善人というものは、日常の行動や態度が穏やかであるのはもちろんのこと、
眠っている時ですら、その魂までもがやすらかで、
和やかな気配を漂わせている。
その存在は、自然とまわりを和ませ、親しみを感じさせる。
一方で悪人は、行動や言動が乱暴で残虐であるのは言うまでもなく、
発する声や笑いにさえ、どこか殺気やとげとげしさが混じっており、
本人が隠しているつもりでも、周囲には不穏な気配として伝わってしまう。
人の本質は、作為でごまかせるものではない。
目に見える言葉や所作の奥にある「気配」が、
その人が持つ本質を、否応なく表してしまう。
だからこそ私たちは、表面的な巧言や礼儀に惑わされず、
心の深い部分にある“気”を見極める眼を養いたい。
善も悪も、自然とにじみ出る。隠し通すことなどできない。
「吉人(きちじん)は、作用(さよう)の安祥(あんしょう)なるを論ずる無(な)く、
即(すなわ)ち夢寐(むび)神魂(しんこん)も、和気(わき)に非(あら)ざるは無し。
凶人(きょうじん)は、行事(こうじ)の狼戻(ろうれい)なるを論ずる無く、
即ち声音(せいおん)咲語(しょうご)も、渾(すべ)て是れ殺機(さっき)なり。」
注釈:
- 吉人(きちじん)…心が善で、徳を備えた人物。周囲に安らぎと信頼を与える存在。
- 安祥(あんしょう)…安らかで、落ち着いた様子。穏やかな気配。
- 夢寐(むび)…眠っている間。夢の中や寝ている状態。
- 狼戻(ろうれい)…狼のように凶暴で、道理に背いた振る舞い。
- 咲語(しょうご)…笑い声。話し方ににじむ人柄。
- 殺機(さっき)…殺気やとげとげしさ。攻撃性を含む不穏な雰囲気。
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