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権力者に求められるのは、徳と責任の覚悟

天下を治める者は、ただ地位にあるというだけでは務まらない。古の聖王たちは皆、自らの地位を「天命」として重く受け止め、万民を思いやる心と、大きな責任を担う覚悟を持って政治を行った。

堯・舜・禹・湯・武王といった歴代の聖王たちは、権力の重みを正しく認識し、自らの徳をもって人民に応えようとした。民が苦しめば、それは己の過ちと捉え、逆に民の罪であっても、それを自分が引き受けようとさえした。

また、政を正しく行うには制度や法律を整え、人材を公平に登用し、亡国を興し、隠れた賢者を引き出す器量が求められる。

そして根本にあるべきは、「寛(おおらかさ)」「信(誠実さ)」「敏(俊敏さ)」「公(公平さ)」の四つの徳である。

責任は己に、成果は民に──“徳治”こそ最強のリーダーシップ。

真に偉大な指導者は、責任を背負い、民を信じ、制度を正し、文化を支える者である。

目次

原文(ふりがな付き引用)

堯(ぎょう)は曰(い)わく、「咨(ああ)、爾(なんじ)舜(しゅん)。天(てん)の暦数(れきすう)、爾(なんじ)の躬(み)に在(あ)り。允(まこと)に其(そ)の中(ちゅう)を執(と)れ。四海(しかい)困窮(こんきゅう)せば、天禄(てんろく)永(なが)く終(お)わらん」と。

舜(しゅん)も亦(また)以(もっ)て禹(う)に命(めい)ず。曰(い)わく、「予(わ)れ小子(しょうし)履(りょ)、敢(あ)えて玄牡(げんぼ)を用(もち)いて、敢(あ)えて昭(あき)らかに皇皇(こうこう)たる后帝(こうてい)に告(こく)ぐ。罪(つみ)あるは敢(あ)えて赦(ゆる)さず。帝臣(ていしん)蔽(おお)わず。簡(えら)ぶこと帝の心に在(あ)り。朕(ちん)が躬(み)に罪(つみ)有(あ)らば、万方(ばんぽう)を以(もっ)てする無(な)かれ。万方に罪有(あ)らば、罪は朕が躬に在り」。

「周(しゅう)に大(おお)いなる賚(たまもの)有(あ)り。善人(ぜんにん)是(こ)れ富(と)めり。周親(しゅうしん)有りと雖(いえど)も、仁人(じんじん)に如(し)かず。百姓(ひゃくせい)過(あやま)ち有(あ)らば、予(よ)れ一人に在(あ)り」。

「権量(けんりょう)を謹(つつし)み、法度(ほうど)を審(つまび)らかにし、廃(すた)れた官(かん)を脩(おさ)め、四方(しほう)の政(まつりごと)行(おこな)わる。滅(ほろ)びたる国(くに)を興(おこ)し、絶(た)えたる世(よ)を継(つ)ぎ、逸民(いつみん)を挙(あ)ぐれば、天下(てんか)の民(たみ)、心(こころ)を帰(き)せり。重(おも)んずる所(ところ)は民(たみ)、食(しょく)、喪(そう)、祭(さい)なり。寛(かん)なれば則(すなわ)ち衆(しゅう)を得(え)、信(しん)あれば則ち民(たみ)任(にん)ず。敏(びん)なれば則ち功(こう)有(あ)り、公(こう)なれば則ち説(よろこ)ぶ」。

補足の解釈

偉大な為政者とは、自らの功を誇る者ではなく、民の苦しみを己の責任として受け止める覚悟を持った者である。制度整備や人材登用だけでなく、寛容さ・誠実さ・俊敏さ・公平さの四徳が、最も大切な資質として挙げられている。

注釈(重要語句)

  • 暦数:天命。帝位に就くべき運命。
  • 中(ちゅう):中庸。極端に走らず、道理を保つこと。
  • 天禄:天から与えられた恩恵。為政者が民を苦しめればそれが絶える。
  • 玄牡:黒い牡牛。天に誓うときの神聖な供え物。
  • 后帝:天帝。天命を下す神格的存在。
  • 簡ぶ(えらぶ):選ぶ。天意によって人を選ぶこと。
  • 逸民:世を逃れ隠れている有徳の人。これを登用することが政治刷新につながる。
  • 四徳(寛・信・敏・公):寛大さ、誠実さ、俊敏さ、公平さ。為政者の徳目。

用語解説

  • 暦数:天命、天の定めた王位継承。
  • 其中:中庸の道、偏らぬ徳。
  • 天禄:天が与える福、天命の継続。
  • 玄牡:黒毛の牡牛。神に供える際の最も格式高い供物。
  • 皇皇后帝:天帝。天を司る神格。
  • 簡在帝心:「簡ぶ(えらぶ)こと帝の心に在り」、公正な裁きは神の心に叶う。
  • 邦家:国家、王朝。
  • 権量・法度:秤や尺など、正確な制度・基準。
  • 喪・祭:祖先・親の弔いと供養。道徳秩序の根本。
  • 敏・公:敏速な行動と公平な態度。

4. 全体の現代語訳(まとめ)

堯は舜に語った:

「天の命はお前にある。中庸の徳を大切にせよ。天下が苦しめば、天からの祝福も絶えてしまう。」

舜も禹に命じて言った:

「私は天に誓い、公正に政治を行う。罪ある者を赦さず、悪をかばわない。
もし自分が悪ければ、その責任は私にある。民が悪ければ、それもまた私の責任だ。
賢人を登用し、身内よりも徳ある者を重んじよ。民が誤ったなら、それは君主の責任である。
度量を正しくし、法を明確にし、制度を整備せよ。隠れた人材を登用すれば、民は心から従う。
最も大切なのは、民の暮らし、食料、葬儀、祖先の祭祀である。
寛容であれば人が集まり、信があれば人が頼り、敏速であれば成果があり、公正であれば人は心から従う。」


5. 解釈と現代的意義

この章句は、儒教における理想的統治者の姿を示す政治倫理の結晶です。

  • 「リーダーの責任原則」:民の誤りすら自分の責任とする態度が、最高の統治者の徳。
  • 「人材登用の公正さ」:血縁よりも仁徳を重視し、優れた者を抜擢する姿勢。
  • 「基本に忠実な政治」:食と死(喪祭)に代表される、生活と道徳の両立。
  • 「徳による支配」:天命を受ける者は、徳を以て民を導き、行動・信義・公平によって自然と民心を得る

6. ビジネスにおける解釈と適用

「トップの責任こそが組織の信頼を築く」

部下の失敗に対して責任転嫁せず、**「責任は自分にある」**とするリーダーは、真に信頼される。

「公正な人材登用が組織の未来をつくる」

血縁・肩書き・社歴に頼らず、実力と人間性で評価する登用システムこそが健全な組織を育てる。

「生活・文化・制度の三位一体」

給与や労働環境だけでなく、人間関係や儀礼・文化の充実が人の心を繋げる。喪祭の重視は、現代で言えば“社員や家族のライフイベントへの配慮”とも読める。

まとめ

この章句は、『論語』の中でも最も統治とリーダーシップの本質に迫る内容です。
特に責任感・信義・寛容・人材登用・制度改革という5つの柱は、現代の経営哲学にもそのまま応用できます。

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