― ごう慢と吝嗇(りんしょく)は、美徳を打ち消す毒になる
孔子は、最も尊敬する人物のひとり「周公(しゅうこう)」のような偉大な才能を持っていても、
もしその人がごう慢(おご)り高ぶり、**吝嗇(けち)**であったならば、
その人のその他の美点など、見るに値しないと断言した。
能力があることと、徳があることは別物である。
どれほどの知恵や功績があっても、
他人を見下したり、与えることを惜しんだりすれば、
その人物は人としての魅力を欠き、
真の尊敬を集めることはできない。
真に優れた人とは、才能とともに、
謙虚さと惜しみない心を持つ者である。
原文と読み下し
子(し)曰(のたま)わく、如(も)し周公(しゅうこう)の才(さい)の美(び)有(あ)るも、驕(おご)り且(か)つ吝(りん)ならしめば、其(そ)の余(よ)は観(み)るに足(た)らざるなり。
注釈
- 周公(しゅうこう):周の政治家・周公旦(しゅうこう・たん)。孔子が最も尊敬していた理想の聖人君子。
- 才の美(さいのび):優れた能力や美点、完成された人格的・政治的才能。
- 驕(おご)り:傲慢、高慢、自己中心的な態度。他者を軽んじる姿勢。
- 吝(りん):けち、物惜しみ。特に知識・富・情の共有を渋ることを指す。
- 観るに足らざるなり:見る(評価する)価値がないという厳しい否定。孔子の強い価値観が表れている。
原文:
子曰、如有周公之才之美、使驕且吝、其餘不足觀也已矣。
書き下し文:
子(し)曰(いわ)く、如(も)し周公(しゅうこう)の才(さい)と美(び)有(あ)るも、之(これ)をして驕(おご)り且(か)つ吝(やぶさ)かならしめば、其(そ)の余(よ)は観(み)るに足(た)らざるなり。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「如し周公の才の美有るも」
→ たとえ周公のような才能と品格を兼ね備えていたとしても、 - 「驕り且つ吝かならしめば」
→ 高慢であり、ケチであったとしたら、 - 「其の余は観るに足らざるなり」
→ その他の美点は見るに値しない(評価する意味がない)。
用語解説:
- 周公(しゅうこう):周の聖賢で、孔子が最も尊敬した政治家。礼楽制度を整えた理想的な政治家とされる。
- 才(さい):才能。知恵やスキル、実務能力。
- 美(び):美徳・品格・人格的魅力。
- 驕(おごる):傲慢、高慢、自己を過信する態度。
- 吝(やぶさか/りん):物惜しみすること。ケチであったり、人に施すことを嫌がる。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう言った:
「たとえ周公のようにすばらしい才能と美徳を持っていたとしても、
その人が傲慢であり、分かち合う心に欠けているならば、
他の長所など見る価値はない。」
解釈と現代的意義:
この章句は、**「人間の評価は“謙虚さ”と“寛容さ”で決まる」**という孔子の明確な人間観を表しています。
いくら能力や品格があっても、驕(おごり)=他者を見下す態度や、吝(やぶさか)=分かち合いを拒む姿勢があれば、その人物はリーダーや模範としての価値を失うという厳しい評価です。
孔子は「人格がともなわない能力」はむしろ危険であり、尊敬に値しないと断じています。
ビジネスにおける解釈と適用:
1. 「能力があっても、傲慢なら信頼されない」
- どれほど成果を上げていても、驕り高ぶった言動は人望を失う。
- 上司やエース社員こそ、「謙虚さ」で組織に安心感を与えるべき。
2. 「成果を独占する者は、組織の敵になる」
- 吝(けち)=知識・実績・成功を共有せず、自分だけで囲い込む姿勢。
- ノウハウを共有しない、後進を育てない人材は、組織の成長を阻む。
3. 「“人格の質”が最終評価を決める」
- 採用・昇進の判断には、スキルや知識だけでなく、謙虚さと分かち合いの精神を重視すべき。
- 周囲に敬意を払えるか、成功をチームに還元できるかが「真の評価基準」。
ビジネス用心得タイトル:
「才あれど驕れば害となる──謙虚と寛容が真の人望を生む」
この章句は、「人材評価」「リーダーシップ開発」「昇進基準」の根幹に据えるべき価値観を示します。
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