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他人の知恵を利用せよ

Y社は金属表面処理剤の製造販売とプラスチックメッキの事業を二本柱とする企業だ。同社の技術顧問を務めるのは、T大学で金属表面処理の分野において世界的に名を知られるO博士。温厚で誠実な人柄に加え、卓越した技術力を備えるO博士は、Y社長をはじめとする全社員から厚い信頼を寄せられている。

Y社はO博士の存在を背景に、多くの技術開発や新商品の開発に成功を収めている。O博士は、今やY社にとって欠かせない存在となっている。一方で、O博士にとってもY社の存在は大きな価値を持つ。自身の研究成果を、試験管の中だけではなく、実際の現場で検証できる環境が整っているからだ。このようにして、Y社とO博士は相互に支え合い、理想的なパートナーシップを築き上げている。その関係は、まさに協力の好例といえるだろう。

Y社長から「外国とのタイアップを考えているが、どう進めればいいか」という相談を受けた。一般的には、外国文献やジェトロ、貿易商社などを活用するのが定石だろう。これらに取り組むのは当然として、さらに何か別の方法がないかと考えていたところ、一つのアイデアが浮かんだ。それは、「外国の大使館に直接働きかけてみる」というものだ。この提案を社長に伝え、東京に出向いた際に試してみることを勧めた。

Y社長は東京に出た際、ドイツ大使館とアメリカ大使館を訪問した。ドイツ大使館には、同国の商工会議所の出先機関があり、そこで対応した係員は日本人だった。日本語のパンフレットも用意されており、その中には、日本の企業との技術提携や販売提携を希望するドイツ企業の情報が掲載されていた。係員は丁寧に説明を行い、日本の中小企業がもっと積極的にこのような施設を活用してほしいという希望を述べていた。

このパンフレットがきっかけとなり、Y社はドイツの同業者と商品の販売提携を結ぶことに成功した。一方、アメリカ大使館では商務省の出先機関を訪れた。そこにも同様にパンフレットが置かれていたが、内容はタイトルのみ日本語で、説明は英語で記載されていた。ここでも担当者から、日本の中小企業がもっと積極的にこのような窓口を活用してほしいとの希望が伝えられたという。

他人の知恵を活用する際に意識すべき重要なポイントの一つが、公開されている特許を活用することだ。ここ数年で、多くの大企業が特許を公開するようになり、その情報は有益なヒントの宝庫となり得る。これらの情報を収集することは、事業の発展において欠かせない取り組みだ。仮に直接的な成果が得られなくても、失うものはわずかな経費に過ぎない。そのリスクの小ささを考えれば、情報収集の価値は非常に高い。

少し脱線して情報について触れてみる。中小企業の社長に共通する大きな欠点の一つは、外部情報の収集に対する関心が薄いことだ。私が訪問する多くの会社では、外部情報がほとんど揃っていないという状況が珍しくない。一方で、価値の乏しい内部情報は山のように溜まっている。こうしたバランスの悪さが、中小企業の成長を阻害する要因になっていると感じざるを得ない。

私が「社長は外に出よ」と繰り返し強調するのは、単に顧客の要求や競合他社の動向を知るためだけではない。外に出ることで、社会のさまざまな情報を直接収集する機会が生まれるからだ。事業経営において情報の欠如は致命的と言える。情報が不足している会社が高い業績を上げることはまずあり得ない。一方で、多くの情報を手に入れれば、その中から業績を向上させたり、危機を乗り越えたりするための重要なヒントを見つけられる可能性が大いに広がる。

ウィーナーのサイバネティックス理論「結果は情報量に比例する」という考え方は、企業経営にもそのまま適用できる。企業の業績は、社長がどれだけ外部活動を行い、情報を収集しているかに正比例する。外部との接点を広げ、情報を積極的に取り入れることで、業績を向上させる可能性が高まる。この理論は、経営の現場でも強力な指針となり得る。

社長という立場にある者は、外部情報の重要性を深く理解し、その収集に対して大いに関心と努力を注ぐべきだ。情報は経営を支える柱であり、その充実こそが企業の成長を促進する。さて、話を戻そう。特許に関して、中小企業の社長たちの姿勢には特徴的な偏りがある。自社の特許はしっかり抱え込んで守ろうとする一方で、他社の特許に関しては必要以上に避ける傾向が見られる。この態度は、特許を活用する視点からは決して効果的とはいえない。

なぜそのように頑なな態度を取る必要があるのか、不思議に思わざるを得ない。物事をそんなに窮屈に考える必要はないのだ。私が直面するケースの中には、自社で特許を抱え込むよりも、他社に使用を許可してロイヤリティを得る方が、はるかに会社にとってプラスになると思われるものが少なからず存在する。この柔軟な発想を取り入れることで、企業はより大きな利益を生む可能性を広げることができるだろう。

逆に、他社の特許を避けようと苦労するよりも、ロイヤリティを支払ってその特許を利用する方が、結果的に有利になるケースも少なくない。他社の特許を適切に活用することで、時間やリソースを節約し、効率的に事業を進めることができる場合も多い。柔軟な対応こそが、企業の競争力を高める鍵となるだろう。

特許に対して頑なな態度を取る背景には、いくつかの要因がある。一つは、外部の情勢を十分に把握していないために、状況を正しく判断できないこと。もう一つは、自社の販売力が弱いことから、特許の力に依存しようとする姿勢だ。また、ロイヤリティを支払うことで採算が取れなくなるという先入観を持つ場合も多い。このような固定観念や情報不足が、特許活用における柔軟な発想を妨げているといえる。

外部情報の不足と販売力の弱さは、特許活用においても大きなマイナス要因となる。これらの欠点は、企業の成長や競争力向上を阻害するだけでなく、せっかくのチャンスを逃す原因にもなりかねない。社長という立場の人間は、自らの外部活動を積極的に行い、情報を収集する努力を怠らないこと、そして販売力の強化に全力を注ぐことが求められる。それが企業を次のステージへ押し上げる鍵となる。

他人の知恵を活用するもう一つの重要な手段として、外部デザイナーの利用が挙げられる。社内にデザイナーを抱える企業を見ると、デザインがマンネリ化し、行き詰まっているケースが少なくない。これは自然なことで、一人のデザイナーが持つデザインパターンには限りがあるからだ。外部のデザイナーを活用すれば、視点や発想を刷新し、新たな可能性を開くことができる。マンネリを打破するためにも、外部の力を取り入れる柔軟性が求められる。

ある人の説によれば、普通のデザイナーが持つデザインパターンの数は約百、優秀なデザイナーでも二百程度に限られるという。したがって、一定の段階に達すると新しいアイデアが尽き、結局は自身の限られたパターンの中で堂々巡りするようになる。このような状況に陥るのは避けられず、だからこそ外部デザイナーの視点やアイデアを取り入れることが、マンネリを防ぎ、デザインに新たな命を吹き込むために重要なのだ。

だからこそ、私は極端な話、社内にデザイナーがいなくても構わない、むしろいない方がいいのではないかとさえ思う。それよりも、外部のデザイナーを積極的に活用する方が、各デザイナーの持つ独自の特色を柔軟に生かすことができる。固定された視点に縛られることなく、多様なアイデアを取り入れることで、デザインの幅が広がり、より魅力的な成果を得られる可能性が高まる。

「ハカリの寺岡」では、ハカリのデザインを柳宗悦氏に依頼し、その結果大きな成功を収めている。このような超一流のデザイナーは、デザイン料が高額であっても、それに見合うどころか、それを遥かに上回るメリットをもたらしてくれる存在だ。一流のセンスや視点は、製品の価値を飛躍的に高め、他社との差別化を実現するための強力な武器となる。

外部の専門家を利用するもう一つの大きなメリットは、「費用は高いがその場限り」という点だ。これを忘れてはならない。社内にデザイナーを抱える場合、毎月固定的に給料を支払う必要がある。それに比べて、外部の専門家は必要なときだけ契約し、成果に対して支払う形式であるため、一見高額に見えても、長期的にはコストを抑えられる場合が多い。社内デザイナーを維持することで表面上のコストを削減しているように見えても、実際には総合的に見て割高になりやすいのだ。

このテーマ「他人の知恵を利用せよ」は、企業が成長し続けるために外部のリソースや専門家の知識を活用する重要性を強調しています。以下にその要点をまとめます。

1. 専門家との連携

  • Y社の成功例: Y社は金属表面処理の権威であるO博士を技術顧問に迎え、共に新しい技術や商品開発に成功しました。Y社にとって博士の知識と技術は欠かせないものであり、博士にとっても実用環境での検証ができるという大きなメリットがありました。
  • 外部の知恵の活用: 外部の専門家や権威と協力し、互いに利益が生まれる関係を築くことが理想的です。これは社内で賄えない技術や視点を補完するのに効果的です。

2. 外部情報と国際的リソースの活用

  • 外国の大使館や商工会議所: Y社はドイツやアメリカの大使館に相談し、提携相手を見つけることに成功しました。大使館や商務省、商工会議所といった機関を利用することで、無償で有用な情報やパートナーを得られる可能性があります。
  • 外部情報収集の重要性: 多くの中小企業は外部情報の収集に消極的ですが、情報収集の不足は企業経営において致命的なリスクになり得ます。情報量が増えることで、業績の向上や危機管理に役立つヒントが得られるため、経営者は積極的に外に出て情報を集めるべきです。

3. パテント(特許)の柔軟な活用

  • 他社の特許利用の利点: 自社の特許を固く抱え込むのではなく、他社に利用させてロイヤリティ収入を得たり、逆に必要に応じて他社の特許を活用することで、ビジネスの可能性が広がります。特許をうまく利用し、過度な抵抗をしない柔軟な姿勢が利益を最大化するポイントです。

4. 外部デザイナーの利用

  • 社外デザイナーの利点: デザインにおいては、社内デザイナーの限界を避けるためにも、外部のデザイナーを採用することが効果的です。外部デザイナーの持つ多様なアイディアや専門的な視点が、製品の差別化と価値向上に寄与します。
  • 費用対効果: 外部デザイナーや専門家は一度の依頼で済むため、社内で常にデザイナーを雇うよりもコスト効率が良いケースが多く、必要な時にだけ高い品質を確保できます。

結論

他人の知恵を積極的に活用することで、自社にはない知識や技術、リソースを手に入れ、事業を強化できます。特に外部の情報、専門家、特許、デザインを取り入れる姿勢が、企業の柔軟性と競争力を高める鍵となります。

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