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境遇が変わっても、心を変えずに生きる

孟子は、聖人舜の生き様を引き合いに出し、どんな境遇であっても動じず、安らかに生きる姿勢の尊さを説いた。
舜は天子となる前、庶民として質素な食事――乾飯と草菜――を口にし、貧しくともそれを当然のように受け入れていた。
その生活を生涯続けるのだとしても、不平や欲望に揺らぐことはなかった。

一方で天子となると、晴れ着をまとい、琴を奏で、帝の二人の娘を妻とし、贅沢な暮らしを送るようになった。
しかし、その豊かさの中でも浮つくことなく、それが以前から当然であったかのように、落ち着いた態度で生活していた。

重要なのは、外的な条件ではなく、内面の安定である。
舜のように、貧しくとも心に穏やかさを保ち、富んでも奢らず生きる――それが孟子の尊ぶ「安んじる」生き方である。


引用(ふりがな付き)

「孟子(もうし)曰(いわ)く、舜(しゅん)の糗(きゅう)を飯(はん)い、草(くさ)を茹(くら)うや、将(まさ)に身(み)を終(お)えんとするが若(ごと)し。其(そ)の天子(てんし)と為(な)るに及(およ)びてや、袗衣(しんい)を被(かぶ)り、琴(こと)を鼓(かな)で、二女(にじょ)果(はべ)る。之(これ)を固(もと)より有(あ)りしが若(ごと)し」


注釈

  • 糗(きゅう)…乾飯。貧しい者が食す保存食。
  • 草を茹う(くさをくらう)…野菜を煮て食べる。質素な食事の象徴。
  • 将に身を終えんとするが若し…そのまま一生を終えても満足するかのような様子。
  • 袗衣(しんい)…模様付きの晴れ着。格式ある衣服。
  • 果る(はべる)…女性が仕える・添うこと。ここでは堯帝の二人の娘を指す。
  • 固より有りしが若し…もともとそうであったかのように、自然で動じない様子。
目次

1. 原文

孟子曰、舜之飯糗茹草也、若將身焉。其爲天子也、被袗衣、鼓琴、二女果、若固之。


2. 書き下し文

孟子(もうし)曰(いわ)く、舜(しゅん)の糗(きゅう)を飯(くら)い、草(くさ)を茹(に)るや、将(まさ)に身(み)を終(お)えんとするが若(ごと)し。其(そ)の天子(てんし)と為(な)るに及(およ)びてや、袗衣(しんい)を被(かぶ)り、琴(こと)を鼓(う)ち、二女(にじょ)果(つい)にして、之(これ)を固(も)ち有(たも)つが若し。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 舜之飯糗茹草也、若將身焉。
     → 舜が粗末な乾パンを食べ、草を茹でていたとき、その様子はまるで一生をそのまま終えるつもりでいたかのようだった。
  • 其爲天子也、被袗衣、鼓琴、二女果、若固之。
     → その舜が天子になったときには、美しい礼服を身にまとい、琴を奏で、二人の娘(帝の娘)と結婚し、その立場をあたかも当然のように穏やかに保っていた。

4. 用語解説

  • 糗(きゅう):干し飯や粗末な保存食。一般庶民や貧者が口にした簡素な食事。
  • 茹草(じょそう):野草を茹でて食すこと。質素な生活を象徴。
  • 将身焉(しょうしんえん):身を終えるつもり、すなわちそのままの状態で一生を終える覚悟。
  • 袗衣(しんい):礼装。天子や貴人が用いる格式ある衣。
  • 鼓琴(こきん):琴を奏でる。文人君子の理想的行為。
  • 二女果(にじょはた)す:舜が尭の二人の娘(堯の長女娥皇と次女女英)を妻に迎えたこと。「果」は成就・達成を意味する。
  • 若固之(これをもつがごとし):まるでそれが本来から自分に属していたものであるかのように自然にふるまうこと。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう言った:

「舜が貧しく、乾パンや野草を食べていた頃の彼は、そのまま一生を終える覚悟で暮らしていたように見えた。
しかし、やがて天子となった彼は、礼服をまとい、琴を奏で、帝の娘二人を妻に迎え、まるでそれらをずっと自分のものとしていたかのように、落ち着いてそれらを受け止めていた。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、舜という聖人の「変わらぬ心」と「徳の自然さ」を描写しています。

舜は極貧の中にあっても、境遇に不満を持たず、質素な生活に心を込めて生きていました。そしてそのような人物だからこそ、帝堯に認められ、天子となるに至りました。

重要なのは、「貧しくても豊かでも、心の在り方が変わらない」という徳の本質です。地位や名声、富貴の有無によって一喜一憂することなく、自然体でそれを受け止められること──それが孟子が言う理想の人格なのです。


7. ビジネスにおける解釈と適用

「どのステージにあっても、“自分”を保てるか」

  • 初期のスタートアップ時代でも、上場企業の役員になっても、自らの志や姿勢を変えない人は、信頼を集め続ける。
  • 成功してもおごらず、苦境にあっても卑屈にならない。このような“変わらぬ心”が真のリーダーシップの証。

「肩書や報酬に“振り回されない”人が、信頼を勝ち取る」

  • 舜が天子になっても騒がず、貧者であっても諦めず、自然体でその立場を引き受けたように、地位や報酬に左右されない姿勢は組織の安定を生む。

「外的変化を受け入れつつ、内的信念を保つ」

  • 昇進・異動・プロジェクトの成功や失敗など、ビジネス環境は常に変化する。
  • その中で、心の軸がぶれない人間が、継続的に成果を上げ、周囲の信頼を集める人材となる。

8. ビジネス用心得タイトル

「変わるのは地位、変えぬのは志──どの場にも“自分らしさ”を貫く」


この章句は、孟子が理想とする人物像──貧にも富にも動じぬ人格の自然体──を見事に表現しています。
ビジネスでも人生でも、自分の本質を保つことの重要さを説いた、普遍的な教訓として学ぶ価値があります。

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