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学びは厳しさだけでなく、温かく育む心も必要である

学問を志す者には、まず自分を律し、真面目に努力する「兢業(きょうぎょう)」の姿勢が求められる。
しかし、それだけでは足りない。物事に執着しすぎず、どこか余裕を持って軽やかに構える「瀟洒(しょうしゃ)」な心持ちも、同時に必要なのだ。

厳しさと苦しみに偏りすぎると、それは秋の冷気のようにすべてを枯らしてしまう。
春のような温かさと寛容がなければ、芽は育たず、学びも命を失ってしまう。

真の学びとは、厳しさの中に温もりがあり、規律の中に柔軟さがあるもの。
心を引き締めるだけでなく、ほっと和らぐ瞬間があるからこそ、人生や知は豊かに育っていく。


原文とふりがな付き引用

学(まな)ぶ者(もの)は段(だん)の兢業(きょうぎょう)の心思(しんし)有(あ)り、又(また)段(だん)の瀟洒(しょうしゃ)の趣味(しゅみ)有(あ)るを要(よう)す。
若(も)し一味(いちみ)に斂束清苦(れんそくせいく)ならば、是(こ)れ秋殺(しゅうさつ)有(あ)りて春生(しゅんせい)無(な)きなり。
何(なに)を以(もっ)てか万物(ばんぶつ)を発育(はついく)せん。


注釈(簡潔に)

  • 兢業(きょうぎょう):真剣に身を律し、学びに向かう心。慎み深く努力する姿勢。
  • 瀟洒(しょうしゃ)の趣味:こだわらず、物事をさっぱりと受け止める柔らかさや余裕のある味わい。
  • 斂束清苦(れんそくせいく):厳格で貧しく、苦しいだけの状態。行き過ぎた禁欲。
  • 秋殺(しゅうさつ)と春生(しゅんせい):秋は命をしぼませる冷たさ、春は新たに命を育てる温かさ。バランスの比喩。
  • 発育万物:万物を成長させること。学びを通じて自己や社会を豊かにする比喩。

1. 原文

學者有段兢業心思、又有段瀟洒趣味。若一味斂束清苦、是有秋殺無春生。何以發育萬物。


2. 書き下し文

学ぶ者は、段(ひとしきり)の兢業(きょうぎょう)の心思(しんし)有り、また段の瀟洒(しょうしゃ)の趣味有るを要す。
もし一味(いちみ)に斂束(れんそく)清苦(せいく)ならば、是れ秋に殺ありて春に生なく、何を以てか万物を発育せん。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)

  • 學者有段兢業心思、又有段瀟洒趣味。
     → 真に学ぶ者は、一方で真剣に努力して取り組む誠実な心を持ち、他方でさっぱりとした洒落た風趣・余裕のある感性も持つべきである。
  • 若一味斂束清苦、是有秋殺無春生。
     → もしひたすら禁欲的で厳格で、味気なく苦しいだけの生活ばかりをしているなら、それは秋に命を刈り取るばかりで春の芽生えがないようなもの。
  • 何以發育萬物。
     → そんな在り方では、どうして自分や他人の才能・成長を育てられるだろうか。

4. 用語解説

  • 兢業(きょうぎょう):真面目に怠らず勤め励む姿勢。慎みと努力の心。
  • 心思(しんし):心の働き・思慮。
  • 瀟洒(しょうしゃ):さっぱりして洗練された風趣。余裕ある洒落た気持ちや態度。
  • 斂束(れんそく):自らを締めつけ、制限すること。節制や禁欲。
  • 清苦(せいく):清くつつましく、しかも苦しいこと。
  • 秋殺(しゅうさつ):秋に植物が枯れるように、物を刈り取る働きの比喩。
  • 春生(しゅんせい):春の芽生え、万物が育つ自然の力。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

学ぶ者には、努力して真剣に取り組む心が必要である一方で、ゆとりと洒落た趣味や風情を味わう心の余裕も大切である。
もし学ぶことがただ苦しく厳しいだけで、ゆとりや楽しみを一切排したものになってしまえば、それは生命を枯らす秋風のようで、春の芽生えがない。
そんなやり方では、自分も他人も育てることはできないだろう。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**学びや修養における“バランスの美徳”**を説いています。

  • 「勤勉であること」と「潤いある感性」は、どちらか一方では不完全である。
  • 禁欲や自己規律だけでは、生命の温かさや創造性を削ぎ落とす
  • だからこそ、真剣さの中に遊び心や風趣を持つことが、本当の豊かさであり、人間形成の鍵となる。

この教えは、厳しさ一辺倒の修行や、理屈に偏った学問の危うさへの警鐘でもあります。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

▪ ハードワーク一辺倒では、創造も育成も枯れる

厳しい努力は成果につながるが、そればかりでは組織が息苦しくなり、メンバーも消耗する。「瀟洒な趣味」=余裕や遊びの要素が、人の成長を育む。

▪ 学びに“面白さ”と“粋”を忘れずに

社内研修や自己啓発も、堅苦しいだけでは続かない。学びにユーモア・デザイン性・感性の喜びを取り入れることで、継続力と創造性が生まれる。

▪ リーダーも“柔らかさ”を持て

部下を律する力だけでなく、心を和ませる一言、場を和らげるセンスがあってこそ、育成も信頼も深まる。人間的な“ゆとり”がリーダーの格を高める。


8. ビジネス用の心得タイトル

「真剣さに余裕を、努力に洒落を──育てる力は“春のような心”に宿る」


この章句は、「緊張」と「潤い」、「規律」と「風趣」という、相反するものをバランスよく併せ持つことの大切さを教えてくれます。

人生やビジネスの学びを実りあるものとするには、厳しさとともに、楽しさ・しなやかさ・遊び心を育てることが不可欠です。

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