本題に入る前に押さえておきたいのは、会社の数字における最も基本的なポイントが「売上から原価を引いたものが損益」であるという点だ。この原価は、大きく分けて変動費と固定費の二種類に分類される。そして、すべての原価は必ずこのいずれかに当てはまる。
変動費とは、「売上の増減に比例して増減する費用」を指す。製造業であれば、原材料費(荷造材料や包装材料を含む)や購入品、外注費が該当する。流通業では仕入商品、外食業では仕入原材料がこれに当たる。
これらの費用には、売上が3割増えれば2割増加し、1割減れば1割減少するといった基本的な特性がある。この「売上の増減に比例して費用も増減する」という点が重要だ。そのため、これを比例費と呼ぶこともある。
売上の増減に比例して変動する費用は他にも存在するが、それらは金額が小さかったり、分離計算が煩雑だったりする場合がほとんどだ。こうした費用を手間をかけて分離し、変動費として計上することで精度が上がる可能性はあるものの、実用性が著しく低下するという問題が生じる。
実用性とは、できるだけ簡単で手間がかからないことを条件とするものだ。精密さが多少犠牲になったとしても、十分な「信頼度」があれば、状況判断を誤ることはない。そして、この信頼度は95%程度で十分とされる。つまり、誤差が5%以内であれば実務上問題はないということだ。
面倒な計算を重ねて変動費を分離したとしても、それが変動費全体の5%以上を占めることはほとんどない。そのため、書籍などに載っている「変動費と固定費の分解」といった手間のかかる作業は、すべて省略すべきだ。特に、経営者である社長は、細かい数字に気を取られることで、大局的な判断を失う危険性があることを理解しておく必要がある。
数字は信頼度さえ確保されていれば、大まかであるほど実用的だ。特に、上二桁の数字に信頼性があれば、それは95%の信頼度を備えているといえる。以前、「僕は数字は上二桁しか見ません」と語ってくれた社長がいたが、これこそ本質を突いている考え方だ。
固定費とは、「売上の増減に比例せず、一定期間に応じて発生する費用」を指す。変動費に分類されないすべての費用がこれに該当し、人件費、経費、減価償却費の3つに大別して考えると実務上非常に扱いやすい。
変動費について説明した分類に従えば、固定費の中にも若干の変動費が含まれる場合があるが、それを気にする必要はまったくない。むしろ、売上に関係なく発生する会社の維持費をやや多めに見積もることで、その誤差が安全側に働くという好ましい結果をもたらす。実際に損益分岐点を計算してみれば、この点がより明確になるだろう。
損益分岐点の計算式は以下の通り。
[
損益分岐点 = \frac{\text{固定費}}{1 – \left(\frac{\text{変動費}}{\text{売上高}}\right)}
]
この式を見ると、分子の固定費が大きくなると損益分岐点も比例して大きくなることがわかる。より理解を深めるため、実際の数字を使って計算してみよう。
たとえば、以下の仮定を設定する。
- 固定費:1,000万円
- 変動費:4,000万円
- 売上高:6,000万円
これを式に当てはめて計算してみる。
計算の結果、損益分岐点は約3,000万円となる。この値は、固定費が大きいほど増加し、企業が黒字に転じるために必要な売上高が高くなることを示している。
計算の結果、損益分岐点は750万円となる。この値は、売上高が750万円を超えた時点で利益が出始めることを示している。
この計算で得られた損益分岐点の数字には、変動費として原材料費、購入品、外注費だけでなく、それ以外の細々とした変動費も含まれている。これらの小さな変動費をすべて含めることで、計算自体は正確になっているものの、実務上それらを細かく分離する手間を省く方が効率的である場合も多い。
調整後の損益分岐点は約767万円となり、元の750万円に比べて約3%上昇している。これは細かい変動費を固定費に含めた影響で、損益分岐点がやや安全サイドに傾く結果を反映している。
固定費を多めに見積もることは、経営者として重要な心構えであり、このような方法を用いれば自然とそれが実現できる。さらに、細かい変動費を固定費に含めることで計算が簡単になるため、精度を保ちながら実用性も向上する。まさに「一石二鳥」のアプローチといえる。
時間をかけて煩雑な計算を行い、「固定費のばらつき分を3%ほど上乗せして考えるべきだ」といった回りくどい方法を採用するのは、全く無駄な努力だといえる。シンプルな計算で実用的な精度を確保できるのに、わざわざ手間のかかるやり方を選ぶのは非効率極まりない。
実務において、理論的な精密度を過度に追求すると、かえって非効率になることを理解しておくべきだ。たとえば、円周率を「3.14159265」と正確に扱っても、日常業務ではむしろ不便だ。実務では「3.14」で十分対応できるし、もう少し精度を上げたければ「3.1416」で事足りる。このように、必要以上の精密さは実用性を損ねるだけだ。
変動費と固定費をどう捉えるべきか:精度より実用性の原則
企業の財務の基本は、「売上から原価を差し引いたものが損益」であり、その原価は「変動費」と「固定費」に分かれる。この2つを明確にすることが、事業の健全な運営に重要だが、実際には理論にこだわりすぎると、経営判断が複雑化してしまう場合が多い。ここでは、シンプルで実用的な変動費・固定費の捉え方について考えてみる。
変動費:売上に比例する費用
変動費とは、売上に比例して増減する費用のことを指す。製造業であれば原材料費、外注費、購入品が該当し、流通業ならば仕入商品、外食業では仕入原材料がそれにあたる。これらの費用は売上の増減とともにほぼ比例して増減するため、「比例費」とも呼ばれる。
現実の変動費には、売上の増減と比例する小規模な費用も含まれるが、すべてを厳密に変動費に含めるのは実用的ではない。小さな費用を一つ一つ分離しても、計算の精度はさほど向上せず、煩雑な作業に時間を奪われるだけである。多少の誤差が生じても、実務上は95%の精度が確保できれば十分であり、売上に対しての基本的な増減を捉えることができる。
固定費:売上に依存しない期間費用
固定費は、売上の変動に関係なく発生する費用だ。人件費、減価償却費、その他の経費などが固定費に該当する。重要なのは、この固定費が事業の「安定した維持費」を示している点である。
固定費に少量の変動要素が含まれても、必要以上に気にする必要はない。むしろ固定費を多めに見積もることで、安全策を取ることができ、経営上のリスクを減らせる。また、この多めの見積もりが、損益分岐点の計算をシンプルにする役割を果たす。
実務的に見た損益分岐点の活用
損益分岐点は、売上がどの水準に達すると利益が出るかを示す重要な指標である。ここで、ある企業の例を使って説明してみよう。仮にある企業の年間売上が1,000万円、変動費が600万円、固定費が300万円だとする。この場合、損益分岐点は750万円であり、売上が750万円を超えると利益が出る。
この計算において、もし細かい変動費の計算にこだわりすぎず、固定費をやや多めに見積もれば、例えば固定費を330万円として再計算すると、損益分岐点は770万円になる。これは、経営者が安定した収支を把握しやすくなる上に、シンプルな計算方法でリスク管理が可能となる。
実務では「完璧」より「シンプルさ」を
実務においては、理論にこだわるより、わかりやすく信頼できる数値を用いることが重要だ。無理に精密な計算を追い求めることは、かえって経営の妨げとなる。円周率を「3.14159…」と精密にするより、実務では「3.14」で問題ないのと同様、原価計算もシンプルで信頼度のある数値を重視するのが、長期的に見て効果的な方法といえる。
結論:実務に役立つ原価管理のために
原価の精密度を追求することよりも、経営判断を助けるための「大まかで信頼性のある数字」を活用することが、企業運営において効果的である。経営者は、大まかでシンプルな原価計算を通じて、全体の流れや方向性を把握し、的確な経営判断を行うことが求められる。
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