自然界では、暖かい季節に万物が芽吹き、冷たい季節にすべてが枯れ落ちる。
人の世界もそれと同じで、心が冷たく、思いやりを欠く人は、
天から受ける幸せもまた薄く、はかないものとなってしまう。
一方、和やかな雰囲気を持ち、温かい心で人に接する者は、
その人に与えられる幸福も厚く、そしてその恩恵は長く続いていく。
幸福は偶然ではない。
親切や温情といった“目に見えない熱”こそが、天地の理にかなった「福を呼びこむ力」なのだ。
原文とふりがな付き引用
天地(てんち)の気(き)は暖(あたた)かなれば則(すなわ)ち生(しょう)じ、寒(さむ)ければ則(すなわ)ち殺(ころ)す。
故(ゆえ)に性気(せいき)の清冷(せいれい)なる者(もの)は、受享(じゅきょう)も亦(また)涼薄(りょうはく)なり。
唯(ただ)だ和気熱心(わきねっしん)の人(ひと)のみ、其(そ)の福(ふく)も亦(また)厚(あつ)く、其(そ)の沢(たく)も亦(また)長(なが)し。
注釈(簡潔に)
- 天地の気:自然界のエネルギーや気候の動き。
- 性気の清冷:性質が冷たく、感情が薄い人。
- 受享(じゅきょう):天から受ける幸福・運命。
- 涼薄(りょうはく):恩恵が薄く、幸せが浅いこと。
- 和気熱心(わきねっしん):温かく親切な心。思いやりや柔和な態度。
- 沢(たく):恩沢、恩恵。「潤い」とも訳せる。
1. 原文
天地之氣暖則生、寒則殺。故性氣清冷者、受享亦涼薄。唯和氣熱心之人、其福亦厚、其澤亦長。
2. 書き下し文
天地の気、暖(あたた)かなるときは則ち生じ、寒(さむ)ければ則ち殺す。
故に、性気(せいき)清冷(せいれい)なる者は、受享(じゅきょう)も亦(また)涼薄(りょうはく)なり。
唯(ただ)和気(わき)熱心(ねっしん)の人のみ、其の福(ふく)も亦た厚(あつ)く、其の沢(たく)も亦た長(なが)し。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 天地之氣暖則生、寒則殺。
→ 天地の気(自然のエネルギー)は、温かければ生命を生み出し、冷たければ万物を殺してしまう。 - 故性氣清冷者、受享亦涼薄。
→ だから、人の性質が冷たく冷淡であるなら、その人が受ける幸福や恩恵もまた薄く、乏しいものとなる。 - 唯和氣熱心之人、其福亦厚、其澤亦長。
→ ただし、心温かく調和に満ちた人こそ、受ける幸福は厚く、その恩恵も長く続く。
4. 用語解説
- 天地之氣(てんちのき):自然の循環エネルギー。生育・破壊の根源。
- 暖(だん)/寒(かん):気候・気質を表す。生と殺、成長と停滞の比喩。
- 性氣清冷(せいきせいれい):冷たく淡白な性格。理知的だが情が薄い傾向。
- 受享(じゅきょう):受け取って享受すること。幸福や恩恵を指す。
- 涼薄(りょうはく):涼しいというより冷淡・薄情の意味合いで、「得るものが少ない」ことを含意。
- 和氣熱心(わきねっしん):人と和をなし、情熱をもって行動する心。
- 福(ふく)/澤(たく):福は幸福・運、澤は周囲に及ぼす恩恵・徳。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
天地のエネルギーは、温かければ万物を育て、冷たければそれを滅ぼす。
同じように、人の性格が冷たく淡白であると、その人の得る幸福や恵みもまた薄く、乏しいものになる。
反対に、心温かく調和を重んじ、情熱を持って生きる人は、その幸福も厚く、恵みも長く続く。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「人の持つ“心の温度”が人生を決定づける」という、極めて人間中心的で倫理的な考え方です。
- 自然界が温かさにより命を育むように、人の“和気”と“熱心さ”が周囲に幸福を呼び込む。
- 一見クールで合理的な性格は美徳のように思えるが、それが過ぎると他者からの恩恵を遠ざける。
- 人に福を呼び、徳を残すのは、温かい人格と真心からである。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ 成功の鍵は「熱意と調和」の両立
冷静さや合理性だけでは、人も成果もついてこない。
チームを育て、顧客に選ばれるのは“熱心で温かい人”。
▪ 「冷たい優秀さ」より「温かい誠実さ」
スキルや知識よりも、共感力や親しみやすさが信頼を生む。
特に現代のリーダーは、“和気”と“熱意”で人を惹きつける時代。
▪ 組織文化における「福」と「澤」
個人の幸せ(福)だけでなく、周囲への波及効果(澤)をもたらす人材とは──
「人の話をよく聴き、笑顔があり、前向きな空気をつくれる人」である。
8. ビジネス用の心得タイトル
「温かい心が幸福を呼び、熱意が恩恵を育てる──“和気熱心”こそ成功の源」
この章句は、人間関係・リーダーシップ・人生設計のすべてに通じる“心の温度管理”を説いています。
冷たい優秀さでは人も運も離れていく。温かく、調和的で、熱意ある人こそ、長く続く幸福と信頼を築ける。
その普遍の原理を、自然界の営みに重ねて語るこの言葉は、現代の人々にも強く響くことでしょう。
コメント