名誉を得ても、恥を受けても、心を乱さずにいられること。
それはまるで、庭先に咲いては散る花を、ただ静かに見つめているような心のあり方である。
地位や立場にとどまるか、そこから離れるかも気にしない。
それはちょうど、空に浮かぶ雲が、巻いたり伸びたりしながら、何にもとらわれずに自由に漂っているようなもの。
外からの評価や境遇に振り回されず、ただ自然体で、泰然として在る――
それが、真に自由で安らかな生き方なのだ。
「寵辱(ちょうじょく)、驚(おどろ)かず。間(かん)に庭前(ていぜん)の花(はな)開(ひら)き花落(お)つるを看(み)る。去留(きょりゅう)、意(い)無(な)く、漫(そぞ)ろに天外(てんがい)の雲(くも)巻(ま)き雲舒(の)ぶるに随(したが)う。」
人は、評価や結果に一喜一憂することなく、
自然の変化に身を任せるように、淡々と自分の道を歩めばよい。
※注:
- 「寵辱(ちょうじょく)」…寵(ほうび)=名誉、辱(じょく)=恥辱。人からの称賛や非難。
- 「寵辱、驚かず」…名誉にも恥にも心を動かさないという態度。『老子』にも「寵辱に驚くが若し」とあり、それを乗り越えるには「身(しん)に執着しないこと」が必要とされる。
- 「花開き花落つるを看る」…開花も落花も自然の流れとして受け入れる心象。
- 「雲巻き雲舒ぶるに随う」…雲が巻いたり伸びたりする様子に身を任せるように、無為自然の境地を表す。
原文
寵辱不驚、閒看庭前花開花落。
去留無意、漫隨天外雲卷雲舒。
書き下し文
寵辱(ちょうじょく)、驚かず。間(かん)に、庭前の花の開き落つるを看る。
去留(きょりゅう)、意無く、漫(そぞ)ろに天外の雲の巻き舒(の)ぶるに随(したが)う。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
「栄誉を受けても、恥を受けても、驚き動じることなく、ただ静かに庭の花が咲いて散るのを眺めるように」
→ 世の浮き沈みに心を動かさず、日々の自然な移ろいを受け入れる心境。
「留まるも去るも気にかけず、ただ空の雲が巻かれ、伸びていくように、自然の流れに身を任せる」
→ 成り行きに逆らわず、執着なく、運命を受け入れる生き方。
用語解説
- 寵辱(ちょうじょく):寵愛と侮辱、誉と恥、つまり世間の評価の浮き沈み。
- 驚かず:心が動揺しない、不安定にならないこと。
- 閒(かん):静かで余裕のある心の状態。ここでは「ゆったりと」の意味。
- 去留(きょりゅう):去ることと留まること、つまり「人生の進退・境遇の変化」。
- 無意:意志や執着を持たないこと。
- 雲巻雲舒(うんけんうんじょ):雲が巻かれ、また伸びていく。自由で自然な流れの比喩。
全体の現代語訳(まとめ)
誉められても、けなされても、動じることなく、
ただ静かに、庭の花が咲いて散るのを眺めるように生きる。
行くも留まるも気にせず、ただ空の雲が巻かれ伸びていくように、
自然の流れに身を任せて生きる──そんな境地が理想である。
解釈と現代的意義
この章句は、**「心の平静」と「無執着の精神」**を、自然の比喩を通して表現しています。
- 栄光や恥辱という外界の評価に心を乱されず、静かに自分の道を行く。
- 進退や成功・失敗といった人生の転変にも執着せず、自然に任せて生きる。
これは東洋思想における**「中庸」「無為自然」「達観」**といった理想の人格を示しており、特に儒家・道家・禅に共通する深い教訓です。
ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
1. 「評価や地位に振り回されないメンタル」
昇進・評価・賞賛・非難に一喜一憂しすぎると、精神の軸がぶれる。
この章句は、「外的評価に惑わされず、内なる軸で判断せよ」と教えています。
2. 「変化に身を任せる柔軟な思考」
人事異動・事業撤退・転職・成績変動など、コントロールできない変化にも、
「雲のように巻かれ、舒ぶるように」受け入れる心があれば、レジリエンス(心理的耐性)が高まります。
3. 「静けさから生まれる深い観察と意思決定」
「庭前の花開き花落つるを看る」ような観察力は、
トレンドやノイズに左右されない本質的な判断を可能にします。経営者・リーダーに求められる資質です。
ビジネス用の心得タイトル
「誉も恥もただ流し、雲のように変化と調和する」
この章句は、「心を波立たせず、外界の変化を自然と受け入れることで、真に自由で強い生き方ができる」という、
リーダーにも、職人にも、あらゆる人にとっての普遍的な指針を詩的に語っています。
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