目次
一、原文と逐語訳
原文:
人の難に逢たる折、見舞に行きて一言が大事のものなり。
その人の胸中が知るるものなり。兎角武士はしほたれ、草臥るるは疵なり。
勇み進みて、物に勝ち浮ぶ心にてなければ、用に立たざるなり。人をも引立つる事これあるなり。
逐語訳:
- 他人が不幸に遭ったとき、その見舞いの場で放つ一言が非常に大切である。
- その一言によって、見舞いに来た者の心根が見て取れるものである。
- 武士たる者が、しょげたり、くたびれたりするのは、**士道の疵(きず)**である。
- 常に勇ましく、困難を乗り越えようとする気持ちがなければ、役に立つ武士とはいえない。
- その心持ちがあれば、他人に元気を与えることもできるのである。
二、用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
難に逢たる折 | 災難・不幸・困難に遭遇したとき |
一言が大事 | 短いながらも、気持ちを凝縮させた言葉が重要 |
胸中が知るる | その人の人柄・心の中がよくわかる |
しほたれ | 気落ちしてしょんぼりした様子 |
草臥るる | 精神的に疲れ果てること |
勝ち浮ぶ心 | 困難に勝って乗り越えようとする前向きな気構え |
三、全体の現代語訳(まとめ)
人が不幸に遭ったときに見舞いに行くならば、最初の一言が最も大切である。
その一言に、見舞う側の人間性や真心があらわれる。
武士たるもの、困難にうちひしがれているようではならない。
常に前向きな精神を持ち、果敢に困難に挑もうとする姿勢がなければ、人の上に立つ資格はない。
そうした強い心持ちこそが、相手に力を与え、励ます力となるのである。
四、解釈と現代的意義
この章句は、「同情や慰めではなく、勇気と励ましを持った見舞いの精神」を教えています。
現代においても、
- 同僚や部下が病気や不幸に見舞われたとき
- プロジェクトが失敗して落ち込んでいるとき
- 惨事や災害のあとに言葉をかけるとき
こうした場面での「一言」が、その人自身の人格を如実に表すのです。
「大丈夫。自分も支える」「こういうときこそ力を見せるときだ」
そうした前向きな励ましは、状況を変えなくとも、心を動かす力を持ちます。
五、ビジネスにおける応用
シーン | 実践例とアドバイス |
---|---|
同僚が病気やミスをしたとき | 「無理せず、でも信頼して待ってる」「ここが踏ん張りどきだな」などの支える言葉が力になる。 |
チームが失敗して落ち込んでいるとき | 「この経験はきっと力になる」「失敗したからこそ、次がある」など、再起を促す一言が重要。 |
クレームやトラブル時 | 動揺せず、「まずは私が受け止める」といった冷静な一言で信頼を得る。 |
面談・相談対応 | 相手が苦しんでいるときに、「自分にも同じような時期があった」「乗り越えられる」など、等身大で寄り添う一言が響く。 |
六、まとめと教訓
見舞いの一言は、心の鏡である。
『葉隠』が説くように、「思いやり」だけでなく、不屈の精神と励ましの心をもって言葉をかけること。
それが、見舞いの作法であり、人を動かす真の力です。
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