――心を開きながら、相手の真偽を見抜けるバランス感覚が“賢”の証
孔子は、人間関係における「信頼」と「見抜く力」の両立について、次のように語ります。
「人にだまされるのではと先に疑ってかかることなく、
人に信用されていないのではと勝手に思い悩むこともない。
それでいて、相手の偽りや不信を自然に見抜ける者――
それこそが“賢者”というものであろう。」
本質:
この言葉は、「信じやすいこと」と「見抜けること」は両立するという
深い人間観察の境地を示しています。
- 疑い深くなると、他人との関係は壊れやすい。
- だが、無防備に信じ切るのではなく、心の奥に自然な“察し”がある。
- そしてそれは、疑いから来るものではなく、観察と経験から来る直感。
孔子はそのような人物を「賢なる者」と呼びます。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)曰(いわ)く、
詐(いつわ)りを逆(さか)らえず、
信ならざるを億(おも)わず。
抑〻(そもそも)亦(また)先(ま)ず覚(さと)る者は、是(こ)れ賢(けん)なるか。」
注釈:
- 詐りを逆らえず … 他人にだまされるのではと先に構えてかかることをしない。
- 信ならざるを億わず … 他人に信用されていないのではないかと、疑心暗鬼にならない。
- 先ず覚る者 … 他人の真偽を直感的に察する力のある者。
- 賢なるか … それが「本当の賢さ」というものではないか、という語りかけ。
教訓:
この章句は、「信じながらも見抜く」という高度な人間関係の在り方を示しています。
- ただ用心深くて警戒するのでは、人を遠ざける。
- ただ善意だけで信じるのでは、利用される危険がある。
- 心を開いて関わりつつ、冷静に観察すること。
それが孔子の言う「賢者」の姿です。
1. 原文
子曰、不逆詐、不億不信、抑亦先覺者、是賢乎。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、詐(いつわ)りを逆(さか)らわず、信(しん)ならざるを億(おも)わず。
抑〻(そもそも)亦(また)先(ま)ず覚(さと)る者は是(こ)れ賢(けん)なるか。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
「詐りを逆らわず」
→ 人の嘘や欺きに、わざわざ反発しない。
「信ならざるを億らず」
→ 嘘や不誠実に対して、悪意を推測して疑わない。
「抑々亦た先ず覚る者は是れ賢なるか」
→ それでも、誰よりも先にその本質を見抜いている者は、これを“賢者”と呼べるのではないか?
4. 用語解説
- 逆(さから)わず:相手に真っ向から対抗・否定しない。
- 億(おも)わず:推測しない、勘ぐらない。悪意を先に想定しないこと。
- 抑(そもそも):文頭において、話の主旨を立てる語。「さて」「ところで」に近い。
- 先覚(せんかく)/先ず覚る者:物事の本質や真実に誰よりも早く気づく人物。
- 賢(けん)なるか:賢者と呼ぶに値するのではないか?
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「人の嘘に対して反発せず、不誠実な態度に対しても悪意を推測しない。
だが、誰よりも早くその本質を見抜く者──そういう人こそが、真の“賢者”なのではないか。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「表に出さずとも、物事の本質を見抜く賢さ」**を称えたものです。
- 他人の欺瞞や虚偽に対して、わざわざ正面から争ったり、悪意を持って推測したりしない。
- それでも、内心ではしっかりと本質を見抜いている。
- 孔子はそうした人物を、表立って対立しないが、**真の洞察を持つ“賢者”**と評価しています。
- この章句は、**「沈黙の知」「控えめな賢さ」**を理想とする東洋的知恵の象徴です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
✅「騒がず、反発せず、それでも見抜く力が賢者の証」
- 嘘や不誠実にすぐ反応せず、冷静に見守り、見抜く力がある人は、組織の安心感を支える。
- すぐに批判や反論をするよりも、物事の背景や意図を理解して行動する方が、結果として信頼される。
✅「“疑う”より“見抜く”力を養え」
- 相手をすぐに疑うのではなく、観察と洞察をもって本質を見極める。
- 批判する前に、「自分の態度で相手の真意を引き出す」力が求められる。
✅「本質を見抜きながらも、表面では品格を保つ人材が“賢者”」
- 言葉にしないが、理解している。騒がずに本質を捉える。
こうした人は、静かな信頼と尊敬を集めるリーダー像に通じる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「見抜いても争わず──“沈黙の賢さ”が信頼を築く」
この章句は、反応より洞察、批判より理解、沈黙の中の知性を称えるものです。
時代や組織の中で“真に信頼される人物”とは、
声高に語らずとも、本質を見極める“賢者”の態度を持つ者である──
それが孔子の深い教えです。
コメント