目次
■原文(日本語訳)
第2章 第9節
サンジャヤは語った。
「勇士アルジュナはクリシュナにこのように告げ、『私は戦わない』と言ってから沈黙した。」
■逐語訳
- サンジャヤは語った(サンジャヤ・ウヴァーチャ):語り手であるサンジャヤが、再び状況を王(ドリタラーシュトラ)に報告する場面。
- 勇士アルジュナ(フルシャルシャバ):アルジュナへの尊称。「人間の中で最高の者」といった意味。
- このように告げ(エタム・ヴァーキヤム・ウヴァーチャ):先の節での深い嘆きと懇願を述べた後。
- 『私は戦わない』(ナ・ヨーツィヤ):アルジュナの最終的な意志表明。戦うことを拒否する姿勢。
- 沈黙した(トゥシュニーム・ババーヴァ):その後は口を閉ざし、思考と感情の混沌の中に沈む。
■用語解説
- ナ・ヨーツィヤ:「戦わない(I shall not fight)」という、明確な拒絶の言葉。
- トゥシュニーム:静寂・沈黙。外的な沈黙だけでなく、内的な断絶・停止状態も含意。
- ウヴァーチャ(語った):叙事詩における重要な語り口の切り替え表現。
■全体の現代語訳(まとめ)
サンジャヤは語る。アルジュナはクリシュナに、悲しみと迷いの末、「私は戦わない」と断言し、それ以上何も語らずに沈黙した。彼は内面的な極限状態に達し、自らの意志では何も進めなくなった。その沈黙こそが、神(クリシュナ)の教えの始まりとなる。
■解釈と現代的意義
この節は、人間が限界に達した瞬間を描いています。アルジュナは考え、悩み、懇願した末、ついに「もう自分では答えが出せない」と沈黙する。この瞬間こそが、真の学び・真の変化の始まりです。
現代でも、リーダーや個人が「これ以上は分からない、動けない」と感じる場面があります。そのとき、一度立ち止まり、心を空にすることで、新たな智慧の入り口が開くという意味を、この節は静かに教えてくれます。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈と応用例 |
---|---|
決断不能の瞬間 | すべての判断材料を持っていても、感情や倫理の葛藤で動けなくなるときがある。そのときは“沈黙”が力となる。 |
リーダーの限界認識 | 「私は答えが出せない」と認めることが、チームに新しい視点や支援を呼び込むきっかけになる。 |
心の空白の必要性 | 忙しさの中でこそ、一度“思考を止める”ことで本質的な発見が生まれることがある。 |
変化の前触れ | 一時的な沈黙や停止は、内面の再構築や新しい段階への準備である。プロセスとして受け入れるべき。 |
■心得まとめ
「動けなくなったときこそ、新たな始まりが芽吹いている」
沈黙は敗北ではなく、変化への入口である。
アルジュナが「戦わない」と言い沈黙したその瞬間に、彼の心はようやく導きを受け入れる準備を整えた。私たちもまた、迷いと葛藤の末に沈黙に至るとき、そこから本当の成長が始まる。
次節(第10節)では、いよいよクリシュナの深遠な教えが本格的に始まります。
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