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徳は水のごとく、身を正せば自然と広がる

孟子は、政治の本質は決して難解なものではないと断言する。
それは、まず自分の身を正しく保つこと。特に、代々にわたって仕えてきた忠臣(巨室)たちの心を得て、彼らに怨まれたり怒られたりしないようにすることが肝要だという。

もし重臣たちがその君主の徳を認めて慕えば、一国の人々もまたその徳を慕うようになる。
そして一国の人々が徳に心服するようになれば、やがてその感化は天下にまで広がる。

この広がりは、まさに水が溢れて四方に流れていくようなものだ。
徳ある行いは、力で押しつけるものではなく、内面の正しさが自然と他者の心を動かしていくものである――これが孟子の信じたリーダー像である。


目次

原文(ふりがな付き)

孟子(もうし)曰(いわ)く、
政(まつりごと)を為(な)すことは難(かた)からず。

罪(つみ)を巨室(きょしつ)に得(え)ざれ。
巨室の慕(した)う所(ところ)は、一国(いっこく)之(これ)を慕う。
一国の慕う所は、天下(てんか)之を慕う。

故(ゆえ)に沛然(はいぜん)として徳教(とくきょう)四海(しかい)に溢(あふ)る。


注釈

  • 巨室(きょしつ):代々仕える忠臣や重臣。国家運営の要となる人物。
  • 罪を得ざれ:怨みや怒りを買わないようにすること。徳をもって接する。
  • 慕う(したう):心から尊敬し従うこと。慕われるには、信頼と徳が必要。
  • 沛然(はいぜん):水があふれて勢いよく流れるさま。徳の感化力の比喩。
  • 徳教(とくきょう):徳による指導・教育。力や罰によらず、人心を導く方法。

原文

孟子曰、爲政不難、不得罪於巨室。巨室之所慕、一國慕之。一國之所慕、天下慕之。故沛然德敎溢乎四海。


書き下し文

孟子曰(いわ)く、政(まつりごと)を為(な)すことは難(かた)からず。
巨室(きょしつ)に罪(つみ)を得(え)ざれ。
巨室の慕(した)う所は、一国之(これ)を慕う。
一国の慕う所は、天下之を慕う。
故(ゆえ)に沛然(はいぜん)として徳教(とくきょう)、四海(しかい)に溢(あふ)る。


現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 孟子は言った:
  • 政治を行うことは、決して難しいことではない。
  • 要は、社会の有力者(巨室)の反感を買わないことである。
  • 有力者が慕うものは、やがて一国の民が慕うようになり、
  • 一国の民が慕うものは、ついには天下の人々が慕うようになる。
  • そのようにして、あふれ出るような徳と教え(徳教)は、四海の果てまで満ち渡っていく

用語解説

用語解説
政(まつりごと)政治・国家運営。
巨室(きょしつ)社会的影響力のある有力者、大地主や名望家、名士階層など。
慕う(したう)敬い慕い、感化されること。
一国一つの国、地域国家。
四海(しかい)天下全土、世界。
沛然(はいぜん)あふれ出るさま、勢いよく満ち広がるさま。
徳教(とくきょう)徳に基づく教え・道徳的感化。

全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう語った:

政治を行うことは、実のところそれほど難しいことではない。
まず、社会における有力者(巨室)の支持を失わないようにすればよい。

有力者がある人を慕えば、それを見て国中の人々も慕うようになり、
その影響はやがて天下全体へと波及していく。

その結果、道徳的な教え(徳教)は、四方の国々にまで勢いよく広がっていくのである。


解釈と現代的意義

この章句は、**「徳の感化と影響力の連鎖」**を描いています。

1. 政治・リーダーシップの本質は「人望の連鎖」

  • 法や力ではなく、徳と信頼をもって人々に影響を与えることが、真の政治。
  • 一部の有力者の共感を得ることが、大きな波及効果を生む。

2. 社会的中核層の影響力を見極めよ

  • 社会において「先に感化される層」「共鳴力の高い層」が誰かを見極め、そこに徳を示すことが広く社会を変える起点になる。

3. “沛然”たる広がりは、戦略ではなく“人の心”から

  • 真の変革や信頼は、論理や戦術ではなく、誠実さや徳の力によって自然にあふれ出る。

ビジネスにおける解釈と適用

1. 「影響力のある人」を味方にする

  • 新しい制度・理念・方針を導入する際は、まずキーパーソン(有力者)を巻き込む。
  • 社内で尊敬される社員・リーダー層が支持すれば、自然と社内に広がる。

2. “徳による感化”は最も強い経営資源

  • 指示や規則だけでは動かない。信頼と尊敬をもって築いた関係性が、結果的に全体に波及し、組織文化をつくる。

3. 変革の連鎖は、戦略より“誠実な行動”から始まる

  • 小手先のマネジメントではなく、誠意ある対応、信頼される姿勢が有力者・現場・顧客に伝わり、「あふれ出る影響力」を生む。

ビジネス用心得タイトル

「徳は波のごとく広がる──一人の信頼が組織全体を動かす」


この章句は、「小さな誠実さが、やがて大きな共感となり、社会を変える」という孟子のリーダー論・政治哲学の真髄です。


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