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欲を抑えるだけでは、仁には届かない

――仁とは、克己に加えて、積極的な学びと愛に満ちてこそ

孔子の弟子・原憲(げんけん)は、こう問いかけた。

他人に勝とうとせず(克)、功績を誇らず(伐)、
人を恨まず(怨)、欲を抱かず(欲)――
これらのことをしない人は、仁の人と言えるでしょうか?

孔子は一旦、こう答える。

「それができる人間は、確かにたいへん立派であり、実に難しいことだ
しかし、それだけで仁の人と言えるかどうかは、私には断言できない。」

孔子がここで言いたいのは、「仁」とは単なる“禁欲”ではないということ。
「欲しない」「しない」という消極的な善だけでは、まだ仁に届かない。

仁には、「人を愛すること」「忠恕(ちゅうじょ=まごころと寛容)」「学問と行動を通じた人格の形成」など、
積極的な面も含まれる
自分を抑えることができるだけでなく、進んで人のために尽くす姿勢が必要だと、孔子は語っている。


原文とふりがな付き引用:

「克(こく)、伐(ばつ)、怨(えん)、欲(よく)、行(おこな)われざるは、以(もっ)て仁(じん)と為(な)すべきか。
子(し)曰(いわ)く、以て難(かた)しと為すべし。仁は則(すなわ)ち吾(われ)知らざるなり。


注釈:

  • 克(こく) … 他人に勝ちたいという競争心。
  • 伐(ばつ) … 自らの手柄や能力を誇ること。
  • 怨(えん) … 恨みを持つこと。
  • 欲(よく) … 過度な欲望。
  • 仁(じん) … 思いやり・人間愛・誠実さなどの総合的人格的徳目。
  • 吾知らざるなり … 断言できない。ここでは「それだけでは足りない」という含みの否定。

1. 原文

克伐怨欲不行焉、可以爲仁矣。子曰、可以爲難矣、仁則吾不知也。


2. 書き下し文

克(こく)・伐(ばつ)・怨(えん)・欲(よく)、行(おこな)はれざるは、以(も)って仁(じん)と為(な)すべきか。
子(し)曰(いわ)く、以て難(なん)しと為すべし。仁は則(すなわ)ち吾(われ)知らざるなり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

「克・伐・怨・欲、行われざるは、以て仁と為すべきか」
→ 自分を抑えること(克)
→ 自慢しないこと(伐)
→ 恨まないこと(怨)
→ 欲望に流されないこと(欲)
→ これらがすべて行動に現れない(つまりそれらを抑制している)ならば、それは仁と呼べるだろうか?

「子曰く、以て難しと為すべし。仁は則ち吾知らざるなり」
→ 孔子は言った。「それは確かに非常に難しいことだ。しかし、それをもって“仁”と言えるかどうかは、私にはわからない。」


4. 用語解説

  • 克(こく):自己抑制、特に感情や欲望を抑えること。
  • 伐(ばつ):自分の功績を誇ること、自己顕示。
  • 怨(えん):他人を恨む心、憎しみ。
  • 欲(よく):物欲・名誉欲・色欲など、さまざまな欲求。
  • 仁(じん):孔子の道徳的理想。思いやり・人間愛・真の人格的完成。
  • 吾知らざるなり:ここでは「それが仁かどうか、私には断言できない」という慎重な態度。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

「自制心を持ち、自慢せず、恨みを抱かず、欲望に支配されない。
──これらがすべて実行できるならば、仁(理想の人間)であると言えるだろうか?」

孔子はこう答えた:

「それを実行するのは確かに非常に難しいことだ。しかし、それだけで“仁”と呼べるかどうかは、私には断言できない。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「内面的な抑制があっても、それが仁とは限らない」**という、孔子の深い倫理観を示しています。

つまり:

  • 単に感情や欲望を抑えるだけでは、仁(真に徳のある人間)にはなれない。
  • 行動の抑制は必要条件かもしれないが、十分条件ではない。
  • 真の仁とは、自制を超えて、積極的な愛・誠実さ・他者への関与を含む「生きた徳」である。

孔子は、“規律”にとどまらない「温かみと深さ」を持つ人格の完成を「仁」と定義し、それを安易に評価することを避けました。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

✅「単に“問題を起こさない人”が理想の社員とは限らない」

  • 無難に振る舞い、自己主張せず、感情を抑えている社員は一見“理想的”に見える。
  • しかしそれは「仁=理想の人格」ではなく、「問題を起こさない人」にすぎない。
  • 組織にとって必要なのは、誠実さ・共感・行動を伴った“貢献する人格”

✅「抑制力は重要だが、それだけでは“信頼”は得られない」

  • 欲望に支配されず、冷静に行動できるのは貴重。
  • しかし、そこに他者との関係性・思いやり・実行力が加わらなければ、リーダーや信頼される人物にはなれない。

✅「成果より“どう生きているか”を見よ」

  • 高い成果を上げていても、周囲に傲慢さ・恨み・欲望がにじみ出ていれば、それは“仁”ではない。
  • 「日常のふるまい」と「組織への影響」を総合的に見てこそ、人間的な評価は成り立つ。

8. ビジネス用の心得タイトル

「抑えるだけでは仁に非ず──信頼される人間は、“内面の徳”で動く」


この章句は、「自己制御は立派だが、それはあくまでスタート地点」であり、
真の徳(仁)とは、“他者を思い、積極的に働きかける人間”であるという孔子の深い価値観を物語っています。



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