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国を支えるのは、信義と道徳である

主旨の要約

孔子は、政治において重要なのは「経済」「軍事」「信義(民の信頼・道徳)」の三本柱だと述べつつ、最終的に残すべきは「信義」であると説いた。飢えも戦乱も人を苦しめるが、信頼と道徳のない社会では、人は生きるに値しないとした。


解説

この章句は、弟子の子貢が「政治の本質とは何か」と問う場面から始まります。孔子は以下の三つを挙げます:

  1. 足食(そくしょく)…民の生活を安定させること(経済の充実)
  2. 足兵(そくへい)…国を守る軍備の充実(安全保障)
  3. 民信之(たみこれをしんず)…民が政治や社会を信頼できる状態(信義・道徳の浸透)

しかし子貢が「どれか一つを捨てるなら?」と重ねて問うと、孔子はまず「軍備を捨てよ」と答え、さらに「次に捨てるとしたら食糧」と言います。そしてこう述べます:

「人は古くから死ぬものだ。だが、民に信がなければ、社会は成り立たない」

これは、人はたとえ苦しくても、信頼できる社会や人間関係があれば希望を持って生きられる。逆に、信義や道徳が崩れた社会では、生きることそのものが苦痛になるという深い警告です。

この教えは、現代の国づくりや組織運営にも通じます。経済や安全保障がどれほど整っていても、「信頼」「誠実」「共通の倫理観」がなければ、持続可能な社会は築けません。


引用(ふりがな付き)

子貢(しこう)、政(まつりごと)を問(と)う。子(し)曰(いわ)く、食(しょく)を足(た)らし、兵(へい)を足(た)らし、民(たみ)をして之(これ)を信(しん)ぜしむ。
子貢曰く、必(かなら)ず已(や)むを得(え)ずして去(す)たば、斯(こ)の三者(さんしゃ)に於(お)いて何(いず)れをか先(さき)にせん。曰く、兵(へい)を去(す)つ。
曰く、必ず已むを得ずして去たば、斯の二者に於いて何れをか先にせん。曰く、食(しょく)を去つ。
古(いにしえ)より皆(みな)死(し)有(あ)り。民(たみ)、信(しん)無(な)ければ立(た)たず。


注釈

  • 足食(そくしょく)…食糧が十分であること。経済や生活基盤の安定を意味する。
  • 足兵(そくへい)…軍備が整っていること。治安や国防、安全保障に関わる。
  • 民信之(たみ これを しんず)…民が国や制度を信じている状態。ここでは「社会に道徳・信義が通っている」ことを重視している。
  • 信無くば立たず…信義・信頼がなければ、人間社会は成立しないという根本的な原理。

1. 原文

子貢問政。子曰、足食、足兵、民信之矣。
子貢曰、必不得已而去、於斯三者、何先。曰、去兵。
曰、必不得已而去、於斯二者、何先。曰、去食。
自古皆有死、民無信不立。


2. 書き下し文

子貢(しこう)、政(まつりごと)を問う。
子(し)曰(いわ)く、食(しょく)を足(た)らし、兵(へい)を足らし、民(たみ)をして之(これ)を信(しん)ぜしむ。

子貢曰く、必ず已(や)むを得ずして去(す)つるとせば、斯(こ)の三者において、何(いず)れをか先にせん。曰く、兵を去る。

子貢曰く、必ず已むを得ずして去るとせば、斯の二者において、何れをか先にせん。曰く、食を去る。

古(いにしえ)より皆(みな)死有り。民、信無(な)くば立たず。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「食を足らし、兵を足らし、民をして之を信ぜしむ」
     → 政治においては、食糧を十分にし、軍備を整え、民が政府を信頼できるようにすることが重要である。
  • 「やむを得ずこの三つのうち一つを捨てるとしたら?」→「兵を捨てよ」
     → 軍備よりも、食と信頼が優先されるべきである。
  • 「さらにその二つのうち一つを捨てるとしたら?」→「食を捨てよ」
     → 食よりも信頼を優先せよ、という。
  • 「古くから人は皆死ぬものだ。だが、民が信なくば国は立たぬ」
     → 人間はいつか死ぬが、政治は民衆の信頼がなければ成り立たない。

4. 用語解説

  • 子貢(しこう):孔子の高弟。商才と弁舌に優れ、実務的な感覚をもっていた人物。
  • 足食(そくしょく):民が食糧に困らぬようにすること。経済の安定。
  • 足兵(そくへい):軍備を充実させ、治安・国防を保つこと。
  • 信(しん):民衆の信頼。政治権力に対する「信用」「信望」。
  • 去(す)つる:ここでは「捨てる」「犠牲にする」の意。
  • 立たず:国・政治が成立しないこと。統治の正当性が消失すること。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

子貢が政治の要諦を問うた。

孔子は、「まず、民が飢えず、軍事も整い、民が政を信頼していることが重要である」と答える。

子貢はさらに、「その三つのうち一つを犠牲にせねばならないなら、どれを?」と問う。

孔子は「兵を捨てよ」と答え、さらに二者の選択を迫ると、「食を捨てよ」と続けた。

そして孔子は結ぶ──「人は古来より誰しも死ぬが、民の信がなければ国家は存立しない」と。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「統治における本質的価値は何か」という問いに対し、孔子が非常に現実的かつ倫理的に答えた名句です。

  • 信頼こそ国家・組織の基盤
     → 食料や安全(軍備)がなくても、信頼があれば復興・団結できる。しかし信頼がなければ、制度や経済があっても国は崩壊する。
  • 死生観の超越と実利的な倫理観
     → 「古来皆死有り」と淡々と語る孔子の言葉には、「命を守る」以上に、「信義を守ること」が長期的な秩序の核であるという思想がある。
  • 現代社会にも通じる、情報社会・危機社会への警告
     → パニックや誤情報の拡散、不正隠蔽──いずれも「信の喪失」がもたらす混乱を現代人も痛感している。

7. ビジネスにおける解釈と適用

(1)「収益や体制より、信頼が先」

  • 利益(食)や制度(兵)を整えても、ステークホルダーからの信頼を失えば事業は成立しない。
     → “信頼経営”が企業の命綱。

(2)「危機時の優先順位──“信”の維持を最優先に」

  • リストラや納期遅延などの場面で、顧客・社員・社会からの信を失わぬよう、誠実な情報開示と説明責任が不可欠

(3)「内部統治でも“信”が組織を支える」

  • 上司や経営層への信頼がないと、どれほど制度や福利厚生を整えても、社員のエンゲージメントは生まれない

8. ビジネス用の心得タイトル

「信なければ立たず──“信頼”が組織と社会の土台」


この章句は、「人間にとって何が最も必要か」という問いに、
“信”という無形の徳こそが、最も根源的な“存在の条件”であると明言するものです。

ビジネスでも国政でも、信頼のないマネジメント・統治は成立しないという真理を、2500年前に孔子はすでに見抜いていました。

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