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勤勉と倹約を、私欲の道具にしてはならない

本来、「勤勉」とは道徳や義に対して敏感であり、人格を磨くために努力する姿勢を意味していた。
しかし今では、単に貧しさを脱してお金を得るための手段として使われがちである。

また「倹約」とは、本来は利益に淡白で、欲望を抑えて心静かに生きるためのものであった。
ところが今では、単なる吝嗇(けち)を正当化する口実として使われてしまっている。

かくして、もともとは「君子」が身を正しく保つための大切な守り札であったはずのものが、
いつしか「小人」が私利私欲を正当化し、自分を飾るための道具に変わってしまった――
なんとも惜しく、残念なことである。


原文(ふりがな付き)

「勤(きん)は徳義(とくぎ)に敏(びん)し、
而(しか)るに世人(せじん)は勤(きん)を借(か)りて以(もっ)て其(そ)の貧(ひん)を済(すく)う。

倹(けん)は貸利(たいり)に淡(たん)し、
而(しか)るに世人(せじん)は倹(けん)を仮(か)りて以(もっ)て其(そ)の吝(りん)を飾(かざ)る。

君子(くんし)身(み)を持(じ)するの符(ふ)は、
反(かえ)って小人(しょうじん)私(わたくし)を営(いとな)むの具(ぐ)と為(な)れり。

惜(お)しい哉(かな)。」


注釈

  • 勤(きん):道徳や正義に対して熱心に励むこと。努力の本義。
  • 済う(すくう):困窮を救う。転じて「貧を済う」は、生活向上・成功の手段という意味に。
  • 倹(けん):利益や欲に淡く、無駄を省く慎ましさ。
  • 吝(りん):けち。物惜しみすること。
  • 君子(くんし):人格と道徳を備えた理想的人間。
  • 小人(しょうじん):利己的で私欲に走る人物。

パーマリンク候補(英語スラッグ)

  • true-virtue-not-greed(本当の徳は私欲のためにあらず)
  • beyond-wealth-and-frugality(富や倹約の先にあるもの)
  • don't-twist-virtue(徳を歪めるな)

この条は、「勤勉=成功」「倹約=金を貯める」などの短絡的な価値観に対し、
本来の意味を見失わないようにという深い警告を含んでいます。
その意味で、現代のビジネスやライフスタイルにも鋭い示唆を与えてくれます。

1. 原文

勤者敏於德義、而世人借勤以濟其貧。
儉者淡於利、而世人假儉以飾其吝。
君子持身之符、反爲小人營私之具矣。惜哉。


2. 書き下し文

勤(きん)なる者は徳義(とくぎ)に敏(びん)なり、
而(しか)るに世人(せじん)は勤を借(か)りて以(もっ)て其(そ)の貧(ひん)を済(すく)う。
倹(けん)なる者は利(り)に淡(たん)し、
而るに世人は倹を仮(か)りて以て其の吝(りん)を飾(かざ)る。
君子(くんし)身を持(じ)するの符(ふ)は、反(かえ)って小人(しょうじん)私(わたくし)を営(いとな)むの具(ぐ)と為(な)れり。惜(お)しき哉(かな)。


3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)

  • 「勤なる者は徳義に敏なり」
     → 真に勤勉な人は、徳や義(道義)を磨くことに対しても敏感である。
  • 「而るに世人は勤を借りて以て其の貧を済う」
     → しかし世間の人々は、勤勉をただ生活の貧しさを埋めるための手段として利用している。
  • 「倹なる者は利に淡し」
     → 本当に倹約を重んじる人は、利益や金銭欲に淡泊である。
  • 「而るに世人は倹を仮りて以て其の吝を飾る」
     → だが世の人々は、倹約という名目で自分の吝嗇(けち)さを正当化し、美化している。
  • 「君子身を持するの符は、反って小人私を営むの具と為れり」
     → 本来は君子(立派な人格者)が自らを律するための道徳的印(しるし)であるはずの勤倹が、かえって小人物が自己利益のために利用する道具になってしまっている。
  • 「惜しき哉」
     → 嘆かわしいことだ。

4. 用語解説

  • 勤(きん):努力し続けること。勤勉。
  • 徳義(とくぎ):徳(人格の善さ)と義(道義、道理にかなった正しさ)。
  • 済う(すくう):苦境を切り抜ける、生活を立て直すという意味。
  • 倹(けん):節約、無駄を省く態度。
  • 吝(りん):けち、出し惜しみの心。
  • 仮る(かる):名目を借りる、表面上の理由として用いる。
  • 飾る(かざる):見栄えよく見せる、取り繕う。
  • 君子(くんし):徳のある立派な人物。人格者。
  • 小人(しょうじん):器の小さい人、私利私欲に生きる人。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

本当に勤勉な人は、徳や義を大切にし、それに敏感である。だが多くの人は、勤勉を単なる生活の手段としてしか見ていない。

また、真の倹約家は金銭に執着せず淡々としているが、世間の人々は倹約という名のもとに、自らのケチさを隠そうとしている。

本来は立派な人間が自らを律するための勤倹という美徳が、今では小人物が自己利益のために利用する方便となっている――実に嘆かわしいことである。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「美徳の名を借りた自己正当化」というテーマを通じて、“見せかけの美徳”と“本物の徳”の違いを鋭く指摘しています。

  • 勤勉や倹約といった行為自体は立派に見えても、それを行う動機が利己的であれば徳にはならない。
  • 美徳とは、外見や行動の問題ではなく、内面的な精神と動機の純粋さにある。

このような視点は、表面的な行動や実績が評価されやすい現代社会において、行動の背後にある「志」や「動機」を問い直す重要な視点となります。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

●「勤勉さの目的は“成長と徳養”か、“ただの稼ぎ”か」

  • 目の前の成果ばかりを追いかける働き方は、一見勤勉に見えても長期的には燃え尽きや信頼の低下を招く。
  • 本来の勤勉とは、自他のために誠実に努力し、人格を高めていく営み。

●「節約は“持続可能性”のためか、“単なる出し惜しみ”か」

  • 真に倹約する企業は、資源を大切に使い、無駄を省きつつも必要なところには投資する。
  • 一方で、吝嗇は“コスト削減”の名のもとに、品質低下や社員不満を招く危険がある。

●「美徳の“仮面”を被る自己利益主義」

  • 倫理的なフレーズ(「公平」「透明」「誠実」など)を掲げながら、実は利己的な判断が裏にある──そうした“企業ポーズ”は、かえって信頼を損なう。
  • 真の経営倫理は、内発的な価値観とそれに基づいた一貫した行動にある。

8. ビジネス用の心得タイトル

「美徳の仮面に宿る欺き──勤倹の本義を問い直せ」


この章句は、「善きふるまいも、志が歪めば徳ではなくなる」という、動機の純粋さを軸とした倫理観を私たちに突きつけます。

勤勉や倹約といった「立派に見える行動」に安心せず、それを何のために、誰のために行っているのかを自省することこそ、真の君子=人格者のあり方です。

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