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■引用原文(日本語訳)
「すべてのものに敵意を抱かず、友愛あり、哀れみ深く、『私のもの』という思いなく、我執なく、苦楽を平等に見て、忍耐あり、」
(『バガヴァッド・ギーター』第12章 第13節)
■逐語訳
私の愛する者は――
誰に対しても敵意を持たず(アドヴェシュター)、
すべてに友愛を抱き(マイトラ)、
思いやり深く(カルナー)、
「私のもの」との執着がなく(アナアム)、
エゴ(我執)がなく(ニラアハンカーラ)、
喜びと悲しみを等しく見て(スカ・ドゥッカ・サマ)、
そして忍耐強い(クシャミ)者である。
■用語解説
- 敵意を抱かず(アドヴェシュター):誰に対しても怒りや反感を抱かない状態。無害性。
- 友愛(マイトラ):好意的で、すべての存在に温かく接する態度。
- 哀れみ深く(カルナー):弱き者、苦しむ者への思いやりと慈悲。
- 「私のもの」という思いなし(アナアム):所有欲や独占欲の放棄。無私の境地。
- 我執なし(ニラアハンカーラ):自我(エゴ)への執着がないこと。謙虚さと柔軟性。
- 苦楽を平等に見る(スカ・ドゥッカ・サマ):幸不幸に左右されない安定した心。
- 忍耐あり(クシャミ):苦しみに耐え、他人の過ちを許容する力。精神的な強さ。
■全体の現代語訳(まとめ)
主クリシュナは、真に愛される信仰者(バクタ)とはこういう人物だと説く。
誰に対しても敵意を持たず、優しく慈悲深く、自我や執着にとらわれず、喜びも悲しみも平等に受け止め、静かに耐える力を持つ――それが霊性ある人の特徴である。
■解釈と現代的意義
この節から、理想の信愛者(バクタ)=理想の人格者の資質が列挙され始めます。
ここでは「敵意を持たず・友愛にあふれ・エゴがなく・平常心を保ち・耐える人」という、極めて高い精神性が示されます。
これは現代でも、「人格・人徳・器の大きさ」として尊敬される人物像にそのまま通じます。
他人の過ちに寛容であり、物事に一喜一憂せず、自分に執着しない――そのような人は、組織や社会でも無類の信頼を集める存在です。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
リーダーシップの資質 | 批判や不満に対して反発せず、すべてのメンバーに平等な敬意と慈愛をもって接する姿勢が、リーダーの信頼を築く。 |
人間関係の安定 | エゴや所有欲が強い人は衝突を招きやすい。無私と寛容さが、協調と持続的な関係を生む。 |
変化や失敗への態度 | 成功にも失敗にも過剰に反応せず、平静さと忍耐をもって日々を積み重ねる人物が、長期的に大きな成果を生む。 |
■心得まとめ
「敵をつくらず、己を主張せず、心静かに耐える者に、真の強さが宿る」
『ギーター』は、優れた信仰者とは「行為や信念を語る人」ではなく、「生き方そのものが愛と安定を映し出す人」だと説く。
ビジネスでも、人間関係でも、社会でも――エゴなき優しさ、喜怒哀楽に動じぬ心、そして静かな忍耐こそが、信頼と影響力の源なのだ。
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