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旨酒を憎んで善言を好む

王たる者は私欲を退け、賢言と実践に生きる

孟子は、五人の理想的統治者の徳と姿勢を挙げ、それぞれの優れた特徴を通じて、君子やリーダーが目指すべき道を説いた。

  • 禹(う)王は、旨酒(うまざけ)を憎み、善言を好んだ
     → 快楽に溺れず、正しい言葉や忠告を愛した。
      ※「酒池肉林」で滅びた殷の紂王とは対照的。
  • 湯(とう)王は、中庸の徳を実践し、身分や出自を問わず賢者を登用した。
     → フラットな人材登用こそが、国を強くする源となる。
  • **文王(ぶんのう)**は、民を傷ついた者のように労(いた)わり、
     真理を渇望する心は、まだ見ぬものを切に求めるようであった。

     → 仁愛と求道心が、国政の中心にあった。
  • **武王(ぶおう)**は、近親者を甘やかさず、遠い者を疎かにしなかった。
     → 公平無私な態度が、周の興隆を導いた。
  • **周公(しゅうこう)**は、上記の三王(禹・湯・文)の徳をすべて兼ね備え、
     四王(禹・湯・文・武)の偉業を現代に活かすにはどうすべきかを考え抜いた。
     昼夜を問わず思索を重ね、
     答えを得れば、夜も寝ずに明け方を待ってすぐに実行するほどの実践力を持っていた。

原文(ふりがな付き)

孟子(もうし)曰(いわ)く、
禹(う)は旨酒(うまざけ)を悪(にく)みて、善言(ぜんげん)を好(この)む。
湯(とう)は中(ちゅう)を執(と)り、賢(けん)を立(た)つること方(ほう)無し。
文王(ぶんのう)は民(たみ)を視(み)ること傷(きず)つけるが如(ごと)く、
道(みち)を望(のぞ)むこと未(いま)だ之(これ)を見(み)ざるが而(ごと)し。
武王(ぶおう)は邇(ちか)きに泄(もら)さず、遠(とお)きを忘(わす)れず。
周公(しゅうこう)は三王(さんおう)を兼(か)ね、以(もっ)て四事(しじ)を施(ほどこ)さんことを思(おも)う。
其(そ)の合(あ)わせざる者(もの)有(あ)らば、仰(あお)いで之を思(おも)い、夜(よ)を以(もっ)て日(ひ)に継(つ)ぐ。
幸(さいわ)いにして之を得(え)れば、坐(ざ)して以(もっ)て旦(あした)を待(ま)つ。


注釈

  • 旨酒:美酒・濃い酒。快楽の象徴。
  • 善言:誠実で徳にかなう言葉。忠言、正論。
  • 方無し:出自や地位を問わず、誰からでも賢者を登用すること。
  • 視民如傷:民をあたかも傷ついた者のように思いやる。
  • 坐して以て旦を待つ:思索し実行を焦がれ、夜通し寝ずに夜明けを待つ姿勢。

心得の要点

  • 統治者に必要なのは、快楽よりも正義を選ぶ判断。
  • 中庸と実力本位の登用こそが組織を支える。
  • 民への深い共感と、未知への探究心がリーダーの資質を育てる。
  • 徳の実践に夜も昼もない。真に国を思う者は、行動を惜しまない。

パーマリンク案(スラッグ)

  • virtue-over-pleasure(快楽より徳を)
  • govern-with-compassion-and-wisdom(思いやりと知恵による統治)
  • model-of-five-kings(五王に学ぶリーダーの道)

この章は、古代中国の王たちの美徳を通じて、理想のリーダー像を描いています。
それは時代を超えて、現代の組織運営・公共リーダー・教育者・経営者にとっても、深い学びを与えてくれます。

原文:

孟子曰:
禹、惡旨酒、而好善言;
湯、執中立賢無方;
文王、視民如傷、望道而未之見;
武王、不泄邇、不忘遠;
周公、思三王、以施四事、其不合者、仰而思之、夜以繼日、幸而得之、坐以待旦。


書き下し文:

孟子(もうし)曰(いわ)く、
禹(う)は旨酒(ししゅ)を悪(にく)みて、善言(ぜんげん)を好(この)み、
湯(とう)は中(ちゅう)を執(と)り、賢(けん)を立(た)つるに方(ほう)無し。
文王(ぶんのう)は民(たみ)を視(み)ること傷(きず)つくがごとく、道(みち)を望(のぞ)むも未(いま)だ之(これ)を見(み)ず。
武王(ぶおう)は邇(ちか)きに泄(も)らさず、遠きを忘(わす)れず。
周公(しゅうこう)は三王(さんおう)を思(おも)いて、以(もっ)て四事(しじ)を施(ほどこ)さんとす。
其(そ)の合(がっ)せざる者有(あ)れば、仰(あお)いで之を思(おも)い、夜(よ)を以(もっ)て日(ひ)に継(つ)ぐ。
幸(さいわ)いにして之を得(え)ば、坐(ざ)して以て旦(あした)を待(ま)つ。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳):

  • 「禹は、旨酒を悪んで、善言を好む」
     → 禹王はうまい酒を嫌い、忠告や誠実な意見を好んだ
  • 「湯は、中を執り、賢を立つること方無し」
     → 湯王は中庸を保ち、賢者を登用するのに偏りがなかった(派閥を作らなかった)
  • 「文王は、民を視ること傷つけるが如く、道を望むも未だ之を見ず」
     → 文王は民をまるで傷を負った人のように労わり、道を求め続けたが、それでもなお道が完全に見えたわけではなかった
  • 「武王は、邇きに泄れず、遠きを忘れず」
     → 武王は近くの人(身近な民)を軽んじることなく、遠くの人(遠方の人民)も忘れなかった。
  • 「周公は三王を思いて、以て四事を施さんとす」
     → 周公は三王(禹・湯・文王)の事跡を思い出しながら、四つの政策を施そうと考えた
  • 「其の合せざる者有れば、仰いで之を思い、夜を以て日に継ぐ」
     → もしうまくいかないことがあれば、天を仰いで深く考え、昼夜を問わず努力を重ねた
  • 「幸いにして之を得れば、坐して以て旦を待つ」
     → もし正解・道理を得られたら、それを胸に静かに夜明けを待つ(満足や焦らず待つ姿勢)

用語解説:

  • 旨酒(ししゅ):美味しい酒。享楽や贅沢の象徴。
  • 善言(ぜんげん):忠言・誠実な助言・正論。
  • 方無し:特定の方向・偏りがないこと。無派閥・公平な登用。
  • 視民如傷:民の苦しみに対して敏感で、共感する姿勢。
  • 四事(しじ):儒教における四つの政治原則(礼・義・仁・智)または四つの統治の柱とされる。
  • 仰いで思う:深く考え、誠心を持って模索する姿。
  • 坐して旦を待つ:結果を焦らず待つ、心静かに備える態度。

全体の現代語訳(まとめ):

孟子はこう言った:
「禹王は酒の快楽を嫌い、まっすぐな言葉を喜んだ。
湯王は中庸を守り、誰にでも公平に賢者を用いた。
文王は民をまるで傷ついている者のように労わり、道を求め続けたが、まだ十分にその道を見出せなかった。
武王は近くの者を軽んじることなく、遠くの者をも忘れなかった。
周公はこれら三王の行いをふまえ、四つの施策を実現しようと努力した。
うまくいかないことがあれば天を仰いで深く考え、昼夜を問わず精進を重ね、
もし道理を得られたなら、ただ静かに朝が来るのを待った。」


解釈と現代的意義:

この章句は、古代の理想の王たち(禹・湯・文王・武王・周公)のそれぞれの資質や行動様式を描きながら、真のリーダーシップの在り方を総合的に示すものです。

孟子はこの中で、次のようなリーダー像を強調しています:

  • 享楽より誠実な言葉を重んじる(禹)
  • 中庸で偏らず人材登用する(湯)
  • 民に対して共感をもつ(文王)
  • 広く公平な視点で統治する(武王)
  • 過去の偉人に学び、考え抜き、焦らず実行する(周公)

このように、「徳」「誠」「公平」「共感」「不断の努力」というリーダーの徳目がそれぞれの人物に象徴されており、孟子の理想国家観が凝縮されています。


ビジネスにおける解釈と適用:

  • 「“成果主義”より“誠実主義”」
     甘言よりも本音・忠言を好み、耳に痛い意見にも素直に向き合う姿勢が、真のリーダーシップを育む(禹)
  • 「偏らない人材登用が、組織の強さを決める」
     特定の派閥・学閥に偏らず、実力本位で人を用いることが健全な組織運営の基礎(湯)
  • 「共感力こそ、時代の必須スキル」
     民・顧客・社員の痛みを感じとれるリーダーが、本当の信頼を得られる(文王)
  • 「全体を見る統治力、ローカルにも目を向ける」
     現場(近く)を軽んじず、遠方の関係者や未来の影響にも配慮する視点(武王)。
  • 「常に学び、考え、そして静かに成果を待つ」
     即効性を求めず、誠実な思考と努力を継続し、タイミングを信じて待てる胆力(周公)

ビジネス用心得タイトル:

「仁と誠に導かれ、思考と歴史に学ぶ──“王たる者”の五つの姿勢」


この章句は、リーダー育成・企業理念策定・組織哲学研修などに非常に適した教材です。

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