どれほど時代に翻弄されても、正しい道を守る人の生き方は、決して朽ちない価値を持つ。
一方、一時の安楽や権力者への迎合は、かえって永遠の孤独と後悔を招く。
真に賢い人は、今この瞬間の利益に目を奪われず、生きた証が未来に残るかを思い、
たとえ孤独であっても、誠実な道を選びとる。
原文:
棲守德者、寂寞一時。依阿權勢者、凄涼萬古。
人觀物外之物、思身後之身。寧受一時之寂寞、毋取萬古之凄涼。
書き下し文:
徳に棲守する者は、一時に寂寞たり。権勢に依阿する者は、万古に凄涼たり。
人、物外の物を観、身後の身を思う。寧ろ一時の寂寞を受くるも、万古の凄涼を取ること毋かれ。
「道徳(どうとく)に棲守(せいしゅ)する者(もの)は、一時(いっとき)に寂寞(せきばく)たり。
権勢(けんせい)に依阿(いあ)する者は、万古(ばんこ)に凄涼(せいりょう)たり。
達人(たつじん)は物外(ぶつがい)の物を観(み)、身後(しんご)の身を思(おも)う。
寧(むし)ろ一時の寂寞を受(う)くるも、万古の凄涼を取(と)ること毋(なか)れ。」
現代語訳(逐語/一文ずつ):
- 「徳に棲守する者は、一時に寂寞たり」
→ 道徳を守って生きる人は、しばらくの間は世間から孤立し、寂しい思いをすることがある。 - 「権勢に依阿する者は、万古に凄涼たり」
→ 権力におもねって生きる者は、最終的には長く深い孤独と惨めさに苦しむことになる。 - 「人、物外の物を観、身後の身を思う」
→ 人は、目先の利得ではなく、超越的・精神的な価値を見つめ、死後にも恥じない自らの姿を考えるべきである。 - 「寧ろ一時の寂寞を受くるも、万古の凄涼を取ること毋かれ」
→ 一時の寂しさは甘受しても、永遠に悔いの残るような人生は選ぶべきではない。
用語解説:
- 棲守徳(せいしゅとく):道徳や正義の拠り所に身を置き、それを固く守って生きること。
- 寂寞(じゃくまく):孤独・寂しさ・世間から距離を置かれる状態。
- 依阿(いあ):こびへつらうこと。特に権力者に従って自らを曲げること。
- 凄涼(せいりょう):心が寒々しいこと。悲しみ・むなしさ・惨めさ。
- 物外の物:目先の利得や名誉とは異なる、超越的・精神的な価値。
- 身後の身:死後の評判、あるいは死後の自分(魂の在り方)を指す。
全体の現代語訳(まとめ):
道徳をしっかりと守って生きる人は、一時的には寂しく孤独に見えるかもしれない。
しかし、権力や権勢におもねって生きる人は、最後には虚しさと惨めさに襲われ、永遠に心安らかにはなれない。
人は目先の利益ではなく、精神的・本質的な価値に目を向け、死後に悔いない生き方を心がけるべきである。
たとえ今、孤独で寂しくとも、それを甘んじて受けるほうが、未来に永遠の後悔を抱えるよりよほど良いのだ。
解釈と現代的意義:
この章句は、**「誠実で高潔な生き方は孤独を伴うが、それこそが真の幸福に通じる道である」**という哲理を語っています。
一時の“損”や“不遇”を避けて、力のある者に従えば楽に生きられるように思える。
しかしそれは、真実の自己を見失い、やがて深い後悔に沈むことを意味する。
一方、どんなに孤独でも、自らの信念と徳を守って生きるならば、心は穏やかで、死後にも悔いのない生涯となる。
「物外の物を観よ」「身後の身を思え」とは、日常の喧騒から離れた視点を持ち、人生の本質を見極めよという、深い警句です。
ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き):
- 「短期の利益に飛びつかず、信頼と品格を守る」
一時の売上や承認欲求に駆られて不誠実な判断をすることは、長期的に組織の信頼を損ないます。 - 「迎合よりも信念、保身よりも誠実」
上司や取引先に忖度しすぎて自らの倫理を曲げることは、後々の信頼喪失に繋がります。
部下や顧客は「言いなりの人」よりも、「芯のある人」に信頼を寄せるのです。 - 「自分の死後、どう思われたいかを基準に判断する」
その場の評価や評判ではなく、「あの人は正しかった」「誠実だった」と後世に語られるような行動を意識することで、視野と判断基準が高まります。
「孤独を恐れず、信念を守れ──短期の迎合より、長期の信頼を選べ」
コメント