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使者とは、主の顔であり、己の力を問われる役職である

――伝えるだけでなく、“人格”を帯びた使命を果たす者こそ本物の使者

衛(えい)の国の大夫である**蘧伯玉(くはくぎょく)**が、孔子のもとへ使者を遣わしました。
用件が済んだ後、孔子はその使者を座らせて、丁寧に問いかけました。

「蘧伯玉殿は、最近は何をなさっていますか?」

すると使者は、こう答えました。

「大夫は、自らの過ちを少なくしようと日々努力していますが、
まだ十分にできていないと反省されておられます。」

この答えを聞き、使者が帰ったあとで孔子は深く感動し、繰り返してこう言いました。

使いなるかな。使いなるかな。(これこそ本物の使者だ)」


本質:

孔子が驚嘆したのは、単に丁寧な返答ではなく、
この使者が主君の人格や志を正確かつ品格をもって伝えただけでなく、
自分自身の人柄や理解力をもって語っていた
という点にあります。

  • 使者とは単なる伝達役ではない。
  • その人を代表し、代弁し、その心までも正しく届ける役目を持つ。
  • そして、使者自身の「見識」「節度」「品格」も問われる重要な役割である。

孔子はこの一件から、「伝えることの背後にある“生きた徳”の価値」を見ていたのです。


原文とふりがな付き引用:

「蘧伯玉(く はくぎょく)、人(ひと)を孔子に使(つか)いせしむ。
孔子、之(これ)に坐(ざ)を与(あた)えて問(と)うて曰(いわ)く、
夫子(ふうし)は何(なに)をか為(な)す。
対(こた)えて曰く、
夫子は其(そ)の過(あやま)ちを寡(すく)なくせんと欲(ほっ)して、未(いま)だ能(あた)わざるなり。
使者(ししゃ)出(い)づ。
子曰く、使(し)いなるかな。使いなるかな。


注釈:

  • 蘧伯玉(く はくぎょく) … 衛の大夫。人格者として孔子も高く評価していた。
  • 使者(ししゃ) … 主君に代わって相手と接し、言葉だけでなく、その品格を体現する役目。
  • 其の過ちを寡なくせんと欲して未だ能わざる … 自らを省み、過ちを減らしたいと努力しているが、理想には届いていないという謙虚な表現。

教訓:

この章句は、代理や中継ぎの役目こそ、人格と責任が問われるという教えです。

現代で言えば、交渉人、外交官、部下としての報告役、接客・営業・窓口など、
「誰かの代表として人前に立つすべての立場」に通じる心得です。

  • 使者には「言葉の力」と同時に、「誠実さ」と「自分の判断力」も求められる。
  • 「預かり者である」という意識と、「自分の責任でもある」という自覚が必要。

1. 原文

蘧伯玉使人於孔子。孔子與之坐而問焉。曰、夫子何爲。對曰、夫子欲寡其過而未能也。使者出、子曰、使乎、使乎。


2. 書き下し文

蘧伯玉(くはくぎょく)、人を孔子に使(つか)いせしむ。
孔子、之(これ)に坐(ざ)を与(あた)えて問いて曰(いわ)く、
「夫子(ふうし)は何をか為(な)す。」
対(こた)えて曰く、
「夫子は其(そ)の過(あやま)ちを寡(すく)なくせんと欲して、未(いま)だ能(あた)わざるなり。」
使者出(い)づ。子曰く、
「使(し)なるかな。使なるかな。」


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

「蘧伯玉、人を孔子に使いせしむ」
→ 蘧伯玉が使者を孔子のもとに遣わした。

「孔子、之に坐を与えて問う」
→ 孔子は使者に席を与え、礼をもって迎え、質問した。

「夫子何を為すや」
→ 「あなたのご主人(=蘧伯玉)は、日々どんなことをしておられるのか?」

「対えて曰く、夫子はその過ちを減らそうと努めているが、まだうまくできていない」
→ 自省しようとしているが、なかなか思うようにはいかないと謙遜の返答。

「使者出づ」
→ 使者が退出した。

「子曰く、使なるかな。使なるかな」
→ 孔子は言った:「立派な使者だ、立派な使者だ(よく人の徳を伝えている)。」


4. 用語解説

  • 蘧伯玉(くはくぎょく):衛国の賢臣。孔子がしばしば称賛する人物。人格高潔で知られる。
  • 使者(ししゃ):主人の意向を正しく伝えるべき人物。
  • 過ちを寡なくす(すくなくす):自らの過ちを減らすこと。人格修養の実践。
  • 使なるかな:使者の鑑であるという称賛。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

衛の賢臣・蘧伯玉が、孔子のもとに使者を遣わした。
孔子は使者を丁重に迎えて尋ねた:

「あなたのご主人は、普段どんなことをされているのですか?」

使者はこう答えた:

「主人は、自らの過ちを少なくしようと努力していますが、まだ思うようにはいかないようです。」

使者が去った後、孔子はつぶやいた:

「見事な使者だ。見事な使者だ。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「謙遜の美徳と、代弁者の品格」**を教えるものです。

  • 蘧伯玉は、自らの徳を誇ることなく、「過ちを減らそうとしているがまだできない」と謙虚に表現した。
  • 使者もまた、主君の徳を適切に伝え、奢らず飾らず、誠実に務めを果たした
  • 孔子はその使者の「誠実な報告ぶり」に感嘆した。これは、表現を任される者のあり方への賛辞でもある。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

✅「謙遜こそが本物のリーダーの証」

  • 蘧伯玉のように、自らの未熟さを自覚し努力を続ける姿勢が、部下や周囲の信頼を生む
  • リーダーが「完璧な自分」を演出せず、「成長過程にある姿」を示すことで、共感と共創が生まれる。

✅「報告・代弁の場面では、“美辞麗句”より“誠実な言葉”が信用を築く」

  • 使者が主人を飾り立てず、等身大の姿を伝えたことで、孔子から高評価を受けた。
  • プレゼン、報告、広報の場面でも、「実直さ」「正直さ」「等身大の語り」は長期的な信頼につながる。

✅「代弁者・中間役は、人格が問われるポジション」

  • 単なる伝達役ではなく、“信頼を運ぶ存在”として機能する人材は、組織に不可欠。
  • 孔子の「使なるかな」は、誠実に人を伝える者への最大級の賛辞

8. ビジネス用の心得タイトル

「飾らず、伝える──謙遜と誠実が信頼を運ぶ」


この章句は、現代におけるリーダーの在り方・代理者の役割・組織内のコミュニケーション倫理
に深く通じる教訓を含んでいます。


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