山のほら穴から生まれ出る一片の孤雲。
その雲は、留まることも、流れることも、何ものにも縛られず、ただ自由に空を漂っていく。
また、空に懸かる美しい満月。
地上が騒がしかろうが、静かであろうが、まったく関係なく、
ただ凛とした光で、あまねく照らし続けている。
これらは、周囲の環境や状況に左右されることなく、
自己の姿勢とあり方を貫く生き方の象徴である。
「自由」とは、外から与えられるものではなく、
何ものにも心を縛られない内なる在り方から生まれるのだ。
引用(ふりがな付き)
孤雲(こうん)、岫(しゅう)を出(い)づる、去留(きょりゅう)、一(いち)も係(かか)る所無し。
朗鏡(ろうきょう)、空(そら)に懸(か)かる、静(せい)と躁(そう)、両(りょう)つながら相干(あいかん)さず。
注釈
- 孤雲(こうん):ひとりで浮かぶ雲。自由に生きる象徴。
- 岫(しゅう):山の洞(ほら)穴。自然の静かな源。
- 去留(きょりゅう):とどまることも、去ることも。すべてを気ままに任せる姿勢。
- 朗鏡(ろうきょう):澄んだ鏡のように光る月のこと。清明で曇りなき存在。
- 静躁(せいそう):周囲の状況。静けさと騒がしさ、両極の状態。
- 相干(あいかん)さず:干渉しない。まったく関係しないという意。
関連思想と補足
- この項は、老荘思想に通じる「無為自然(むいしぜん)」の境地を示しており、
人は自然に倣い、自他を分けず、流れに逆らわぬ心で生きることが理想であると説く。 - 仏教的には「無執着」の精神、つまり「何ものにも執われずにただ在る」ことの尊さが重なる。
- 現代社会のノイズの中で、こうした“孤雲”や“朗鏡”のような心を保つことこそ、精神的自由の表現である。
原文:
孤雲出岫、去留一無係。
朗鏡懸空、靜躁兩不相干。
書き下し文:
孤雲、岫(しゅう)を出づるも、去ると留まると、一も係る所無し。
朗鏡、空に懸かりて、静も躁(そう)も、両ながら相干(かか)わらず。
現代語訳(逐語/一文ずつ):
- 「孤雲、岫を出づる、去留、一も係る所無し」
→ 一つの雲が山の谷間(=岫)からふわりと出てゆくように、行こうが留まろうが、一切何にも縛られない。 - 「朗鏡、空に懸る、静躁、両ながら相干さず」
→ 空にかかる明るい鏡(=月や清らかな心)は、周囲が静かであっても騒がしくても、一切影響されない。
用語解説:
- 孤雲(こうん):孤高に漂う一つの雲。束縛のない存在の象徴。
- 岫(しゅう):山の谷間、洞穴。雲が出入りする場所の比喩。
- 去留(きょりゅう):行くかとどまるか。動静のこと。
- 朗鏡(ろうきょう):明るく澄んだ鏡。しばしば「心」の象徴としても使われる。
- 静躁(せいそう):静けさと騒がしさ。外界の状態。
- 相干(あいかん)せず:関わらない、干渉し合わない。影響を受けないという意味。
全体の現代語訳(まとめ):
山の谷間から出ていく一筋の雲は、行くもとどまるも自由であり、何にも縛られていない。
空にかかる明るい鏡は、周囲が静かであっても騒がしくあっても、その清らかさを失うことがない。
このように、自由と無心を得た境地では、外の状況に影響されることなく、自らの本質を保ち続けられる。
解釈と現代的意義:
この章句は、「無執着と無干渉」こそが自由で安定した心のあり方であるということを詩的に表現しています。
1. “去留一無係”──行くも留まるも、こだわりを捨てる
- 何かに執着する心があると、自由を失う。
→ 執着なき行動は、軽やかで美しい。
2. “静躁両不相干”──環境に左右されない心の強さ
- 外がうるさくても、心が騒がなければ平静は保たれる。
→ 真の静けさは“外”ではなく“内”にある。
3. “雲”と“鏡”に学ぶ、自然体の生き方
- 雲は風に乗って漂うまま、鏡は映るものに染まらず澄んでいる。
→ 無理に動かず、無理に止まらず、ただ“今ここ”に調和する。
ビジネスにおける解釈と適用:
1. “自律的な行動”と“外界に依存しない判断”の重要性
- 誰かに言われて動くのではなく、自らの意志で動き、結果に執着しすぎない姿勢が求められる。
→ 雲のような軽さと、鏡のような客観性が、変化に強い人材をつくる。
2. “騒がしい環境”でも“ブレない人”が信頼される
- トラブルや混乱の中でも、冷静に判断し行動できるリーダーは、組織の安心の核となる。
→ 内なる静けさを育てることが、リーダーシップの基盤。
3. “執着しない人”が最も柔軟で創造的
- 昇進や失敗、評価や競争などに一喜一憂しない人は、本質的な成果を出す余裕を持てる。
→ 目の前に集中しつつ、結果にはこだわらない。これが最強のビジネススタンス。
ビジネス用心得タイトル:
「雲のごとく自由に、鏡のごとく澄み切って──心の無執着が自在を生む」
この章句は、**“動じない心”“こだわらない自由”**を理想とする、生き方の極意ともいえる教えです。
現代のような変化の激しい時代において、
「去ってもよし、留まってもよし」「騒がしくても、心は曇らず」
そんな在り方が、ビジネスにも人生にも、最大の強みとなるでしょう。
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