見識が度量を育て、度量が徳を築く。
徳(とく)=人格や品格は、その人の度量(どりょう)=心の広さ・包容力によって深まり、
度量の広さは、さらに見識(けんしき)=知識や思慮の深さによって育まれる。
したがって、もし「より高い人格を備えたい」と願うならば、
まず心の器=度量を広く持つことが必要であり、
そのためには、視野を広げ、見識を高めていくことが不可欠である。
人格 → 度量 → 見識という順番でつながっているこの連関を理解し、
人格の根は知にあり、知の果てに徳が咲くことを忘れてはならない。
原文(ふりがな付き)
徳(とく)は量(りょう)に随(したが)って進(すす)み、量は識(しき)に由(よ)って長(ちょう)ず。故(ゆえ)に其(そ)の徳を厚(あつ)くせんと欲(ほっ)すれば、其の量を弘(ひろ)くせざるべからず。其の量を弘くせんと欲すれば、其の識を大(だい)にせざるべからず。
注釈
- 徳(とく):人格・人間性・精神的な成熟。『論語』や『孟子』などでも中心的な価値。
- 量(りょう)=度量:他者を受け入れる包容力。心の大きさ。器の広さとも。
- 識(しき)=見識:知識や洞察力、経験による深い理解。世界の見方の広がり。
- 弘くする/大にする:それぞれ「広げる」「深める」の意。拡張と深化の両面を含む。
※吉田松陰は『将及私言』において、見識を広げるために「天下の賢能に交わり、天下の書籍を読む」ことの重要性を説いています。
「人間的器量の拡大」は、学びと対話の積み重ねによってこそ成るという思想が、菜根譚のこの条文とも見事に響き合います。
パーマリンク(英語スラッグ)
virtue-through-vision
(見識が徳を導く)widen-mind-grow-character
(心を広げて徳を育てる)big-heart-deep-seeing
(広い心と深いまなざし)
この条文は、現代においても「人間力を高めたい」と願うすべての人にとって、方向を示してくれる教えです。
たとえば、怒りっぽさや頑固さ、偏見を減らしたいなら、
「心を広く」と念じるよりも、まず見識を養い、世界を知ることが先決。
そして、真に高い人格を備えた人とは、
学びによって視野を広げ、視野の広さが人を許し、許しが徳を築く――
そんな成長の循環を歩んでいる人なのです。
1. 原文
德隨量長,量由識長。
故欲厚其德,不可不弘其量;
欲弘其量,不可不大其識。
2. 書き下し文
徳は量に随って長じ、量は識に由って長ず。
故に其の徳を厚くせんと欲すれば、其の量を弘くせざるべからず。
其の量を弘くせんと欲すれば、其の識を大にせざるべからず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 徳(人徳・人格的な深さ)は、その人の度量に応じて大きくなる。
- そしてその度量は、物事の理解と見識の深さによって育つ。
- だから、もし自分の徳を厚くしたいと思うなら、まず心の広さを広げなければならない。
- 心の広さを広げたいのなら、まず視野を大きくし、理解力を深めることが必要である。
4. 用語解説
- 徳(とく):道徳的な品格、人格的な深さ、他者に対する温かみや信頼性。
- 量(りょう):度量、心の広さ、寛容さ。他人の過ちや多様な価値観を包み込む力。
- 識(しき):識見、物事を正しく判断する力。理解力や見識。
- 弘く(ひろく)・大にす(おおいにす):拡張する、広げる、深めるの意。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
人の徳は、その人の度量に応じて成長し、度量の広さは見識の深さに基づいて育まれる。
だからもし徳の厚い人間になりたいなら、まず心の広さを育てなければならず、
そのためには、視野を広げ、理解力を高めることが欠かせない。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、人格の成長の連鎖構造を説いています。
「徳 → 量 → 識」という順序は、単なるモラルではなく、成熟した人間になるための知的プロセスです。
● 徳の深さは、視野の広さから生まれる
- 徳を厚くするには、「心の広さ(度量)」が不可欠。
→ そして、その度量は、狭い世界で生きていては育たない。
→ 見る・知る・学ぶことを通じて「識(見識)」を育てることで、度量が広がり、徳が養われていく。
● 視野を広げる努力が、人格の基礎になる
- 成熟した判断・行動ができる人は、たいてい多様な考えを知っている=識が大きい人。
→ その結果、相手を許せる/受け入れられる=度量が大きくなり、徳がにじみ出る。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
● 「徳のあるリーダー」は、必ず広い視野と寛容な心を持つ
- トップに立つ人間に必要なのは、技術や知識だけでなく、度量と見識。
→ 苦言を受け止める力、多様な意見を尊重する姿勢は、まさに「徳」の現れ。
● 部下育成は「視野と理解力」の向上から始める
- 怒りっぽさや心の狭さは、「知の不足」による場合が多い。
→ 多様な事例を学ばせたり、他部署との交流を促すことで、識を育て、度量と徳へとつなげることが可能。
● 自分の成長ステップを構造化して捉える
- 「徳を高めたい」→「度量を広げよう」→「識を深めよう」
→ このように知性と人格の関係を具体的にとらえることで、努力の方向が明確になる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「広い見識が広い心を育み、広い心が深い徳をつくる」──成熟への三段階法則
この章句は、人格形成のプロセスを非常に実践的に示したものです。
徳のある人物になりたいと願うなら、「まず何をすべきか?」という問いに対し、
“見識を広げ、理解を深める”という知の努力こそが出発点であると教えてくれます。
コメント