は、容易に崩れる。
- だが、個人が持つ内なる志・信念だけは、どんな権力にも奪えない。
- つまり、人間の価値は“地位”ではなく“志”にある、という思想です。
これは儒家思想における「志の倫理」「精神的自律」の核心にあたります。
ビジネスにおける解釈と適用:
1. 真のリーダーは“志”で動く──肩書きではない
- 肩書や役職は奪われ得るが、信念に基づく行動力は誰にも奪えない。
- 志を持つ個人こそが、変革や推進力の源。
2. 組織の力より“個人の志”が文化をつくる
- 大企業や体制でも志なき人が集まれば力を失う。
- 反対に、小さな組織でも強い志を持った人がいれば、社会を動かす力となる。
3. 危機の時こそ“志”が真価を問われる
- 立場を失っても、役職を降りても、志を失わなければ人は立ち上がれる。
- 経営者・起業家・リーダーに必要なのは「志を失わぬこと」それ自体。
ビジネス用心得タイトル:
「志は奪えぬ──真のリーダーは“立場”ではなく“信念”で立つ」
この章句は、リーダーシップ論・キャリアの再設計・スタートアップ精神・困難時のマインドセット形成などに非常に示唆を与えます。
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