目次
■原文(日本語訳)
第2章 第29節
クリシュナは言った。
「ある人は稀有に彼(魂)を見る。
他の者は稀有に彼のことを語る。
また他の者は稀有に彼について聞く。
聞いても、誰も彼のことを知らない。」
■逐語訳
- 稀有に見る(アーシュチャリヤヴァット・パシャティ):ごくまれに、魂の真の姿を見る者がいる。
- 稀有に語る(アーシュチャリヤヴァット・ヴァディティ):ごくまれに、魂の真理を語り得る者がいる。
- 稀有に聞く(アーシュチャリヤヴァット・シュリノティ):ごくまれに、魂について聴聞しようとする者がいる。
- 知る者はほとんどいない(シュルトヴァー・ナ・ヴェーダ):聞いたとしても、実際に理解する者はほとんどいない。
■用語解説
- アーシュチャリヤヴァット(稀有に/驚くべきことに):非常に珍しく、または驚嘆すべきほどにという意。
- 魂(アートマン):ここでの「彼」は、身体でも感情でもなく、永遠不滅の真我(自己)を指す。
- ナ・ヴェーダ(知らない):単なる情報としてでなく、真の理解・体得には至らないこと。
■全体の現代語訳(まとめ)
クリシュナはこう言います。
「魂の本当の姿を見る者はきわめて稀であり、
それを語る者、聴こうとする者、そして理解する者もまた、極めて稀である。
真の自己は、それほど深く、見抜きがたい存在なのだ」と。
ここでは、魂(真我)という存在の深遠さと、理解の困難さが説かれています。
■解釈と現代的意義
この節は、「本当の自分とは何か」を見つめ、語り、理解することの難しさを指摘しています。
それは、情報や知識として学ぶだけでは不十分で、
深い自己探求と体験、そして内面の浄化によってのみ近づける境地です。
現代社会では、表面的な“自分らしさ”や“自己表現”が重視されがちですが、
ギーターはさらに深く、「変わらない自己」に目を向けよと促します。
それは、外的成功や承認とは無関係の、静かな真実との出会いなのです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈と応用例 |
---|---|
自己認識の深化 | 本質的な自己理解(価値観・使命感)を持つ人は、ブレず、長期的視野で行動できる。 |
真のリーダーシップ | 表面的なスキルではなく、自己の本質を理解しているリーダーは、静かな信頼と影響力を持つ。 |
学びの謙虚さ | 「知ったつもり」ではなく、「まだ見えていないかもしれない」と探究し続ける姿勢が、真の成長をもたらす。 |
深い対話の価値 | 真理について「語り」「聴く」機会は稀であるからこそ、質の高い対話を大切にする文化が組織の成熟を促す。 |
■心得まとめ
「本当の自分は、見えにくく、語りにくく、聴いても理解しがたい」
それでもなお、私たちはそれを見ようとし、語り、聴き、知ろうと努める――
そこに人間の尊さと、魂の旅があるのです。
真の自己は“希少な宝”。日々の実践と内省を通してしか近づけない――それがこの節の教えです。
次の第30節では、この魂(個我)は身体を殺しても殺されることがないという、議論の締めくくりとなる主張が登場します。
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