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変るものと変らぬもの

これまで、固定費の割掛けがどのような影響を及ぼすのか、さまざまな例を使って説明してきた。繰り返し述べてきたように、固定費は経営全体の費用として、期間に応じて一定に発生するものだ。どのような商品を生産しても、設備が変わらない限り、減価償却費に変動はない。

社員がどのような行動を取ろうとも、人員が変わらない限り、人件費は超過勤務の増減を除いて基本的に変わらない。同様に、自動車は使おうが使わなかろうが、減価償却費、税金、保険料には影響がない。したがって、何か対策を講じる際には、変わらないものを考慮しても意味を持たない。

今、靴を買いに行くとしよう。購入を決める条件としては、価格、品質、デザイン、色の四つが主に挙げられるだろう。仮に、気に入った靴が二足あり、価格、品質、デザインが同じで、色だけが黒と茶で異なっているとする。この場合、価格、品質、デザインはどちらも同じだから考慮する必要はない。最終的に判断するのは色だけでいいわけだ。つまり、「異なる部分だけを比較する」というのが正しい選び方だ。何とも当たり前の話だが、これが本質である。

この当たり前の原則を忘れ、変わらない固定費をあちらこちらに割り振ることで、あちこちで混乱が生じる原因となっている。だからこそ、「割掛けの理論」を捨て去り、正しい考え方に立ち返る必要があるのだ。

その正しい考え方とは、「どちらを選ぶかで変化する部分だけを比較する」ことだ。これまでの例題を振り返ってみよう。固定費のように選択によって変わらないものを議論に含めてしまうと、正確な判断ができなくなる。それに対して、変化する部分に焦点を当てれば、無駄な混乱を避けることができるというわけだ。

スキー宿の原価計算では、客数と粗利益の関係だけを注目すれば十分であることを述べた。また、商品別の損益比較では、売価と変動費だけを考慮すればよいことを説明してきた。これらはすべて、「変わる部分だけを比較する」という基本的な考え方に基づいている。余計な要素を取り除くことで、判断は明確になり、無駄な混乱を避けることができるのだ。

部門別損益計算(第4表)では、第9表のような考え方を適用すればよい。これは、変化する要素に焦点を絞り、それに基づいて計算を進めるという基本的な原則に基づいている。この考え方は、単に右の例にとどまらず、さまざまな状況で応用可能だ。ここからは、いくつかの追加例を用いて、「変わるもの」に注目した正しい考え方と計算法をさらに詳しく説明することにする。

変わるものと変わらないもの:経営判断での視点

企業経営において、収益性やコストの検討を行う際には、変わるものと変わらないものを明確に区別することが不可欠だ。固定費を商品や部門に配賦して「一個当たり」や「部門ごと」に分配すると、混乱を招く原因となり、正確な意思決定ができなくなる。以下に、この視点を実務でどのように活用するかを解説する。

変わらないもの(固定費)を考慮しない

固定費は、商品や部門にかかわらず一定期間にかかるものであり、特定の意思決定に影響を与えるものではない。例えば、以下のような固定費は、製造数や販売数が変わっても変動しないため、意思決定においては考慮する必要がない:

  • 減価償却費:設備が変わらない限り、製品の種類にかかわらず発生。
  • 人件費:超過勤務などを除いて、人数が変わらない限り一定。
  • 車両費用(税金、保険料など):車両の使用頻度にかかわらず発生。

このように、固定費は「全体の経営費用」として発生するため、商品別や部門別に分けても、経営判断には影響を与えない。意思決定では、変わらない固定費を無視し、変動する要因にのみ注目することが重要である。

変わるもの(変動費)に注目する

「どちらを選ぶかで変わる部分のみを比較する」という原則が、正しい経営判断には必要不可欠だ。具体的には、以下のように変わる部分に注目する:

  1. スキー宿の例:宿賃(宿泊料金)と客数のみが粗利益に影響する要因であり、固定費は一定であるため無視する。客数と粗利益の関係に注目して、料金やサービス内容を調整することで、収益性を改善できる。
  2. 商品別の損益比較:商品の収益性は、売価と変動費のみで判断し、固定費を配賦しない。たとえば、A商品とB商品を比較する際には、売価から変動費を差し引いた粗利益(限界利益)で比較し、より高い粗利益が得られる商品を優先する。
  3. 部門別損益計算:部門ごとの収益性を評価する場合、各部門に直接的に関わる変動費のみを考慮する。共通の固定費(本社費用など)は配賦せず、部門の収益性に直接影響する要因だけに焦点を当てる。

経営における「変わるもの」と「変わらないもの」の使い分け

固定費を各部門や商品に割り当てず、変動する要因に基づいて意思決定を行うことは、より正確な収益分析を可能にする。この方法により、企業は収益の実態を明確に把握し、収益性の向上に向けた具体的なアクションを効果的に講じることができる。

結論

「変わらないもの」にとらわれず、実際に収益やコストに影響を与える「変わるもの」に注目することが、経営判断において最も重要である。変わる部分だけに焦点を当てた意思決定は、事業の収益性を正しく評価し、収益拡大に向けた戦略を策定するための強力なツールとなる。

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