—— 命を奪うものに怯え、命を守るものに背を向けてはならない
孔子は、人間にとって本当に必要なものとは何かを問いかけるように語りました。
「水や火は、人が生きるうえでなくてはならないものだ。
だが、“仁”は人として生きるうえで、それ以上に欠かせないものだ。
私は水に入って死んだ人や、火に焼かれて死んだ人は見たことがあるが、
仁の道を進んで死んだ者は見たことがない。
――なのに、どうして人は、仁に進もうとしないのだろうか?」
孔子のこの言葉は、仁(思いやり・誠実・道徳)こそが人を本当に生かすものであると説いています。
私たちは、水や火のように目に見える危険には注意するが、
心の在り方や人との関係を左右する“仁”の価値には、なかなか目を向けようとしない。
しかし、仁こそが私たちの尊厳ある生き方・信頼ある関係・社会の安定を支えているのです。
恐れるべきは、仁から離れることであり、進むべきは仁の道なのです。
原文とふりがな
「子(し)曰(い)わく、民(たみ)の仁(じん)に於(お)けるや、水火(すいか)よりも甚(はなは)だし。
水火は吾(われ)、蹈(ふ)みて死(し)する者(もの)を見る。
未(いま)だ仁を蹈(ふ)みて死する者を見ること無し」
注釈
- 「仁」:思いやり、誠実さ、道徳的徳目。孔子の教えの中核にある概念。
- 「水火」:生活に不可欠な存在であると同時に、誤れば命を奪う危険もある。
- 「蹈む(ふむ)」:足を踏み入れる、進む。ここでは「実際に進んで身を投じること」。
- 「甚だし」:強調の語。ここでは「より重要である」「より本質的である」の意味。
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(仁の道を歩もう)virtue-greater-than-survival
(生きること以上に徳を)no-death-through-ren
(仁の道で人は死なない)
この心得は、現代の私たちにも大きな問いを投げかけています。
「本当に恐れるべきことは何か」「本当に大切にすべきものは何か」
仁の道を選ぶとは、人間らしく生きることを選ぶということ。その決断は、常に私たち自身にゆだねられています。
1. 原文
子曰、民之於仁也、甚於水火。
水火、吾見蹈而死者矣。
未見蹈仁而死者也。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、民(たみ)の仁(じん)に於(お)けるや、水火(すいか)よりも甚(はなは)だし。
水火は、吾(われ)蹈(ふ)みて死する者を見る。
未(いま)だ仁を蹈みて死する者を見ざるなり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「民の仁に於けるや、水火よりも甚だし」
→ 一般の人々が「仁(人としての思いやりや道徳)」を遠ざけるさまは、水や火を恐れるよりもひどい。 - 「水火は、吾蹈みて死する者を見る」
→ 水や火に踏み込んで死ぬ人は、実際に見かけることがある。 - 「未だ仁を蹈みて死する者を見ざるなり」
→ だが、仁に踏み込んで(=実践して)死んだ人など、見たことがない。
4. 用語解説
- 民(たみ):一般民衆、人々。
- 仁(じん):孔子が重んじる徳目。思いやり、道徳心、人を愛する心。
- 水火(すいか):自然の中で危険なものの代表。生命を奪う恐れのあるもの。
- 甚(はなは)だし:非常に、大きくかけ離れている。
- 蹈む(ふむ):踏み入る、足を踏み込む。比喩的に「実行する・向き合う」の意。
- 蹈仁:仁を実践すること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「人々が“仁(思いやり)”を避けようとする姿勢は、水や火を恐れる以上に極端である。
私は、水や火に踏み入って命を落とす人は見たことがあるが、
仁を実践して命を落とした人など見たことがない」。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「人々が“仁”を過剰に恐れて避けてしまっていること」への孔子の嘆きと警鐘です。
- 本来、仁は人を豊かにし、人間関係を円滑にし、社会を良くするものであり、危険なものではない。
- それにもかかわらず、多くの人は仁を避ける。
それは、損をしそうだから・人に譲るのが負けだと思っているからなど、誤った価値観が背景にある。 - 孔子は、「実際には、仁を実践して命を落とすような危険はないのに、なぜそれを避けるのか?」と問いかけています。
7. ビジネスにおける解釈と適用
◆ 「仁=人を思いやる行動は、決して損ではない」
信義・誠意・配慮をもって行動することは、短期的に「非効率」や「遠慮」と見られるかもしれないが、
長期的には必ず信頼を得て、関係性や成果につながる。
◆ 「過度なリスク回避が“正しい行動”を妨げていないか」
「誰かのために動くことは損だ」「裏切られたら嫌だから助けない」──
そうした**“仁を避ける心理”は、組織全体の信頼感やチームワークを損ねる**。
◆ 「勇気を持って仁に踏み込め」
配慮・思いやり・信頼をベースにした行動は、実は何の害もなく、むしろ力になる。
仁を実行に移す勇気を持つことで、職場に良い循環が生まれる。
8. ビジネス用心得タイトル
「恐れるべきは“仁”ではなく、“仁を避ける心”──思いやりこそ信頼の源」
この章句は、思いやり・誠実さ・信頼の構築を、損やリスクと誤認して避けてしまう現代人の姿勢にも鋭く問いかけています。
心理的安全性・組織文化・ホスピタリティなど、人と人とのつながりを重視する組織づくりにおいて非常に示唆に富んだ句です。
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