もし、天が私に幸福を与えないという冷遇を与えるなら、
私はむしろ自らの徳を深め、人格を磨いて、それにふさわしい幸福をつかみ取ってみせよう。
もし、天が私に身体的な苦しみを課してくるなら、
私は心を穏やかに保ち、内面の平安によってその苦しみを補っていこう。
もし、天が私を苦しい境遇に突き落とし、進む道を塞ごうとするなら、
私は自分自身の努力と意志でその道を切り開き、貫いて進んでいこう。
このような決意と覚悟がある限り、
もはや天でさえ私をどうすることもできない——。
この姿勢は、「運命に従う」のではなく、
「運命すらも利用して前に進む」という、逆境の中に光を見出す強靭な精神を表しています。
原文とふりがな付き引用
天(てん)、我(われ)に薄(うす)くするに福(ふく)を以(も)ってせば、
吾(われ)は吾が徳(とく)を厚(あつ)くして以(も)って之(これ)を迓(むか)えん。
天、我を労(ろう)するに形(かたち)を以てせば、
吾は吾が心(こころ)を逸(いつ)にして以て之を補(おぎな)わん。
天、我を阨(あく)するに遇(ぐう)を以てせば、
吾は吾が道(みち)を亨(とお)らしめて以て之を通(つう)ぜん。
天、且(か)つ我を奈何(いかん)せんや。
注釈(簡潔に)
- 福を薄くする:幸福を与えない、不遇に扱う。
- 徳を厚くする:内面的な修養を積み、人格を磨く。
- 形を労する:身体に苦痛を与える。
- 心を逸にする:心を安らかに保ち、精神的平穏を得る。
- 遇を阨する:境遇を苦しくし、行く手を阻む。
- 道を亨らす:努力によって道を通す、突破する。
- 奈何せんや:どうしようもない、手出しできない。
※ この思想の背景には、『孟子』の名言「天の将に大任を是の人に降さんとするや〜」があるとされます。困難は鍛錬であり、試練を超えたときに初めて人は大きな使命に応えることができる、という教えです。
パーマリンク案(英語スラッグ)
unshakable-resolve-defies-fate
「運命すら退ける覚悟」という本条の核心を表したスラッグです。
その他の案:
- heaven-cannot-break-me
- adversity-builds-strength
- answer-hardship-with-virtue
この章は、「逆境を跳ね返す」という受け身の精神ではなく、
「逆境を力として取り込み、それによって自分をさらに高める」という積極的な覚悟を説いています。
もはや運命に翻弄されるのではなく、運命そのものに問い返すような、
深く強い人間の意志の在り方がここに示されています。
1. 原文
天薄我以福、吾厚吾德以迓之。天勞我以形、吾逸吾心以補之。天阨我以遇、吾亨吾道以通之。天且奈我何哉。
2. 書き下し文
天、我に薄くするに福を以てせば、吾は吾が徳を厚くして以て之を迓(むか)えん。
天、我を労するに形を以てせば、吾は吾が心を逸(やす)んじて以て之を補わん。
天、我を阨(あ)するに遇を以てせば、吾は吾が道を亨(とお)らしめて以て之を通ぜん。
天、且(しばら)くも我を奈何(いかん)せんや。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 天、我に薄くするに福を以てせば、吾は吾が徳を厚くして以て之を迓えん。
→ 天が私に福を与えてくれないならば、私は自分の徳をより厚くしてそれに応えよう。 - 天、我を労するに形を以てせば、吾は吾が心を逸んじて以て之を補わん。
→ 天が私の身体に苦労を与えても、私は心を安らかに保つことでそれを補おう。 - 天、我を阨するに遇を以てせば、吾は吾が道を亨らしめて以て之を通ぜん。
→ 天が私に困難な境遇を与えるなら、私は自分の道(信念)を通すことでそれを乗り越えよう。 - 天、且くも我を奈何せんや。
→ それでも天が私に何を為し得ようか(=私は屈しない)。
4. 用語解説
- 天:運命・天命・自然の理。
- 薄くする:恩恵を与えないこと、冷遇すること。
- 福:幸福、報酬、物質的利益など。
- 德(徳):人格的修養、道徳的な徳性。
- 迓う(むかう):迎える、応じる。
- 労する:苦労を与える、疲れさせる。
- 形(けい):肉体・身体。
- 逸する(やすんじる):休める、精神的にゆとりを持つ。
- 阨(あ)する:困難な状況に置く、行き詰まらせる。
- 遇(ぐう):境遇、待遇。
- 亨(とおる):通す、通過させる、達成する。
- 奈何(いかん)せんや:どうしようもない、為す術がない(反語)。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
もし天が私に幸福を与えてくれないなら、私はそれに応えるように、自らの徳をより高めて迎えよう。
もし天が私の肉体に苦労を課すなら、私は心を穏やかにしてそれを補おう。
もし天が私の境遇を困難なものにするなら、私は自分の信念を通すことで、それを乗り越えていこう。
――そのようにあれば、天でさえ私をどうすることもできないのだ。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「逆境にあっても自己を立てて屈しない」**という
強い内面の独立精神と、運命を超克する倫理的態度を説いています。
- 運命(=天)の不遇に対して、人格(=徳)を鍛えて返す。
- 身体が苦しんでも、心は自由である。
- 環境が悪くとも、自分の「道」を貫く力を持つ。
つまり、外部環境に反応するのではなく、内面から対応する強さが大切であり、
そうあれば、いかなる運命にも打ち勝てるという人間の主体性と覚悟がここに示されています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ 評価されない時こそ「自らの価値を積む」機会
人事や取引先から正当な評価が得られないとき、それを嘆くのではなく、
徳を高める=信用・信頼・誠意を積み続ける姿勢が、やがて報われる。
▪ 過労や苦境の中でも「心の余白」を保てる人が強い
忙しく身体が疲弊する時でも、心を亡くさず、
「心を逸する」=心にゆとりを持てる習慣や視点がある人は、倒れない。
▪ 組織や市場の逆風に負けず「自分の信念」を通す力
不況・ルール変更・不利な競争環境──そんな中でも、
「自分の道(理念や方針)」を曲げずに進める人材こそ、長期的に信頼を得る。
8. ビジネス用の心得タイトル
「運命に鍛えられ、信念で超える──“天に屈しない心”が未来を拓く」
この章句は、現代のビジネスリーダーや起業家にとっても極めて示唆深いものです。
「評価されないからやめる」「疲れたから投げ出す」「環境が悪いから諦める」──ではなく、
そのすべてを“心の力”と“徳”で超えていく意志こそが、真の成功者をつくる。
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