MENU

まごころと信義を土台に、道理をもって迷いを超える

主旨の要約

子張が「徳を高め、心の迷いをなくすにはどうすればよいか」と問うたところ、孔子は「忠(まごころ)と信(信義)を第一にして、義(正しい道理)に従うことで徳を高められる」と答えた。そして、同じ人に対して愛憎によって死生の願望を変えるような心の揺れを、「惑い」と定義した。


解説

この章句は、徳の修養と心の迷い(惑い)の克服について孔子が語った重要な教えです。

子張の問いは非常に根源的です。「どうすれば人としての徳を高め、心の迷いから自由になれるのか?」

孔子の答えは明快で、以下の3つを中心としています:

  1. 忠(ちゅう)=まごころ
     誠意を尽くす、偽らぬ心。
  2. 信(しん)=信義
     言葉と行動に責任を持ち、裏切らぬ誠実さ。
  3. 義(ぎ)=正しい道理
     損得ではなく、「正しさ」に基づいた行動原理。

これらをしっかり守ることが、人格を高める基礎となります。

さらに孔子は、「惑い」の典型的な例として、同じ相手に対して「生きてほしい」「死んでほしい」と感情で判断を変えることを挙げます。
これは、**感情に翻弄され、一定の倫理や判断基準を持てない状態=“惑い”**であり、そこから抜け出すには「忠信と義」に立脚することが不可欠であると説いています。


引用(ふりがな付き)

子張(しちょう)、徳(とく)を崇(たか)め惑(まど)いを弁(わきま)うるを問(と)う。
子(し)曰(いわ)く、忠信(ちゅうしん)を主(しゅ)として義(ぎ)に徙(うつ)るは、徳(とく)を崇(たか)むるなり。
之(これ)を愛(あい)しては其(そ)の生(せい)を欲(ほっ)し、之を悪(にく)んで其の死(し)を欲す。
既(すで)に其の生を欲し、又(また)其の死を欲するは、是(これ)惑(まど)いなり。


注釈

  • 忠(ちゅう)…真心。偽らず、誠実に尽くす心。
  • 信(しん)…言行の一致。他者の信頼に応えること。
  • 義(ぎ)…正しい道理・正義。私利私欲によらず、正しさに従うこと。
  • 惑い(まどい)…感情に流され、行動や判断がぶれる状態。倫理的基盤が欠けることによって起こる。

1. 原文

子張問崇德辨惑。
子曰、忠信徙義、崇德也。
愛之欲其生、惡之欲其死、既欲其生、又欲其死、是惑也。


2. 書き下し文

子張(しちょう)、徳(とく)を崇(たか)くし、惑(まど)いを弁(わきま)うることを問う。

子(し)曰(いわ)く、忠(ちゅう)と信(しん)とを本(もと)とし、義(ぎ)に従(したが)うは、徳を崇ぶなり。

之(これ)を愛しては其(そ)の生(せい)を欲(ほっ)し、之を悪(にく)んで其の死(し)を欲する。

既(すで)に其の生を欲し、又(また)其の死を欲するは、是(こ)れ惑いなり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「忠信を主として義に徙るは、徳を崇ぶなり」
     → 忠(まごころ)と信(誠実)を基盤とし、それを正義(義)に照らして行動することが、徳を高めることだ。
  • 「愛してはその生を望み、憎んでその死を望む」
     → ある人を好きになったときは長生きを望み、嫌いになると死を願うようでは……
  • 「既に生を欲し、また死を欲する、これ惑いなり」
     → 同じ人に対して、生も死も望むというのは、感情に振り回された“惑い”でしかない。

4. 用語解説

  • 子張(しちょう):孔子の弟子で、論理的で探究心が強いタイプ。
  • 崇徳(すうとく):徳を高める、より道徳的な人格に近づく努力。
  • 辨惑(べんわく):惑い(混乱・感情的偏り)を見分けて排すること。
  • 忠(ちゅう):まごころ・誠意・自己に対する誠実。
  • 信(しん):嘘をつかず、相手に対して誠実であること。
  • 義(ぎ):道理・正しさ・道徳的判断基準。
  • 愛(あい)・悪(にく)む:個人的な好き嫌い。感情に偏った判断を象徴。
  • 惑い(まどい):自己矛盾・道理を欠いた判断・感情的な混乱状態。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

子張が「どうすれば徳を高め、混乱した判断から抜け出せるか」を尋ねた。

孔子はこう答えた:

「まごころ(忠)と誠実(信)を大切にし、それを正しい道(義)に照らして判断すること。これが徳を高めることだ。
ある人を好きなときには生を願い、嫌いになれば死を望むような、感情で揺れ動くのは“惑い”でしかない。
同じ相手に“生きてほしい”と“死んでほしい”を同時に望むのは、理性を失っている証拠だ。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「道徳的判断基準」と「感情との距離のとり方」についての孔子の教えです。

  • 徳を高めるとは、感情で判断せず、道理(義)によって行動すること
     → 忠と信という内面の誠実さをもとに、外的な正しさ(義)に従う姿勢が、徳の根幹となる。
  • 感情に支配されると“矛盾”が起こる
     → 一度は愛して応援していたのに、少しの不満で急に憎しみ、極端な判断をする。それこそが惑い。
  • 一貫性のない言動が信頼を失わせる
     → 人格とは、感情の変化に動かされず、“軸”をもって判断できること。

7. ビジネスにおける解釈と適用

(1)「忠信をもって、判断基準は“義”に」

  • 上司や経営者が感情や好悪で部下を評価すると、職場の信頼が崩れる。
     → 判断は私情ではなく、“義=基準・理念・ルール”に照らすこと。

(2)「好悪で評価を変える人間は信用されない」

  • 気に入れば昇進させ、不満を言えば冷遇する──このような態度は“惑い”であり、リーダーとしての資質に欠ける。
     → 一貫性のある態度が、組織に安心と尊敬を生む。

(3)「感情マネジメントはリーダーの基本技術」

  • 怒りや苛立ちに支配されて“極端な判断”を下すのではなく、冷静に義を照らして判断する力が、持続可能な経営に不可欠。

8. ビジネス用の心得タイトル

「好悪で揺らぐな──“忠信と義”が判断の軸」


この章句は、道徳・人格・組織判断における“不動の原則”を示しています。
判断を「感情」ではなく「信義と道理」に基づくこと。これこそが、徳を高め、惑いを退ける道なのです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次