鋭い爪と眼を持つ鷹は、木に止まっている姿を見るとまるで眠っているように見える。
獰猛な虎も、歩いているときの姿は病人のようにゆっくりと、ふらついているように見える。
しかしそれこそが、人に飛びかかり、咬みつくための備えを秘めた本当の姿なのだ。
真の力は、油断や隙の中に潜んでいるのである。
だから、君子――人格者・本物の実力者というものは、
自分の聡明さや才気を表に出さない。
人目につくようにキラキラと見せびらかすのではなく、むしろ穏やかで自然体にふるまう。
そのようにしてはじめて、「肩鴻任鉅」――大きな責任や困難を静かに引き受ける力量を備えることができる。
つまり、本物の強さとは、静けさと控えめの中にある。
“強そう”に見せようとする者は、かえって脆い。
“力を出さずにいられる者”こそが、本当に力を持っている人なのだ。
原文(ふりがな付き)
「鷹(たか)の立(た)つや睡(ねむ)るが如(ごと)く、
虎(とら)の行(ゆ)くや病(や)むに似(に)たり。
正(まさ)に是(これ)れ、他(た)の人(ひと)を攫(つか)み、
人を噬(か)む手段(しゅだん)の処(ところ)なり。
故(ゆえ)に君子(くんし)は、聡明(そうめい)露(あら)われず。
才華(さいか)は ましからざるを要(よう)して、
纔(わず)かに肩鴻任鉅(けんこうにんきょ)の力量(りきりょう)有(あ)り。」
注釈
- 鷹立如睡(ようりつじょすい):鷹は鋭い鳥でありながら、立つ姿は眠っているかのように見える。
- 虎行似病(ここうじびょう):虎も力強い獣だが、歩く姿は弱っているように見える。
- 才華不露(さいかふろ):能力を見せびらかさないこと。
- 肩鴻任鉅(けんこうにんきょ):大きな物事を肩に担い、重責を果たす力量のこと。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
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(真の力は隠されている)quiet-power-carries-weight
(静かな力こそ重きを担う)don’t-show-off-be-the-real-thing
(見せびらかすな、本物であれ)
この条は、現代においても深く胸に刻むべき教えです。
声の大きい者や、派手に振る舞う者が目立つ時代だからこそ、“静けさの中の力”を持つ人間の価値はむしろ際立ちます。
自然体であれども、実力は確かにある――それが本物の証です。
1. 原文
鷹立如睡、虎行似病。正是他攫人噬人手段處。
故君子、聰明不露、才華不逞。纔有肩鴻任鉅力量。
2. 書き下し文
鷹の立つや睡(ねむ)るが如く、虎の行くや病(や)むに似たり。正に是れ、他の人を攫(つか)み人を噬(か)む手段の処なり。
故に君子は、聡明は露(あら)われず、才華は逞(たくま)しからざるを要して、纔(わず)かに肩鴻任鉅(けんこうにんきょ)の力量有り。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)
- 「鷹は静かに立つとき、まるで眠っているように見え、虎が歩くときも病んでいるかのように見える」
→ 油断させるほどの“静けさ”に、真の力が潜む。 - 「だが、それこそが、相手を一気に掴みかみ殺すような技を秘めた態勢なのだ」
→ 見かけに騙されるな、という教訓。 - 「だから、君子たる者は、聡明さを表に出さず、才能もひけらかさない」
- 「それによってこそ、初めて大きな任務を担い、重大な責務に耐える力量を持つのだ」
4. 用語解説
- 鷹立如睡(ようりつじょすい):鷹は休んでいるように見えるほど静かに構える。
- 虎行似病(ここうじびょう):虎は病気のようにゆったりと動くが、その内に力を秘める。
- 攫人(かくじん):人を素早くつかまえる。急襲すること。
- 噬人(ぜいじん):人をかみ殺す。鋭く攻撃すること。
- 聰明不露(そうめいふろ):聡明さを表に出さない。
- 才華不逞(さいかふじょう):才気を思いのままに振るわない。抑えて控える。
- 肩鴻任鉅(けんこうにんきょ):鴻(大きな鳥)の翼のように大きなものを背負い、鉅(大きな仕事)を任されること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
鷹は眠っているかのようにじっとしているが、その静けさは飛び立つ準備であり、虎も病気のようにゆっくりと歩くが、それは力を秘めた動きである。同じように、君子(徳のある立派な人)は、聡明さや才能をむやみに誇示せず、静かに振る舞う。それによってこそ、大きな責任を担い、重大な仕事に耐え得る本当の力量が宿るのだ。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**“真の力とは静かで控えめな姿に宿る”**という古典的な「内剛外柔」の美徳を説いています。
- “強さ”を見せびらかす者は、かえって軽く見られる
- 本当に信頼される人物とは、力を隠し持つ者
目立つことに価値があるとされがちな現代において、控えめにして本物であることの美学を改めて示してくれる一節です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「リーダーは“静かな強さ”を持て」
- 言葉でリーダーシップを誇示するより、行動と成果で信頼される人が真にチームを引っ張る。
- 実力者は黙して語らず──“陰に力あり”が本物の資質。
●「プレゼンや交渉で“見せない力”が活きる」
- 必要以上に自分の知識や実績を語るより、相手に伝わる安心感・深み・安定感が説得力を生む。
- 「押すより“引き”で惹きつける」戦略の本質。
●「才覚をひけらかすより、“任せられる人”を目指せ」
- 才能は“誇るもの”ではなく“託されるもの”。
- ひけらかさずとも、必要な場面でしっかりと応える──それが“肩鴻任鉅”の人材。
8. ビジネス用の心得タイトル
「隠す力が、真の力──沈黙の中に信が生まれる」
この章句は、競争や評価が激しい現代社会の中で、**「実力とは飾らずとも光るもの」**であることを再確認させてくれます。
- 静かに佇む鷹や虎のように、力を内に秘めた人物こそが、真の大器。
- 必要以上に「見せる」ことをせず、必要な時にこそ力を発揮することが、信頼を勝ち得る道。
企業のリーダー育成や次世代経営者へのメンタリングにも深く通用する教訓です。
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