孟子は、戦いや国家運営において最も大切なものは「人の和」、すなわち人々が心を一つにして団結していることだと説く。
確かに、四季や天候、昼夜といった「天の時」が良いに越したことはなく、地形や城の堅牢さなどの「地の利」も重要だ。しかし、そうした外的な条件がいかに整っていても、人々の間に信頼や団結がなければ、組織は崩れ去ってしまう。
強固な城壁、深い堀、優れた武器、豊富な兵糧――それらがすべて揃っていても、城を守る人々の心がバラバラであれば戦いには敗れ、拠点も放棄されることになる。
つまり、勝敗を分けるのは「心のつながり」であり、それこそが最も強い戦力なのである。
原文(ふりがな付き引用)
孟子(もうし)曰(いわ)く、
天(てん)の時(とき)は地(ち)の利(り)に如(し)かず。地(ち)の利(り)は人(ひと)の和(わ)に如(し)かず。
三里(さんり)の城(じょう)、七里(しちり)の郭(かく)、環(めぐ)りて之(これ)を攻(せ)むれど勝(か)たず。
夫(そ)れ環(めぐ)りて之(これ)を攻(せ)めれば、必(かなら)ず天(てん)の時(とき)を得(え)る者(もの)有(あ)らん。
然(しか)り而(し)て勝(か)たざる者(もの)は、是(こ)れ天(てん)の時(とき)地(ち)の利(り)に如(し)かざればなり。
城(しろ)高(たか)からざるに非(あら)ざるなり。池(いけ)深(ふか)からざるに非(あら)ざるなり。
兵革(へいかく)堅利(けんり)ならざるに非(あら)ざるなり。米粟(べいぞく)多(おお)からざるに非(あら)ざるなり。
委(す)てて之(これ)を去(さ)るは、是(こ)れ地(ち)の利(り)人(ひと)の和(わ)に如(し)かざればなり。
注釈(簡潔な語句解説)
- 天の時:自然条件の好機。四季・天候・昼夜などの「時の運」。
- 地の利:戦いに有利な地形、堅牢な城や地勢の優位性。
- 人の和:人々の心の結束、団結、信頼関係。
- 兵革:兵=武器、革=甲冑。兵器装備全般。
- 米粟:食糧。米は精白された穀物、粟は殻付き。
1. 原文
孟子曰、天時不如地利、地利不如人和。三里之城、七里之郭、環而攻之而不克。夫環而攻之、必有得天時者矣、然而不克者、是天時不如地利也。城非不高也、池非不深也、兵革非不堅利也、米粟非不多也。委而去之、是地利不如人和也。
2. 書き下し文
孟子曰(いわ)く、天の時は地の利に如(し)かず。地の利は人の和に如かず。三里の城(しろ)、七里の郭(かく)、環(めぐ)りてこれを攻(せ)めども克(か)たず。夫(そ)れ環りてこれを攻むるは、必ず天の時を得る者あらん。しかれども克たざるは、これ天の時、地の利に如かざればなり。城は高からざるに非(あら)ず。池(いけ)は深からざるに非ず。兵革(へいかく)は堅利(けんり)ならざるに非ず。米粟(べいぞく)は多からざるに非ず。委(す)ててこれを去(さ)るは、これ地の利、人の和に如かざればなり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「天時不如地利、地利不如人和」
→ 天の巡り合わせ(タイミング)は、地の利(地理的優位)には及ばない。地の利も、人々の和(団結・協力)には及ばない。 - 「三里之城、七里之郭、環而攻之而不克」
→ 城郭の内側が三里、外郭が七里もある城を、周囲から取り囲んで攻めても勝てないことがある。 - 「夫環而攻之、必有得天時者矣、然而不克者、是天時不如地利也」
→ 囲んで攻める以上、天の時(戦いに適したタイミング)を得ていたはずだが、それでも勝てないのは、地の利のほうが重要だからである。 - 「城非不高也、池非不深也、兵革非不堅利也、米粟非不多也」
→ 城が低いわけではなく、堀が浅いわけでもない。武器が弱いわけでもなく、兵糧が乏しいわけでもない。 - 「委而去之、是地利不如人和也」
→ それでも撤退することになるのは、地の利すら人の和には及ばないからである。
4. 用語解説
- 天の時(てんのとき):季節・気候・時間帯など、天の巡りあわせ。タイミング・チャンスとも言える。
- 地の利(ちのり):地理的な優位。地形・距離・守りやすさなど戦略的な地勢。
- 人の和(ひとのわ):人々の団結や協調。士気の高さ、信頼関係、リーダーシップ。
- 三里の城、七里の郭:広大で堅牢な城を象徴。城=3里(約12km弱)、郭=7里。
- 兵革(へいかく):武器や軍備(兵:兵士、革:甲冑・盾・武具)
- 米粟(べいぞく):食糧。特に軍糧、兵站の重要性を示す。
- 委而去之(すててこれをさる):すべてを放棄して撤退すること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孟子はこう述べた:
「勝利の要因には“天の時(タイミング)”、“地の利(地形)”、“人の和(人の団結)”があるが、最も重要なのは“人の和”である。
たとえ大きな城を攻め、良いタイミングで戦いを挑んでも勝てないのは、地の利に劣るからであり、
さらにその地の利をもってしても、人々の心がバラバラであれば結局は敗れる。
装備や食糧がどれほど充実していても、人の和がなければ勝利は得られないのだ。」
6. 解釈と現代的意義
孟子はこの章句で、人間関係や組織の「結束力」の重要性を説いています。
戦略(地の利)もタイミング(天の時)も大切ですが、それらを活かす土台となるのは「人の心が一つであること」です。
これは、リーダーシップ、信頼、協調、目的の共有といった現代のマネジメントにも通じる本質的な原則です。
7. ビジネスにおける解釈と適用
✅ 「戦略より信頼、タイミングより連携」
- 絶好のビジネスチャンス(天の時)も、優れた商品・拠点(地の利)も、社内の不和や組織崩壊があれば活かせない。
- 顧客満足やプロジェクト成功は、「メンバー間の和・現場との信頼」によって決まる。
✅ 「撤退の原因は“外”ではなく“内”にある」
- 他社に負けた、外部環境が悪いと嘆く前に、自社のチームワークや理念共有の欠如を省みるべき。
✅ 「“人の和”こそが最大の競争優位」
- 技術、資本、ノウハウが同等であれば、最後に勝つのは“人をまとめる力”を持った組織。
- 社員が自発的に動き、顧客との信頼関係が築けている会社は、環境変化にも柔軟に対応できる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「戦略より和、チャンスより信頼──“人の和”が組織の運命を決める」
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