資金とは何か。この問いに対し、学術的にはさまざまな議論があるものの、経営者に求められるのは実践的な視点です。現場で役立つ資金の捉え方を理解し、活用することこそが重要です。
資金とは
事業運営には「資本」が欠かせません。資本は大きく二種類に分けられます:
- 非現金資本
例:固定資産(建物や設備など) - 現金資本
現金や現金同等物として、実際に事業活動で使用される資金。
資金とは、この「現金資本」を指します。取引の決済が現金で行われる以上、資金の流れを管理することは経営の生命線です。
損益と資金の違い
資金管理において注意すべきは、損益と資金の違いです。経常利益が黒字だからといって、資金繰りが安全とは限りません。資金は形を変え続け、流動的に動いています。たとえば:
- 現金が在庫になる
商品の仕入れや製造で現金が減少する。 - 現金が売掛金になる
販売後、売上代金が未回収状態になる。 - 現金が借金返済に消える
借入金の元本や利息の支払い。
これらの変化を把握していないと、経営に重大なリスクが生じます。
資金管理の重要性を示す事例
ある企業では業績が好転し、3,500万円の経常利益を計上しました。これに気を良くした経営者が、3,000万円の設備投資を決行。しかし、支払い条件に短期的な資金計画が含まれていなかったため、資金不足に陥りました。
問題点:
経常利益が現金ではないことを認識していなかった点。
私はこの経営者に次のように説明しました:
- 経常利益 ≠ 現金残高
経常利益は税法上の計算結果であり、現金として残る額は別に計算される。 - 資金の実態を理解する必要性
現金が売掛金や在庫、受取手形など、形を変える過程を把握することが重要。
これを受け、経営者は個人資産を担保に緊急融資を受け、資金不足を乗り切りました。この経験を通じて、利益が即座に資金の余裕を意味しないという現実を理解しました。
利益の活用と資金戦略
別の例では、経常利益が4億円に達する企業が登場しました。しかし、多額の税金や棚卸資産の増加が資金の流動性を圧迫。利益を合法的に圧縮するため、以下の対策を提案しました:
- 特別賞与の支給
従業員の士気を高めると同時に費用計上。 - 本社や工場の補修
修繕費を費用計上し、将来的な投資を前倒し。 - 車両や設備の更新
必要な機器や車両を決算期内に購入し、減価償却を活用。 - 不良資産の処分
税務署の立会いを経て、不要な在庫を廃棄。
これらの対策により、合法的に税負担を軽減しつつ資金繰りを改善しました。
資金の本質を理解する
資金管理の難しさは、その動きが複雑である点にあります。しかし、その本質を理解すれば、決して手に負えないものではありません。
- 損益計算書
一定期間の収益と費用の差を示し、経営成績を表す。 - 貸借対照表
資産、負債、純資産の状態を示し、財務の健全性を示す。
この二つを連携させて分析することで、利益と資金の関係を正しく理解できます。
結論
資金管理の難しさの本質は、損益と資金のギャップにあります。利益が出ていても、資金繰りに苦しむ企業は多く、その原因は資金の流れを把握していないことにあります。
経営者は、利益をどう活用するか、そして資金をどのように管理するかを常に考える必要があります。資金は経営の血流であり、その流れを滞らせないことが企業の存続と成長の鍵です。この基本をしっかりと理解し、資金管理を徹底することで、企業の未来を切り開くことができるのです。
資金の実態を理解すれば、資金の難しさの本質は「赤字」に集約されることがわかる。赤字だけは、一定の限度を超えると手の打ちようがなくなり、経営を根本から揺るがす問題となるのだ。
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