孟子は、良いことを行うことができても、その理由や道理を理解していない人が多いと語った。人は何度も行動を繰り返しても、その背後にある道理を深く学ばなければ、本当の意味でその行いに価値を見出すことはできないと孟子は教えている。道理を学ぶことなくただ習慣的に行動することは、意味を欠いた行いであり、誠実さや理解が伴わなければ、人生の本質を見失ってしまう。
「孟子曰(もうし)く、之(これ)を行うて而(し)ても著(あた)らず、習(なら)うて而も察(さっ)らかならず、終(しゅう)身(しん)之に由(よ)りて、而も其の道(みち)を知らざる者、衆(おお)しきなり」
「道理を行っていても、その意図を理解せず、学びながらもその本質に気づかず、終生その道に従っても、その本当の意味を知らない者は、非常に多い」
道理をしっかりと学び、その理解を深めることが、人間として成長し、より良い行動をするためには不可欠である。
※注:
「著(あた)らず」…行動が表面的で、深い理解がない状態。
「察(さっ)らかならず」…道理やその背景を理解していない。
「終身之に由りて」…一生涯その道を実践しても。
「衆(おお)しきなり」…多くの人々がこのような状態にあること。
『孟子』 尽心章句(上)より
1. 原文
孟子曰、行之而不著焉、習矣而不察焉、終身由之、而不知其道者、衆也。
2. 書き下し文
孟子曰(いわ)く、之(これ)を行(おこな)いて而(しか)も著(あら)われず、習(なら)いて而も察(あき)らかならず、終身(しゅうしん)之に由(よ)りて、而も其の道(みち)を知(し)らざる者、衆(おお)きなり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「行之而不著焉」
→ それを実行していても、はっきりと認識していない。 - 「習矣而不察焉」
→ 習慣として身につけてはいるが、正しく理解していない。 - 「終身由之、而不知其道者、衆也」
→ 一生それに従って生きていても、それが“道”であることに気づかない者が多い。
4. 用語解説
- 行(おこな)う:日々の実践・行動。
- 著(あら)われる:明確に認識されること。自覚的な理解。
- 習(なら)う:習慣的に繰り返し行うこと。
- 察(あき)らか:理解が行き届いている状態。
- 終身(しゅうしん):一生涯。
- 由(よ)る:従う、基づいて行動する。
- 道(みち):人としての正しい生き方・道理・倫理。
- 衆(しゅう):大多数の人々。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孟子はこう言った:
「あることを日常的に実行していても、それを意識できていない。
習慣になっていても、なぜそうするのかをよく理解していない。
そして一生を通じてその行動に従っていながら、それが“道”であることに気づかない人は実に多い。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「無意識の善行や道徳」がいかに多くの人の中に潜んでいるか、しかしそれが自覚されていないことへの警鐘です。
- “行動している”だけでは不十分
道徳的・善良な行動をしていても、それを自覚していなければ磨かれることはない。 - “なぜそれをするのか”の理解が不可欠
行為の意義や理由を理解してこそ、行動が「道」として昇華する。 - 「自覚なき実践」は、自己成長につながりにくい
日々の善行や努力も、意識化されなければ単なる慣習で終わってしまう。
孟子はここで、「行動の自覚化」を促し、日常の中にこそ“道”があることを伝えています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
「形だけの仕事」に潜む盲点
- 毎日業務をこなしながらも、なぜそれをするのかを理解していない状態はよくあります。
- ルーチン化された仕事に対して、「目的・意味・価値」を再確認することで、モチベーションと品質が高まる。
「なぜやるか」を問うマネジメントが必要
- チーム全体が“道”を自覚できるように、「方針の共有」や「目的に立ち返る機会」を設けることが重要。
- OJTや朝礼などで「この業務の意味は何か?」と投げかける文化を育てる。
自覚と内省による“意味づけ”が人材を育てる
- 同じタスクでも、目的を理解して行うか否かで成長速度は大きく異なる。
- 「気づき」によって初めて、“行動”が“学び”に変わる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「日々の行動に“意味”を──自覚してこそ“道”となる」
この章句は、業務や行動の「内面化=意味づけ」の重要性を、孔孟思想らしい深さで伝えています。
「やらされている」状態から、「なぜこれをするのか」を理解する状態へと意識を高めることが、組織の質と個人の成長を支える鍵です。
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