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道を貫く者には人が集まり、信を失った者は孤立する

「人の心を得る者、天下を得る──正しさは最強の競争力」

孟子は、国を強くするために頼るべきは、険しい山や堅固な城ではなく、人々の心を得る「仁義の道」であると説いた。

力や兵器による威圧では、真の支配は成り立たない。信義をもって治める者は自然と多くの支持を得て、やがては天下の人々がその人物に従うようになる。

反対に、義を失った者は親戚でさえ離反し、誰からも助けられなくなる。これが「助け多き者は勝ち、助け少なき者は滅びる」という道理である。

真の君子は、戦いを好まず、時に戦わぬことを選ぶ。しかし、もし戦うことになれば、その戦は正義と信頼に裏打ちされているため、必ず勝利する。

正しき道を歩むことが、最大の武器となるのである。

目次

原文

故曰、域民、不以封疆之界、固國、不以山谿之險、威天下、不以兵革之利。得道者多助、失道者寡助。寡助之至、親戚畔之;多助之至、天下順之。以天下之順、攻親戚之畔、故君子有不戰、戰必勝矣。

原文(ふりがな付き引用)

故(ゆえ)に曰(い)わく、
民(たみ)を域(かぎ)るに、封疆(ほうきょう)の界(さかい)を以(もっ)てせず。
国(くに)を固(かた)むるに、山谿(さんけい)の険(けん)を以(もっ)てせず。
天下(てんか)を威(おど)すに、兵革(へいかく)の利(り)を以(もっ)てせず、と。

道(みち)を得(え)る者(もの)は助(たす)け多(おお)く、道(みち)を失(うしな)う者(もの)は助(たす)け寡(すく)なし。
助(たす)け寡(すく)なきの至(いた)りは、親戚(しんせき)も之(これ)に畔(そむ)き、
助(たす)け多(おお)きの至(いた)りは、天下(てんか)も之(これ)に順(したが)う。

天下(てんか)の順(したが)う所(ところ)を以(もっ)て、親戚(しんせき)の畔(そむ)く所(ところ)を攻(せ)む。
故(ゆえ)に君子(くんし)戦(たたか)わざる有(あ)り、戦(たたか)えば必(かなら)ず勝(か)つ。

注釈(簡潔な語句解説)

  • 封疆の界:国境を固めること。物理的な防衛線。
  • 山谿の険:山や谷の険しさ。地形を利用した守備。
  • 兵革の利:武器や甲冑の優秀さ。軍備の力。
  • 道を得る者:仁義にかなった政治を行う者。民心を得ている。
  • 戦わざる有り:戦いを選ばないこともある。平和を尊ぶ態度。

現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「民を域るに、封疆の界を以てせず」
     → 国民を守るには、国境線で囲うことに意味はない。
  • 「国を固むるに、山谿の険を以てせず」
     → 国家の安全は、山や川などの地形的な防衛によっては得られない。
  • 「天下を威するに、兵革の利を以てせず」
     → 世界に威信を示すには、武力や兵器の強さによるものではない。
  • 「得道者多助、失道者寡助」
     → 道理にかなった行いをする者には多くの支援が集まり、道を外れた者には支援が少ない。
  • 「寡助之至、親戚畔之」
     → 支援が極端に少なくなると、血縁者すらも見捨てて反逆するようになる。
  • 「多助之至、天下順之」
     → 支援が極まると、天下の人々が皆従うようになる。
  • 「天下の順う所をもって、親戚の畔く所を攻む」
     → 天下が味方する者が、親戚すら離れた者を攻めるのだから、勝敗は明白である。
  • 「故に君子に戦わざる有り。戦えば必ず勝つなり」
     → ゆえに真に徳ある君子は、戦わずして勝つ道を選ぶ。戦えば必ず勝利する。

用語解説

  • 封疆(ほうきょう):国家の境界・国境。
  • 域る(かこう):囲って守る、防御する。
  • 山谿(さんけい):山や渓谷。自然の地形的防衛線。
  • 兵革(へいかく):兵器や武装。軍事力の象徴。
  • 道(みち):道理・倫理・正義。政治的・道徳的な正しさ。
  • 寡助(かじょ):助けが少ないこと。支持が乏しい状態。
  • 畔く(そむく):反する、離反する。
  • 順う(したがう):従う、服従する。
  • 君子(くんし):理想的なリーダーや徳ある人格者。

全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう述べた:
国民を守るには国境で囲むことでは足りず、国家を安定させるには地形の要害ではなく、天下に威を示すには軍事力ではない。
本当に重要なのは、「道理を得ているかどうか」である。
道を得た者には多くの支援が集まり、道を失った者には助ける者がいなくなる。
最悪の場合、親しい者すらも離反し、反対に正しき者には全世界が従う。
そのような構図において、道を得た君子は戦わなくとも勝てるし、戦えば必ず勝利する。

解釈と現代的意義

この章句は、「正義と人望こそが真の国力・組織力」という孟子の思想を端的に表しています。

  • 外的な要因(国境・防備・武力)は一時的な防衛に過ぎず、
  • 人の心の支持(=道を得ること)こそが最強の防衛・攻撃力となる。

これは現代における 組織の求心力・リーダーシップ・信頼資本の本質にも通じる思想です。

ビジネスにおける解釈と適用

「制度や武器より、“人の心”を得る」

  • 組織の力は、ルールや資本(=封疆や兵革)ではなく、リーダーの人望と行動の正しさ(=道)によって生まれる。
  • 信頼を失えば、いかに整備された制度があっても社員や顧客は離反する。

「“道”を実践するリーダーにこそ支援が集まる」

  • 公正・誠実・責任ある行動をとるリーダーには、社内外から自然と協力が集まりプロジェクトは成功しやすくなる。

「“親戚にすら見放される”組織には未来がない」

  • 情報隠蔽・私利私欲・不義理な行動が続くと、近しい関係者すらも離れていく。
  • 組織崩壊は、遠くの敵ではなく、“身内”の信頼喪失から始まる。

「戦わずして勝つには“徳と道”をもって挑む」

  • 交渉・競争・クレーム対応において、実力でねじ伏せるのではなく、“正しさ”と“誠実さ”によって相手を納得させることが、持続的な勝利となる。
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