人の過ちを語るとき、自分の徳もまた問われている
孟子は、人の「不善(ふぜん)=過ち・欠点・失敗」を口にすることは、表面的には面白くても、やがて自分に災いを呼ぶと警告した。
確かに、人の陰口や悪口は一時的な快楽や優越感をもたらすかもしれない。
だが、それは相手を傷つけるばかりでなく、自分の品位と徳を損なう行為でもある。
さらに、そうした言動はいつか耳に入り、**仕返しや信頼の喪失という「後患(こうかん)」**を招くだろう。
では、そのときどう対処するつもりなのか――孟子は問いかけている。
口を慎むことは、人間関係の安寧を守る智慧であると同時に、自らの徳を養う行いでもある。
原文(ふりがな付き)
孟子(もうし)曰(いわ)く、
人(ひと)の不善(ふぜん)を言(い)わば、
当(まさ)に後患(こうかん)を如何(いかん)すべき。
注釈
- 不善(ふぜん):他人の過ち、欠点、失敗など。ここでは悪口・陰口として語られる対象。
- 後患(こうかん):あとで起こる災い、仕返し、信頼の喪失など。思わぬところで自分に返ってくるリスク。
- 参考文献:『菜根譚』前集百五
「人の小過を責めず、人の陰私を発かず、人の旧悪を念わず」
⇒ 徳を養い、災いを避けるには、他人の過去や陰を語らぬことが肝要。
心得の要点
- 悪口は自他ともに傷つけ、災いの因となる。
- 他人を語る言葉は、自分の品格の証でもある。
- 口を慎むことが、最も身近な「徳の実践」である。
- たとえ正論であっても、言葉の使い方によっては害にもなる。
パーマリンク案(スラッグ)
- watch-your-words(言葉を慎め)
- no-gain-in-gossip(悪口に益なし)
- speak-wisely-or-silent-nobly(賢く語るか、気高く沈黙するか)
この章は、日常的な人間関係を健やかに保ち、自らの内面を整えるための実践的な教えといえます。
原文:
孟子曰:
言人之不善、當如後患何。
書き下し文:
孟子(もうし)曰(いわ)く、
人(ひと)の不善(ふぜん)を言(い)わば、当に後患(こうかん)を如何(いかん)すべき。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「人の不善を言わば」
→ 他人の悪事や過ち、欠点を口にするならば、 - 「当に後患を如何すべき」
→ あとから生じる災い(仕返しや悪評)をどう処理するつもりなのか、よく考えるべきである。
用語解説:
- 不善(ふぜん):道徳的に悪い行い、過失、欠点。
- 後患(こうかん):将来的に起こりうる災難、報復、トラブル、わだかまり。
- 当(まさ)に~すべし:~するのが当然である、あるべきである。
- 如何(いかん)す:どうするか。対処法を問う言い回し。
全体の現代語訳(まとめ):
孟子はこう言った:
「人の欠点や過ちを口にするのであれば、そのことで生じる後々のトラブルや報復にどう対処するつもりなのか、よく考えるべきである。」
解釈と現代的意義:
この章句は、**「他人の非を指摘することには、責任と覚悟が必要である」**という倫理的警告を含んでいます。
孟子は、正義感からとはいえ他人の悪を安易に語るべきではないと述べています。
なぜなら、それによって生じる後悔・反感・仕返し・信用の損失などの“後患”は計り知れないからです。
この章句は、「言葉の持つ力」と「告発・批判のリスク」に対する深い自覚を求めるものです。
ビジネスにおける解釈と適用:
- 「批判は慎重に。正論でも言い方次第で敵を作る」
たとえ事実であっても、他人のミスや非を軽率に口にすれば、職場の信頼関係を壊すリスクがある。
発言には戦略と配慮が必要。 - 「内部通報や進言は、“後患”を予測して準備すべし」
コンプライアンスの観点でも、問題を指摘する人には心理的・組織的圧力がかかる。
指摘には証拠・支援者・誠意ある動機を伴わせることが不可欠。 - 「悪口・噂話は最も低コストで最大の信頼損失を生む」
軽口であっても、人の悪い噂を口にするだけで、「信頼されない人」という印象が残る。
賢者は沈黙の力を知っている。
ビジネス用心得タイトル:
「批判の言葉は、後患の覚悟をもって──沈黙の賢さが信頼を守る」
この章句は、職場の人間関係マネジメント・ハラスメント対策・組織内コミュニケーション倫理において非常に重要な指針となります。
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