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幻のような現実の中にこそ、真実は宿る

黄金は、荒々しい鉱石を精錬してこそ取り出せる。
美しい玉(ぎょく)も、ただの石を磨き整えることで、その輝きを放つ。
同じように、この世の「真理」も、幻のような現実の生活を通じてでなければ、
決して手にすることはできない。

たとえば、酒を飲んでいる最中に、ふと“道”の本質に気づくこともあれば、
花を眺めながら、理想郷のような世界――仙界のような感覚に出会うこともある。

どれほど優雅で理想的な境地であっても、
それは現実という世俗から完全に切り離されたところには存在しない。
真実とは、現実の延長線上にこそ現れるものなのだ。

「金(きん)は鉱(こう)より出(い)で、玉(ぎょく)は石(いし)より生(しょう)ず。幻(まぼろし)に非(あら)ざれば、以(もっ)て真(しん)を求(もと)むること無し。道(どう)を酒中(しゅちゅう)に得(え)、仙(せん)に花裡(かり)に遇(あ)う。雅(みやび)なりと雖(いえど)も、俗(ぞく)を離(はな)るること能(あた)わず。」

理想も悟りも、日々の俗事や営みのなかから生まれる。
だからこそ、現実を軽んじたり拒んだりせず、
そのなかで丁寧に生きることこそが、
本当の“真”へと通じる道なのである。


※注:

  • 「金は鉱より出で、玉は石より生ず」…価値あるものは、粗野でありふれたものの中から得られるという喩え。
  • 「幻に非ざれば、以て真を求むること無し」…現実の儚さ、移ろいのなかにこそ真実が宿る。
  • 「道を酒中に得」…西晋の竹林の七賢のように、酒の席や日常のなかに悟りを見出すこと。
  • 「仙に花裡に遇う」…陶淵明の『桃花源記』に見られるような、花のなかに仙境を感じるという詩的境地。
  • 「俗を離るること能わず」…いかに高尚な境地も、現実からは切り離せないという教え。

原文

金自鑛出、玉從石生。非幻、無以求眞。
得道酒中、遇仙花裡。雖雅、不能離俗。


書き下し文

金は鉱より出で、玉は石より生ず。幻に非ざれば、以て真を求むること無し。
道を酒中に得、仙に花裡に遇う。雅なりと雖も、俗を離るること能わず。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

「金は鉱山の中から取り出され、玉(ぎょく)は石の中から生まれる」
→ 美しいもの、価値あるものは、粗く汚れたものの中から現れる。

「幻(まぼろし)でなければ、真実を得ることはできない」
→ 幻影や虚構、仮の世界を経ずして、本質や真理には到達できない。

「道を酒の中に得る、仙人に花の中で出会う」
→ 一見俗的な場にこそ、高い精神性や真理が現れることもある。

「いかに雅(みやび)であっても、完全に世俗から離れることはできない」
→ 高尚に見える生き方も、社会や現実から完全には切り離されてはいない。


用語解説

  • 金自鉱出・玉從石生:いずれも美や価値の象徴である金や玉は、汚れた鉱石や石の中に埋もれているという喩え。
  • 幻(げん):虚像・仮のもの。仏教的には「現実はすべて幻である」という世界観を表す。
  • 真(しん):真理・本質。
  • 酒中に道を得る:快楽や酔いの中でも「道(真理)」を得ることはある、という逆説的表現。
  • 花裡に仙を遇う:「花」は美や欲望の象徴であり、その中で「仙」(清らかな存在)に出会うという意外性を示す。
  • 雅(が):高尚で洗練されたこと。
  • 俗(ぞく):世間的、欲望や慣習にまみれた生活・世界。

全体の現代語訳(まとめ)

金や玉といった価値あるものは、どれも汚れた鉱石の中から取り出される。
同様に、幻のような仮のものを通じなければ、真の価値や真理には至らない。
人は時に、酒の中に道を見いだし、花の中に仙人と出会うこともある。
どれほど高尚な人間でも、俗世を完全に離れることはできないのだ。


解釈と現代的意義

この章句は、**「真理は純粋な場所だけにあるのではなく、俗や幻の中にこそ宿る」**という逆説的な人生観を示しています。

  • 美や真理は、一見混沌とした、汚れた場所から現れる
  • 現実や欲望を避けてばかりでは、本質には触れられない
  • 理想や清らかさを追求しても、人間社会を完全に離れることはできない。
  • むしろ、俗の中でこそ高尚さが際立つ

ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

1. 「本質は泥中の蓮に宿る」

汚れた市場、競争の激しい現場、混沌とした課題の中からこそ、革新や本当の価値が生まれる

2. 「現場の“泥臭さ”を避けず、そこにこそ真理を探す」

管理職や経営層が「理想論」にとどまるのではなく、現場に入り込み、混沌の中から洞察を得ることが重要。

3. 「美や理想は、世俗の中でこそ輝く」

商品も人も、現実的な文脈・課題の中でこそ、その本当の魅力が浮かび上がる
「理想を語る」だけでなく、「混沌の中で行動する」ことが価値の実証となる。


ビジネス用の心得タイトル

「混沌を越えてこそ、真の価値が見える──幻中の真を掴む眼を持て」


この章句は、清浄・理想ばかりを追うのではなく、
現実の中に足を踏み入れ、そこから“真”をすくい上げる胆力と智慧を持つことの大切さを教えています。

真の高尚さとは、「俗を拒むこと」ではなく、
**「俗の中で清らかにあること」**なのです。


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