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徳は風のように下を動かす。始まりはすべて自分から

礼も感動も、上に立つ者の真心しだい

再び孟子のもとを訪れた然友に、孟子はこう言った。
喪の礼をどうすべきかという問題に対して、それは他人に求めるものではなく、自分の心の尽くし方であると。

孔子もかつて説いた。
君主が亡くなれば、太子は政を冢宰に任せ、自らは粗食をとり、顔に深く墨をつけ、決まった場で心から哭する。
その姿を見た役人たちは、自然と感動し、誰一人として哀しみを忘れることはない。

上に立つ者が心を尽くせば、下にいる者も必ずそれに感化される。
君子の徳は風、小人の徳は草。
風が吹けば、草は必ずなびく。
喪に限らず、政治も人間関係も、すべては上に立つ者のあり方にかかっている。

つまり、すべての始まりは「自分」なのだ。
徳ある者は、姿をもって人を動かす。礼もまた、心なくしては風とならない。


引用(ふりがな付き)

君子(くんし)の徳(とく)は風(かぜ)なり。小人(しょうじん)の徳(とく)は草(くさ)なり。草(くさ)之(これ)に風(かぜ)を尚(くわ)うれば、必(かなら)ず偃(ふ)す。是(こ)れ世子(せいし)に在(あ)り。


簡単な注釈

  • 歠粥(せんしゅく):粗末な粥をすする。贅沢を避け、哀悼の気持ちを表す儀礼。
  • 深墨(しんぼく):顔に墨を塗って喪に服する表現。形ではなく、心の深さを象徴。
  • 哭(こく):声を上げて泣くこと。儀礼でありつつも、心の表れ。
  • 風と草:上(風)によって、下(草)が動くという比喩。徳を持つ者がいかに影響を与えるかを示す名言。

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この章は、孟子のリーダーシップ論や道徳感の要諦ともいえる部分です。

1. 原文

然友復之鄒問孟子。孟子曰、「然。不可以他求者也。
孔子曰、『君薨,聽於冢宰,歠粥,面深墨,即位而哭。百官有司莫敢不哀。』先之也。
上好者,下必甚焉者矣。君子之德風也,小人之德草也。草尚之風必偃。是在世子。」


2. 書き下し文

然友、復(また)鄒に之(ゆ)きて孟子に問う。孟子曰く、
「然り。以(もっ)て他に求むべからざる者なり。

孔子曰く、
『君、薨(こう)ずれば、冢宰(ちょうさい)に聴(まか)せ、粥(しゅく)を歠(すす)り、面は深墨(しんぼく)し、位に即(つ)いて哭(こく)す。
百官・有司(ゆうし)、敢(あ)えて哀しまざるは莫(な)し。』と。

之に先んずる(※)なり。上(かみ)好(この)む者あれば、下(しも)必ず焉(これ)より甚しき者有り。

君子の徳は風なり。小人の徳は草なり。草、之に風を尚(たっと)ぶとき、必ず偃(ふ)す。

是れ、世子に在(あ)り。」


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「然友復之鄒問孟子」
     → 然友は再び鄒に赴き、孟子に意見を求めた。
  • 「孟子曰、『然。不可以他求者也』」
     → 孟子は言った。「そうである。これは他人に求められるものではない(=自分自身で決断すべきことだ)」
  • 「孔子曰、『君薨,聽於冢宰,歠粥,面深墨,即位而哭。百官有司莫敢不哀』」
     → 孔子は言った。「君主が亡くなったとき、政務は冢宰に任せ、粗粥をすすり、顔には深く墨を塗って、位についたのち泣き悲しむ。百官・役人たちは誰一人として悲しまずにはいられない。」
  • 「先之也」
     → これは「上の者が率先して行うから」である。
  • 「上好者,下必甚焉者矣」
     → 上に立つ者があることを好めば、下の者はそれ以上にそれを実践するものだ。
  • 「君子之德風也,小人之德草也。草尚之風必偃」
     → 君子(上に立つ者)の徳は風であり、小人(下の者)の徳は草である。
     風が吹けば、草は必ずなびくものだ。
  • 「是在世子」
     → これはすべて、世子であるあなたにかかっているのだ。

4. 用語解説

  • 冢宰(ちょうさい):古代中国の行政を司る最高官職。君主亡き後の代行者。
  • 歠粥(しゅくをすす)る:粗末な粥を食べることで喪中の慎みを示す。
  • 面深墨:顔に深く墨を塗る喪礼の表現。深い悲しみを象徴。
  • 即位而哭:新たな君が即位し、その場で涙を流して哀悼の意を表す。
  • 百官有司:政府に仕えるすべての役人とその機関。
  • 先之:率先して行うこと。
  • 風と草の比喩:上に立つ者の行動(風)が、下の者(草)に必ず影響するという儒教的喩え。
  • 世子:ここでは定公の息子、後継者としての君主。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

然友は再び孟子のもとを訪れた。孟子はこう答えた。
「その通り。これは他人に判断を任せられることではない。自分自身の決断だ。」

孟子は続けて、孔子の言葉を引用する。
「君主が亡くなったときには、政務を冢宰に任せ、粗粥をすすり、顔に墨を塗って哀しみの意を示し、即位の場で声を上げて泣く。これによって百官たちは誰もが深く哀しむことになるのだ。
なぜなら、上の者が先に悲しみを示すからである。上が何かを好めば、下はそれ以上にそれを徹底するようになる。

君子の徳は風のようなもの。小人の徳は草のようなもの。風が吹けば草は必ずなびく。
ゆえに、全てはあなた──世子にかかっているのだ。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、リーダーの率先行動が組織の文化を決定づけることを明確に示しています。

  • 模範行動の力:リーダーが真摯に喪に服することで、部下たちも自然に哀悼の姿勢を示す。形ではなく、心を示すことで集団の気風が整う。
  • 変革は“自分自身”から始まる:孟子は「他人に求めるな」と明言する。信念に基づいた決断は、孤独でも、自ら責任を負うべきである。
  • 風と草の比喩は、上から下へ連鎖する徳の象徴:上の在り方が、下の在り方を決める。文化・道徳・組織風土は、トップの姿勢から始まる。

7. ビジネスにおける解釈と適用

「上司の行動は“風”──部下は必ず“なびく”」

  • 管理職・リーダーが時間厳守を徹底すれば、チームも時間を守る。
  • 経営陣が顧客第一を行動で示せば、現場も同じように動く。
  • 喪失・混乱の場面でも、リーダーが率先して沈着冷静に対応すれば、組織も乱れない。

「信念に基づく意思決定は、孤独を恐れず行え」

  • 「慣例通り」「周囲に流されて」ではなく、正しいと信じたことは自分で決断する。
  • 自律的リーダーシップが、組織を変える起点となる。

「文化は上からしか変わらない」

  • 雰囲気・礼儀・誠実さ・働き方改革──いずれも“トップの振る舞い”が鍵。
  • 言葉ではなく、“行動の空気”が人を動かす。

8. ビジネス用心得タイトル

「風を起こすのは、あなた──行動する“徳”が組織を動かす」


この章句をもって『定公薨』の一連のやりとりは完結します。

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