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■引用原文
詩曰、衣錦尚絅、悪其文之著也、
故君子之道、闇然而日章、小人之道、的然而日亡、
君子之道、淡而不厭、簡而文、温而理、
知遠之近、知風之自、知微之顕、可与入徳矣、
詩云、潜雖伏矣、亦孔之昭、
故君子内省不疚、無悪於志、
君子所不可及者、其唯人之所不見乎、
詩云、相在爾室、尚不愧于屋漏、
故君子不動而敬、不言而信。
■逐語訳
- 『詩経』に「錦の衣をまとい、その上から絅をかける」とあるのは、
華やかな模様をむやみに目立たせることを嫌ったということ。 - それゆえ君子の道は目立たないようでいて、日ごとにその価値が明らかになり、
小人の道ははっきりしているようでいて、日ごとに消えていく。 - 君子の道は、淡泊で飽きられず、
簡素でありながら文彩があり、
穏やかでありながら条理がある。 - 遠いことも近くから始まると知り、
風俗もその根源を知り、
微かなものほど顕著に表れることを知れば、
徳の世界に入ることができる。 - 『詩経』に「潜んでいても明らかである」とあるように、
君子は内省して恥じるところがなく、心に悪しきことがない。 - 君子の最も優れていて及びがたい点は、
まさに人の見えないところにある。 - 『詩経』に「部屋の隅の神の御坐所にも恥じることなく」とあるように、
君子は動かずとも敬われ、言葉を出さずとも信頼されるのである。
■用語解説
用語 | 意味 |
---|---|
錦を衣て絅を尚う | 錦の上に薄布をかけ、華美さを抑える。内に美徳を秘める態度の比喩。 |
闇然而日章 | 目立たなくても日々その価値が明らかになる。 |
的然而日亡 | 明白に見えて実は薄く、日ごとに力を失うさま。 |
簡而文、温而理 | 簡素でも風格があり、温かでも理にかなうこと。 |
知遠之近、知風之自 | 物事の結果から因を知る、風俗の背後にある原因を理解する。 |
微の顕なることを知る | 微細な兆候により大きなものが予見されるという認識。 |
屋漏 | 部屋の西北隅、神の居処とされる場所。見られなくても恥じないという意味。 |
慎独・内省 | 人の見ていないところでこそ徳が試されるという中庸の核心。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
『詩経』の「錦に絅をかける」という句は、華美をひけらかすことを戒めたものである。
このように、君子の道は目立たぬようでいて着実に日々価値が現れ、小人の道は見栄えはよくてもやがて滅びる。
君子の徳は淡泊であっても人を惹きつけ、簡素であっても味わい深く、穏やかでありながら秩序がある。
さらに、遠い結果は近い原因に始まると知り、
風俗の乱れもその本源を探り、
小さな兆しが大きな事象に繋がると理解するならば、
その人はまさに徳の道に入ることができるであろう。
『詩経』にも「隠れていても明らかである」とあるように、
君子は心の中を省みて恥じることなく、悪しき志も持たない。
君子の真に優れた点は、人の目に触れない内面にこそある。
これもまた『詩経』に「神の居処にさえ恥じぬように」とあるように、
そのような君子は、言葉を発せずとも信を得、行動をせずとも敬を集めるのである。
■解釈と現代的意義
観点 | 解釈 |
---|---|
内面の修養が第一 | 見栄えよりも、心の純粋さと誠実な省察が君子の本質。 |
目立たずして実を挙げる | 成果よりも過程における誠と継続が評価されるべき姿。 |
慎独の徳 | 誰にも見られていないときこそ、真の人格が試される。 |
徳は徐々に世界へ影響を与える | 声を張らずとも、真の誠は信と敬を自然に招く。 |
■ビジネス応用と心得ポイント
- 成果よりプロセスを磨くことが信用を生む
→ 実力者は声高に語らずとも評価される。結果がすべてではない。 - 密かな努力こそ最大の価値
→ 見えないところでの誠実さが、信頼とリーダーシップを生む基礎となる。 - 外面ではなく内面の品格が継続的な力に
→ デザインやマーケティング以上に、プロダクトや人材の「本質」で勝負すべき。
■心得一句(まとめ)
「隠れて明らか、語らずして信を得る」
――外より内を、形より実を重んずることが、君子たる道である。
この第十九章は、『中庸』全体の総まとめとも言える内容であり、
「慎独」「内省」「自然と調和する徳の作用」など、君子の完成像が凝縮されています。
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