孔子は、富について非常に淡々と、そして明確な価値観を示した。
「もし富が自分の努力で確実に得られるものであれば、王侯の行列で鞭を持つような卑しい仕事ですら選ぶだろう」と語りながらも、
「しかし、富は天から与えられる預かり物にすぎない」と続けた。
だからこそ、富に執着せず、自分が本当に好むこと、理想とする道を選んで生きる。
これは、目的のために手段を選ばない生き方ではなく、たとえ富に縁がなかったとしても、自らの信念を曲げずに生きる覚悟である。
原文・ふりがな付き引用
子(し)曰(い)わく、富(とみ)にして求(もと)むべくんば、執鞭(しつべん)の士(し)と雖(いえど)も、吾(われ)亦(また)之(これ)を為(な)さん。
如(も)し求(もと)むべからずんば、吾(わ)が好(この)む所(ところ)に従(したが)わん。
注釈
- 富にして求むべくんば … もし富が努力によって確実に得られるのであれば、という仮定。
- 執鞭の士 … 鞭を持ち、貴人の行列の先導をする従者。社会的には低い職とされていた。
- 之を為さん … 自ら進んでその仕事でもする、という決意。
- 吾が好む所に従わん … 富が得られないのであれば、自分の理想や信条に従って生きるという覚悟。
1. 原文
子曰、富而可求也、雖執鞭之士、吾亦爲之。如不可求、從吾所好。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、富(と)みにして求(もと)むべくんば、執鞭(しつべん)の士(し)と雖(いえど)も、吾(われ)亦(また)之(これ)を為(な)さん。
如(も)し求むべからずんば、吾が好(この)む所に従(したが)わん。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「富にして求むべくんば」
→ 富(財産)が正しい方法で手に入るのならば、 - 「執鞭の士と雖も、吾亦た之を為さん」
→ 馬車の鞭を持って人に仕えるような下働きの職であっても、私はそれをやるだろう。 - 「如し求むべからずんば」
→ もし正しく富を求められないのであれば、 - 「吾が好む所に従わん」
→ 私は自分の好きな道を選んで生きることにしよう。
4. 用語解説
- 富(とみ):財産・金銭的成功。
- 求むべし/求むべからず:得ることができる/得ることができない。ここでは「道理にかなった手段で」の意。
- 執鞭の士(しつべんのし):馬車の鞭を持つ下僕のような職業、身分の低い仕事の例え。
- 吾が好む所に従わん:自分が本当に好む生き方、信念に基づく道を選ぶ。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言いました:
「もし正しい方法で富を得られるのであれば、たとえそれが馬車の御者のような職業でも私はそれをするだろう。
だが、もし正しい方法で富を得ることができないのであれば、私は自分の信じる道を貫いて生きていこう。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、孔子の**価値観における「正義・倫理 vs. 富」**という根本的な選択に対する答えを示しています。
- 富を得ること自体を否定しているのではなく、**「正しい方法であるかどうか」**を重視している。
- 身分や仕事の内容にかかわらず、正当な手段で得られるならば努力することは尊いとする。
- 一方で、不正・不義に染まってまでの富は求めない。
- 富が得られないなら、精神的な充実=自分が好む道に従って生きるという姿勢。
これは現代に通じる、**「自分の価値観に忠実に生きる選択」**といえるでしょう。
7. ビジネスにおける解釈と適用
■「手段を選ばぬ成功は、本当の成功ではない」
──売上やポジションのために倫理を捨ててはならない。“正しい富”を追う覚悟が、企業文化を守る。
■「どんな仕事でも、正しい道なら誇りを持てる」
──業種・職種の上下にとらわれず、社会的意義と誠実な働き方があれば価値がある。
■「求められないなら、自分の好きを極めよ」
──収益性・トレンドに左右されず、心からやりたい道・得意な領域に集中する戦略も、長期的には成功を導く。
■「理念なき追求は、やがて信頼を失う」
──外的成果を求めるほど、内的信念や倫理的基盤が必要になる。孔子の選択はその原型。
8. ビジネス用心得タイトル
「義を忘れて富を求むな──正道と情熱が、真の豊かさを導く」
この章句は、職業倫理・キャリア戦略・起業精神・企業理念の再確認にも大いに役立つ内容です。
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