――徳を広めるには、時と根気が要る
孔子は、たとえ天から命を受けた理想の王――つまり「王者(おうじゃ)」――が現れたとしても、
その仁(じん)、すなわち人への思いやりや道徳を社会に行き渡らせるには「一世代」――すなわち三十年の時間が必要だと語った。
政治の改革や制度の改変は短期間でも可能かもしれない。
しかし、人々の心を変え、善を育むには、それだけの歳月と粘り強さが不可欠である。
孔子のこの言葉は、急激な成果を求めすぎず、本当に良い社会を築くには時間がかかるという深い現実認識と、徳治への揺るぎない信念を示している。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)曰(いわ)く、如(も)し王者(おうじゃ)有(あ)らんも、必(かなら)ず世(よ)にして後(のち)に仁(じん)たらん。」
注釈:
- 王者(おうじゃ) … 天命を受け、完全な徳を備えた理想の君主。聖人に近い存在。
- 世(よ) … 一世代、三十年を表す単位。教育や文化の浸透にかかる時間の目安。
- 仁(じん) … 儒教における中核的な徳目。思いやり・慈しみ・人間愛を意味する。
1. 原文
子曰、如有王者、必世而後仁。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、如(も)し王者(おうじゃ)有(あ)らば、必(かなら)ず世(よ)にして後(のち)に仁(じん)たらん。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ)
- 「子曰く、如し王者有らんも」
→ 孔子は言った。「もし真に天下を治める理想的な王が現れたとしても、」 - 「必ず世にして後に仁たらん」
→ 「その王の統治が一代(=一世)続いて初めて、世の中は“仁”のある社会になるだろう。」
4. 用語解説
- 如し~有らんも(もし〜あらんも):仮定表現。「もし〜があれば」「もし〜が現れたとしても」。
- 王者(おうじゃ):理想的な統治者。徳と能力を備えた“仁”に基づく聖王(堯舜など)を指す。
- 世(よ):一世代、あるいは一代の統治期間。通常30年程度を意味する。
- 仁(じん):儒教における最高の徳。思いやり・誠実さ・人間愛などを含む、理想的な人間関係のあり方。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「たとえ徳を備えた理想の王が現れたとしても、
その王が一代にわたって統治を続けなければ、世の中に“仁”は実現しないだろう。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「理想の社会(仁の世)を築くには、時間と継続が必要である」**という、儒教の根本的な思想を示しています。
- どれほどすぐれたリーダーが現れても、“仁”のある社会は一朝一夕にはできない。
- 少なくとも一世代にわたる継続した徳政があって初めて、民の心が変わり、風俗が整い、仁が根づく。
- ここには、即効的な統治や短期的な成果に対する戒めと、教育と徳治の積み重ねへの信念が込められています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
- 「理念の浸透には時間がかかる」
新しいビジョン・価値観を掲げても、それが社員の行動や文化に根づくには、少なくとも数年単位の継続的な取り組みが必要。 - 「組織文化は一代で築くもの」
創業者・社長・リーダーが変わっても理念が残るためには、在任中に“仁”をベースにした文化を形にしておくことが重要。 - 「即効性より継続性を重視するマネジメント」
制度や組織変革の効果が出ないからといってすぐにやめるのではなく、一世代(3~5年)かけて根づかせる覚悟が必要。 - 「長期視点で信頼と倫理を築く」
クライアントや社員との信頼関係、あるいは企業倫理も、積み重ねと一貫性の上にしか成立しない。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「“仁のある組織”は一代で築く──即効より継続の徳治マネジメント」
この章句は、「一人の偉大なリーダーがいても、社会を変えるには時間が必要だ」という、現代にも通じる真理を教えてくれます。
企業経営や組織変革においても、“長期的に人を育て文化を根づかせる視点”の重要性を示す、極めて実践的な教訓です。
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