高い山に登ると、自然と心が広々として、
小さなこだわりや悩みがどこかへと消えていくように感じる。
川の流れをじっと見つめていれば、
この世界の大きなうねりと、自分の存在のちっぽけさとを静かに受け入れられるようになる。
また、雨や雪の夜に静かに書物を読めば、心は澄みわたり、気持ちはおのずと高潔になっていく。
さらに、丘の上で詩を口ずさむようなときには、心が晴れやかに、朗らかに弾むのを覚えるだろう。
自然の風景と調和することで、
人はより深く思索し、精神を清め、心の豊かさを養っていける。
原文とふりがな付き引用
高(たか)きに登(のぼ)れば、人(ひと)をして心曠(こころひろ)からしめ、
流(なが)れに臨(のぞ)めば、人をして意遠(こころとお)からしむ。
書(しょ)を雨雪(うせつ)の夜(よる)に読(よ)めば、人をして神清(しんせい)からしめ、
嘯(うそぶ)きを丘阜(きゅうふ)の巓(いただき)に舒(の)ぶれば、人をして興邁(こうまい)かしむ。
注釈
- 心曠(こころひろし):心が広くなり、物事にとらわれなくなること。
- 意遠(こころとおし):思いが遠くに向かい、深く広くなること。
- 神清(しんせい):心神が澄んで清らかになる状態。精神の浄化。
- 嘯(うそぶ)く:詩を吟じること、あるいは風景に調和して声を出すこと。
- 丘阜(きゅうふ):丘陵。阜は「大きめの丘」を指す古語。
- 興邁(こうまい)かしむ:気分が高まり、晴れやかで元気になること。
1. 原文
登高使人心曠、臨流使人意遠。讀書於雨雪之夜、使人神清。舒嘯於丘阜之巓、使人興邁。
2. 書き下し文
高きに登れば人をして心曠(こころひろ)からしめ、流れに臨(のぞ)めば人をして意遠(こころとお)からしむ。
雨雪(うせつ)の夜に書を読めば、人をして神清(しんせい)からしめ、
丘阜(きゅうふ)の巓(いただき)に嘯(うそぶ)きを舒(の)ぶれば、人をして興邁(こうまい)からしむ。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「高いところに登ると、人の心は自然と広々とする」
- 「水の流れを眺めていると、人の思いは遠くへと広がっていく」
- 「雨や雪の夜に静かに本を読むと、精神が澄んでくる」
- 「丘の上で声を伸びやかに発すれば、気分が高揚して意気盛んになる」
4. 用語解説
- 登高(とうこう):高い場所に登ること。象徴的には視野の拡大、解放感の比喩。
- 心曠(しんこう):心が広がるようにのびのびとすること。抑圧から解放された感覚。
- 臨流(りんりゅう):川の流れなどの自然の前に立つこと。静的観照の象徴。
- 意遠(いえん):思いが遠くまで広がること。想像・志・哲思の伸展。
- 神清(しんせい):精神が清らかになること。集中・平安・啓発を意味する。
- 舒嘯(じょしょう):嘯(うそぶ)く=詠う・声を長く響かせることを伸びやかに行うさま。
- 丘阜(きゅうふ):小高い丘。自然との調和の場。
- 興邁(こうまい):気分が高揚し、志が勢いよくのびること。意気昂然の状態。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
高いところに登ると、心が自然と広くなり、川の流れに臨めば、思いが遠くへと広がっていく。
また、雨や雪の夜に静かに本を読めば、精神は澄みわたり清らかになる。
そして、丘の上でゆるやかに声を響かせれば、気持ちが高揚し、志が伸びやかに奮い立つようになる。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、自然とのふれあい・読書・詠嘯という文化行為が、どのように人間の精神状態に働きかけるかを具体的に述べたものです。
- 自然との接触は“心の解放”を促す
→ 高所や水の流れなど、スケール感のある環境は、心の視野を広げてくれる。 - 静寂と読書は“精神の浄化”を促す
→ 雨や雪の夜=静けさの象徴。その中での読書は集中力と精神の清明さを生む。 - 嘯(声を発する行為)は“意志の昂揚”を呼び起こす
→ 発声や詠唱は身体と精神を結び、活力を呼び起こす行動でもある。
7. ビジネスにおける解釈と適用
✅ 心が広がる場が、思考を高める
- 会議室だけでなく、自然の中での対話やアイデア出し(オフサイト)が有効。
- 「空間が変われば、発想が変わる」の実例。
✅ 静かな時間にこそ、集中力と洞察が育まれる
- 夜間や雨の日の読書・資料整理・内省時間は、質の高い思考を育てる。
- ビジネス書でなくとも、美しい文章との触れ合いは“言葉と感性”を養う。
✅ 声を出すことで気分が上がる──セルフモチベーション法
- 詠唱・スピーチ練習・朝礼など、声に出すことは自らの士気を高める行動でもある。
- マインドセットを「沈思黙考型」から「発動・実行型」へと転換できる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「景が心をひらき、書が神を澄まし、声が志を駆り立てる」
この章句は、創造性・内省力・モチベーション向上の3本柱をテーマとした研修・セミナーなどに活用できる内容です。
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